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エピローグ

祝福という名の呪いと共に①

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 今日中に片付けなければならない執務がひと段落し、僕は愛しいクラリスが待つ彼女の為だけに誂えた部屋へと向かう。
 自分でも気がつかない内に足取りが軽くなっていたようで、執務室から彼女の部屋まで少し距離があるはずなのに、あっという間に目的の部屋へたどり着いた。
 毎日色のない世界をただ事務的に生きていても、クラリスに会えるというだけでこんなにも心が躍る。
 僕ははやる気持ちを落ち着かせ、そっと部屋の扉を押し開けた。


 部屋に設置されている寝台は眠り続けるクラリスの世話をしやすいように細部までこだわって職人に制作を依頼した物だ。
 寝台で眠っている彼女は、いつだって穏やかな表情をしている。

「クラリス、会いにきたよ。君に一秒でも早く会いたくて、急いで仕事を片付けてきたんだ。さぁ、今日はどんな話をしようか」

 僕がどれだけ話かけようとも、クラリスがそれに応える事はない。
 あの卒業パーティーの日からずっと変わらない、僕達の日常の光景だ。

「今城下では僕達の今回の一件がモデルになった演劇や恋愛小説が人気を博していてね、その影響は国内に留まらず、他国にまで及んでいるみたいだよ」
「……」
「世間では僕達の事を【愛の試練に打ち勝った真実の恋人】だなんて呼ばれているんだって。本当に好き勝手言ってくれるよ。僕もクラリスも、望んであの状況になったわけじゃないのにね?」

 僕はクラリスに話かけながら、彼女の長く美しい金の髪にそっと触れ口付ける。

「ねえ、クラリス。僕は、君がいない世界でまともに呼吸をする事も、満足に眠る事も出来ないんだ。あの日……あの日僕は君を一人にするべきではなかった。クラリスにいくら謝罪しても時間を巻き戻せないのは分かっているけれど、僕はどうしてもあの日の自分を許せないんだ」

 眠るクラリスの手をそっと握りしめ、祈るように額を近づける。

 「君が好きだと言ってくれたあの頃の僕はもういないけれど、その代わり誰よりも君を愛している僕は変わらず、ずっと傍にいるからね。今度こそ生涯君を守ると誓うよ」
 
 幼い頃から僕の人生においての目標だった父上やおじい様のような賢王になる夢は、あの瞬間手放してしまったけれど、不思議と後悔はないんだ。
 そもそも賢王になりたいという夢だって、クラリス……君が隣にいて初めて叶えられる未来だったのだから。

 普段と変わらず穏やかに眠るクラリスに今日あった出来事や、失敗してしまった事、そして僕がどれだけクラリスを愛しているか思い出話を話して聞かせ、僕達の逢瀬の時間は過ぎていった。

「また後で会いに来るから。いい子で待っていて」

 クラリスの頭をそっと撫で、僕は部屋を後にした。
 まだやり残した執務を片付ける為、執務室へ向かう道を足早に進んでいく。
 ふと、僕の……僕がクラリスに向ける想いは今でも“愛”と呼べるのだろうかと考える。
 もしかすると僕がクラリスに向ける想いは、もう“愛”などと綺麗な言葉で呼べるものではなくなってしまったのではないだろうか。
 歩きながらリアムが言った言葉を思い出す。
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