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しおりを挟む婚約者の、楽しそうな話し声が聞こえてくる。
話している相手は私ではない。婚約者の傍らには、とても愛らしい少女が寄り添っている。
学園に入学してから、彼の側にはずっとその少女がいる。本来ならその場所は、私がいるはずなのに……
入学前は、それなりに仲睦まじくしていたように思う。
相手も私を尊重し、敬意を示してくれていた。でも学園に入学し、あの少女と出会ってから彼は変わってしまった。
いや、最初から何も変わっていなかったのかもしれない。今思えば、私といる時はあんなに楽しそうに笑ったりなんてしていなかった。あくまで義務として接していたのだと、今なら分かる。
彼の優しく微笑む笑顔が好きだった。例え義務として接してくれていたとしても、私は幸せだった。
でも、もう現実を受け入れる時なのだと思う。
だって私には一度もあんなに楽しそうに……親しげに接してくれた事などなかった。それでも信じていた。
婚約者は自分なのだと。最終的に彼の隣に立つのは、私なのだと……
一体、何を勘違いしていたのだろう。甘い言葉も、愛してるの言葉でさえ一度ももらった事などなかったのに。
「ははっ」
乾いた笑い声が漏れる。
もういいだろう。
ここまで頑張ったし、歩み寄る努力もした。
どんなに悪者にされても、やってもいない嫌がらせをしたと婚約者に責められても、一度も砕けた事のない心が砕け散る音がした。
「さようなら、アルバート様。大好きでした」
そう呟いた声は風にかき消され、誰にも届かず消えていった。
涙が溢れるのを止める事が出来ないが今日くらいは許してほしい。今日で終わりにするから……
涙をそっと拭い、決意を新たに私はその場を後にした。
父に婚約解消を申し出る為に——
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