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ー第2部ー 元には戻れない現実

ー第8話ー 向けられた悪意

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高校二年も早二学期。このまま望んだ日常が続くと思っていた。
尤も未だ胸の不快感等は消えてなく、厄介な日常もまた続いている。
それは本当に突然だった。いつも通りと言える放課後の教室。ホームルームも終わったので屋上にと思っていた。
「おいっ!。」
不意に横から聞こえて来る声。何?と思って椅子に座ったまま視線を変えると目の前に一人の男子生徒。
その男子生徒に気を取られている内に複数人の男子生徒に僕は囲まれていた。
「えっ!、何?。」
訳も解らず僕は囲んでいる男子生徒逹を見る。当然だけど知っている顔は居無い。
ただ全員に共通しているのは何故か怒っているという事をその表情から理解出来たというだけ。
「テメェよぉ!。去年随分調子に乗ってたらしいな?。
 しかも今年になっても舐めた態度を止めてねぇ。巫山戯てるのかよ。」
「は?。」
全く以て意味の解らない事が耳に届く。しかし次の瞬間「なにがは?だっ!。」と怒声が飛び、
僕は座っていた椅子ごと蹴り飛ばされていた。その周りの机や椅子を巻き込んだのですごい音になっていた。
「うぅ・・・・ぐっ!。」
蹴り飛ばされた事もだったけど、巻き込まれた机や椅子にぶつかったために身体中が痛い。
「テメェが去年、女と四六時中ヤッテたってたて話し。知られてないと思っていたのか?。
 んでもって今年はテストで人を馬鹿にした事をしやがって。ホントに巫山戲てるなテメェ。」
は?。何だそれ?。女って、彼女の事?。で、何で四六時中ヤッテたなんて話しに?。
それにテストで巫山戲た事をやったって何の事?。
そう思っている内にまた蹴られた。今度は複数人から何度も何度も。
それがどの位続いたのか。気が付くと僕を囲っていた男子生徒逹の姿は無く。
ただ無秩序に荒らされた教室の有り様と、倒れている僕だけとなっていた。
それから僕は体を動かせずにいた。あまりの痛みから・・・・。
一人の教師に発見され、一騒ぎになるまでこの状態は続いた。
その後僕は保健室に運ばれ、教師逹に色々聞かれた。けど何も答えられなかった。
そもそも誰にやられたのか、それが解らなかった。普通なら同級生、クラスメイト、そういうのが出てくると思う。
でも僕はそういうのを一切知ろうとはしなかった。
ただ今言えるのは同じ学校の生徒かもしれない人達にやられた。それだけだった。
それでは意味は無いだろう。尤も、暴力を受けた事だけでも話す意義はあったかもしれない。
けど、この時の僕にそんな考えは無かった。
そして教師逹の話しの中に両親の名前が出ていた。
大方連絡が着かないというところだろう。いつもの事だ。
教師逹が騒いだ事もあってか、しばらくは僕の周りは静かになっていた。但し、暴力的な意味で。
この一件から警戒心を強めてきた。だからこそ気付いた。視線がやけに僕に集中していると。
それが気のせいではないと証明出来たのは時折聞こえて来るひそひそ話の内容だった。
その内容の多くが僕を蹴った男子生徒が言っていた事と同じだった。
初めてそれを聞いた時から思ったけど、僕と彼女の件は随分と話しが飛躍しているし、嘘も混ざってる。
そもそも何処からこの話しが流れたのか。教師逹ではないと思いたいけど・・・・。
そしてテストの事。多分一学期の中間試験、期末試験、そのどちらか、もしくはその両方。
どちらにしてもどういう事か全く意味が解らない。
誰とも関わらない、一人で居る。まさかそれがこうも仇になるなんて。
けど、どうしようとも今更だ。なんとかしないと。
出来るのか?。不意にそう思ってしまう。でも僕一人に対し向こうは多数。当然の疑問だった。
そして考えている内にも事態は勝手に動いていく。
ようやく静かになったと思っての放課後の屋上、複数の足音に気付いた時にはもう手遅れだった。
まだ体の痛みは残っている。まだ不自由さの残る動きでは近付いて来る男子生徒逹から逃げるのは無理だった。
「へぇ、良い場所知ってんじゃねぇか。クソの隠キャ野郎。」
何時の間にか何人かの男子生徒に僕は捕まっていた。どうにか逃げようとするけど力が入らない。
「なぁ、何でテメェみたいな隠キャが女とヤレてんだよ。普通逆だろ?。
 俺達が女とヤレて童貞卒業して、お前みたいな隠キャは一生童貞。それが常識だろ。」
「意味が・・・・解らない・・・・。」
複数の男子生徒によって屋上のコンクリート床に押し付けられた状態でこの会話をしていた。
ほんとに、何だその理屈は。僕が隠キャだというのは理解出来るし、自覚している。
でもだからといってこうも好き勝手言われるのは納得出来ない。
しかも言い掛かりが明らかに混ざっている。それでこんな目に会うなんて。
しかし、こいつらにとってそんな理屈はどうでも良いようだった。
床に押し付けられていたのが今度は起こされたと思うとその内の一人が殴って来る。
そしてそれを始めとして周りからの殴る蹴るが始まる。
「おいっ!、何をやっている。」
集団暴行が始まってからそれ程時間が経っていなかったと思う。
大人と思える怒鳴り声が聞こえ、僕の周りの男子生徒逹は「やべっ。」とか言いながら散々になっていた。
但し、この時僕は殆ど意識を失っていて。ぼやけた視界でこの有り様を見ていた。
そしてどの位時間が経ったのか。意識を失った中では解らない。
ただ戻った意識の中で目に写ったものに見覚えがあった。そして同時に移動させられたと分かる。
「教頭?。」
「はい。久し振りですね。」
なんか見覚えがあると思ったが、彼女の父親の時と同じものを見ていると感じていた。
確かあの時も一回意識を失って、いまと同じ状況で意識を取り戻したんだった。
尤も、体のダメージは今の方が遥かに大きい訳だけど。
「大分、手酷くやられた様ですね。」
「・・・・・・。」
また返事が来ると思っていたのか、少し間が開いた。けど・・・・。
「何で君がこんな目に会っているのか、知りたいですか?。」
「えっ・・・・ぐっ!。」
教頭の言葉に驚き、つい声が出る。けどすぐに体の痛みに襲われる。
「おっと。あまり喋らせない方が良いようですね。
 つい少し前に救急車を呼びました。それ程君の状態は良くありません。
 ですからそのまま救急車が来るまで僕の話しを聞いて下さい。」
そこからの教頭の話しの中でどうしててか彼女の父親の名前が出ていた。
もう関係もないのにどうしてと思っていると、そうではないと知る。
現在、僕の身の回りに起きている事のきっかけとなった”噂話し”。それを彼女の父親が流したという。
「一応注意というものは本人にしたのですが。
 坂道を転がる石の如くといったところで。事態に気付いた時には歯止めが効かない状態という事です。」
先の彼女との一件。僕の言い分は結局信じられていない。けどそれは彼女の父親も同じだったのかもしれない。
どちにしても彼女の父親のやっている事が度の過ぎているものと判断した教頭が止めに入ったが、
時すでに遅く。制御不能の状態になっていたという事のようだ。
「それで、君にお願いがあります。この後短期の入院となると思います。
 その期間も含めてしばらくの間、休学してほしいのです。文字通りほとぼりが冷めるまで。」
教頭の言葉に事をこれ以上大きくしたくない、といのが含まれていると感じた。
「残念ながら僕達側にそういった事の強制力はありません。ですからお願いします。」
大の大人が・・・・と驚いてしまう。それ位深く頭を下げ僕に言う教頭。
言いたい事は解るし、実行出来ればどれだけ良いかと僕もおもう。
けど教頭の言った通りにすれば、今度は僕の両親が騒ぎ出すと予想出来る。
そうなれば現状と大差無い程厄介な事になると予想出来た。
小学校時代、一時不登校になった事があった。原因は今と同じイジメ。
その時僕の両親は僕、イジメた側の親と子、教師を巻き込んでの強制的な修羅場にした。
暴力こそ無かったが、あまりに酷い暴言の数々に僕の方が転校を余儀なくされていた。
そしてその事での暴言は僕にも来ていた。
その事を考えると教頭の頼みはきけはない。両親の厄介事を避ける為にも。
解決する術が見つかった訳でもない。けどどうにかするしかない。
色々考えている内に救急車が来たと音で知る。
こうして僕は一時の平穏を手に入れた。
けどその後に悪夢が、始まったばかりの地獄が待っている・・・・・間違いなく。
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