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第十一章 ルリとミナセ、ピンチ!

(三)

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 暗い闇の中をさまよっていた。

(わたし、なにをしていたんだっけ)

 頭の中に霧がかかったみたいに、ぼんやりしている。なにも思い出せない。だけど、ひどく身体が重かった。

『ルリ』

 声が聞こえた。

 呼んでる。この声は、ミナセだ。だけど、いつもおだやかな声が、いまは弱々しい。

『ルリ』
『ルリ』

 どうして、そんなに苦しそうな声で呼ぶんだろう。ミナセが泣いているのは、いやだ。声につられるように、わたしはゆっくりと、目を開いた。

「ルリ!」
「……みな、せ……?」
「あ! よかった、ルリっ!」
「うわあっ⁉」

 目を開けたとたんに、ぎゅうっと抱きつかれておどろいた。その衝撃に、一気に頭の中の霧も吹き飛んでしまう。

「ミナセ、ちょっと、いたい、いたいって!」
「あ、ごめん」

 背中をばんばんたたくと、ようやくミナセは身体を離してくれた。だけど、ぺたぺたとわたしの頬や頭をさわって、心配そうに聞いてくる。

「大丈夫? 痛いところ、ない?」
「いま、ミナセに抱きつかれて痛かった」
「ご、ごめん。それ以外は?」
「だいじょう、ぶ……」

 つぶやきながら、わたしははっと気づいた。

(そうだ、わたし、ルークさんに剣で斬られたんだ!)

 あわてて斬られた胸のあたりを確認した。だけど、あれ、と首をかしげる。傷がない。それどころか、服も破れていない。

「なんで?」
「剣の峰で斬られたみたいだね。魔法で衝撃は強かったみたいだけど、怪我はしていないみたい」

 峰っていうのは、剣の斬れない側のことだ。だから、助かったみたい。

 ほっとため息をつく。

「死んじゃうかと思った……」
「ほんとだよ! ルリのばか!」

 ほっとしたのもつかの間、険しい顔をしたミナセに肩をつかまれる。

「かばってくれたのは助かったけど、でも、ルリが怪我したり死んじゃったりしたら、なにも意味ないだろう!」

 ミナセは怒っているような、泣きそうな、必死の顔をしていた。こんなあせったミナセを見るのは、はじめてだ。

(心配、かけちゃったんだよね)

 じわっと心がしめつけられて、泣きそうになる。もしかしたら、死んでいたかもしれないって怖さと、ミナセが無事だったことの安心と、こんなにミナセに心配をかけたことへの申し訳なさで、胸がいっぱいになった。

「ごめん、ミナセ。でも、ミナセが生きててよかった。肩、平気?」

 狼に噛みつかれていたはずだ。

「たいしたことないよ。……ルーク殿が、手当てしてくれたんだ」

 え?

「ルークさんが? なんで?」
「モーリスさまの使用人を死なせると面倒だから、って言ってた」

 ミナセの肩には、白い包帯がぐるぐると巻いてある。自分の使い魔に襲わせておきながら、手当てしてくれたんだ。それは不思議だったけど、でもなにより、安心した。

「……よかった、ミナセが無事で」

 目の奥が熱くなって、思わず、涙があふれる。ミナセは目を見開いて、困ったような顔をした。手をのばして、わたしの涙を拭ってくれる。

「ぼくこそ、ルリが無事でよかった。助けてくれて、ありがとう」
「うん」
「……でも、あまりいい状況じゃないんだ」
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