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第一章 宝石店の娘と、きれいな少年
(一)
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きらきら輝く宝石のアクセサリー。
バラみたいな、赤い宝石のブローチ。海みたいな、青色のイヤリング。森の木々みたいな、緑色の指輪。
「はぁ~、すごい。ずっと見ていたい」
母さんと父さんがつくるアクセサリーは、みんなすてきで、うっとり……。
「ちょっとルリ! はやく宝石届けに行ってきて!」
「わっ」
いきなり聞こえた母さんの声に、わたしはびくっと飛び跳ねる。
「モーリスさまがお待ちなんだから、ほら、さっさと行く!」
「は、はーい!」
あわてて宝石たちを専用の箱に詰めて、いってきまーす、と家を飛び出す。
……でも、その前に!
お店の奥にある、母さんの工房をのぞいた。
母さんは、桃色の宝石を机に置いて、両手をかざしている。宝石は採れたての、ごつごつした石の状態。でも母さんが力をこめると、ふわっと淡い光に包まれて、その姿が変わっていく。宝石は、あっという間に小さな花の形になった。
母さんは休むことなく、ビンに入っていた金色の液体を、宝石に巻きつけていく。それは宝石の縁を美しくかたどって、チェーンになって……。ネックレスの出来上がりだ。
「わあ、かわいい!」
思わず声を上げると、母さんはさっとふり向く。
(あ、まずい)
ひやっとした次の瞬間、母さんは目をつりあげて大声で怒鳴った。
「早く行きなさいって言ったでしょう、ルリ!」
「ご、ごめんなさい、いってきますーっ!」
*****
王都からちょっと離れた田舎町に、夏の風が吹く。レンガ作りのおしゃれな家やお店が並ぶ大通りを、太陽のまぶしい光が照らし出す。わたしの実家『ジュエル・フェアリー』も、そんな通りにあるお店のひとつ。
ジュエルは宝石、フェアリーは妖精。だから『妖精の宝石』って意味だ。
その名のとおり、母さんと父さんは、宝石のアクセサリーをつくって売っている。ふたりのつくるアクセサリーはみんな、かわいくて、街でも大評判。
そしてそして、『ジュエル・フェアリー』のひとり娘がわたし、ルリだ。今年十二歳になって、母さんたちに教えられながら魔法を勉強中! 青い宝石みたいな瞳が自慢の、ジュエル・フェアリーの看板娘なんだよ。
『いつか、わたしのつくったアクセサリーで、みんなを笑顔にしたい!』
それがわたしの夢。
(まあ、まだまだ、きれいなアクセサリーをつくることはできないんだけどね……)
わたしに任せられる仕事といえば、宝石をお客さまにお届けすることばかり。正直言えば、つまんない。めちゃくちゃ、つまんない!
でも、配達だって、立派なお仕事だ。しっかりやらなきゃね。
わたしは宝石のつまった箱を大切に抱え直して、石畳の道を小走りで進んだ。
そのときだ。
どさっ。
なにかが倒れる音がした。
「うっ……」
しかも、うめくような声まで!
(えええ、なになに⁉ もしかして、だれか倒れてる⁉)
「あ、あのー……、だれかいますかー?」
おそるおそる、大通りから一本入った小道に顔をつっこんだ。多分、声はこっちからしたと思うんだよね。するとやっぱり、暗くて細い道に、倒れているひとを発見!
「わ、ちょっと、大丈夫⁉」
あわてて近寄ってみると、わたしと同じ年くらいの男の子だった。その子が顔を上げる。
(わあ……)
赤い髪はちょっとくせがあって、つんつんしている。肌は真っ白、鼻筋は高いし、瞳はきりっとしたつり目。その瞳は、宝石みたいに赤くてきらきらだ。すごい、きれいな子……。
(って、ちがうちがう! 倒れてるんだから、見とれてる場合じゃない!)
「大丈夫? 体調悪いの? 平気?」
とにかく彼を起こそうと、わたしは手を伸ばした……んだけど、
「さわるな!」
男の子は動物みたいにすばやい動きで跳ね起きて、わたしを突き飛ばした。そのせいで、わたしは地面に倒れこみ、手から箱が落ちる。さらにはフタが開いて、宝石のいくつかが転がり出した。
「あああっ、うそ! 大事な商品なのに!」
商品に傷がついてしまったら、大変だ! せっかく、お客さまが楽しみに待ってくれているんだから。それに、母さんたちがていねいにつくったものを、壊すなんて、いや。真っ青になって宝石を拾うわたしを見て、男の子は「あ」と眉を寄せた。
「悪い、つい……」
そう言って落ちた宝石に手を伸ばす。だけど、拾い上げる前に、はっと顔をあげた。キョロキョロとあたりを見ている。まるで、なにかにおびえているように。思わずわたしも手を止めて、男の子を見た。
「なに? どうかした?」
「いや……、ほんと悪かったな! じゃ!」
言い終わらないうちに、男の子はすばやく走っていってしまった。あまりにもあっという間に、小道の奥に消えてしまう。
(なに、あれ)
「って、ダメだ、いまは仕事!」
ぶんっと首をふって、宝石を拾い集める。ひとつひとつ傷がないことを確認して、土やほこりをスカートで払っては、箱にしまい直す。
「よかった、宝石は無事みたい……」
ほっとして、今度こそしっかりと箱を抱きかかえて、大通りにもどる。
(でもあの子、本当にきれいな赤い瞳だったな)
もしかしたら、宝石より、もっときれいだったかも。その赤色を忘れられないまま、わたしはモーリスさまのお屋敷に向かった。
――宝石の数が合わないことに、気づかないまま。
バラみたいな、赤い宝石のブローチ。海みたいな、青色のイヤリング。森の木々みたいな、緑色の指輪。
「はぁ~、すごい。ずっと見ていたい」
母さんと父さんがつくるアクセサリーは、みんなすてきで、うっとり……。
「ちょっとルリ! はやく宝石届けに行ってきて!」
「わっ」
いきなり聞こえた母さんの声に、わたしはびくっと飛び跳ねる。
「モーリスさまがお待ちなんだから、ほら、さっさと行く!」
「は、はーい!」
あわてて宝石たちを専用の箱に詰めて、いってきまーす、と家を飛び出す。
……でも、その前に!
お店の奥にある、母さんの工房をのぞいた。
母さんは、桃色の宝石を机に置いて、両手をかざしている。宝石は採れたての、ごつごつした石の状態。でも母さんが力をこめると、ふわっと淡い光に包まれて、その姿が変わっていく。宝石は、あっという間に小さな花の形になった。
母さんは休むことなく、ビンに入っていた金色の液体を、宝石に巻きつけていく。それは宝石の縁を美しくかたどって、チェーンになって……。ネックレスの出来上がりだ。
「わあ、かわいい!」
思わず声を上げると、母さんはさっとふり向く。
(あ、まずい)
ひやっとした次の瞬間、母さんは目をつりあげて大声で怒鳴った。
「早く行きなさいって言ったでしょう、ルリ!」
「ご、ごめんなさい、いってきますーっ!」
*****
王都からちょっと離れた田舎町に、夏の風が吹く。レンガ作りのおしゃれな家やお店が並ぶ大通りを、太陽のまぶしい光が照らし出す。わたしの実家『ジュエル・フェアリー』も、そんな通りにあるお店のひとつ。
ジュエルは宝石、フェアリーは妖精。だから『妖精の宝石』って意味だ。
その名のとおり、母さんと父さんは、宝石のアクセサリーをつくって売っている。ふたりのつくるアクセサリーはみんな、かわいくて、街でも大評判。
そしてそして、『ジュエル・フェアリー』のひとり娘がわたし、ルリだ。今年十二歳になって、母さんたちに教えられながら魔法を勉強中! 青い宝石みたいな瞳が自慢の、ジュエル・フェアリーの看板娘なんだよ。
『いつか、わたしのつくったアクセサリーで、みんなを笑顔にしたい!』
それがわたしの夢。
(まあ、まだまだ、きれいなアクセサリーをつくることはできないんだけどね……)
わたしに任せられる仕事といえば、宝石をお客さまにお届けすることばかり。正直言えば、つまんない。めちゃくちゃ、つまんない!
でも、配達だって、立派なお仕事だ。しっかりやらなきゃね。
わたしは宝石のつまった箱を大切に抱え直して、石畳の道を小走りで進んだ。
そのときだ。
どさっ。
なにかが倒れる音がした。
「うっ……」
しかも、うめくような声まで!
(えええ、なになに⁉ もしかして、だれか倒れてる⁉)
「あ、あのー……、だれかいますかー?」
おそるおそる、大通りから一本入った小道に顔をつっこんだ。多分、声はこっちからしたと思うんだよね。するとやっぱり、暗くて細い道に、倒れているひとを発見!
「わ、ちょっと、大丈夫⁉」
あわてて近寄ってみると、わたしと同じ年くらいの男の子だった。その子が顔を上げる。
(わあ……)
赤い髪はちょっとくせがあって、つんつんしている。肌は真っ白、鼻筋は高いし、瞳はきりっとしたつり目。その瞳は、宝石みたいに赤くてきらきらだ。すごい、きれいな子……。
(って、ちがうちがう! 倒れてるんだから、見とれてる場合じゃない!)
「大丈夫? 体調悪いの? 平気?」
とにかく彼を起こそうと、わたしは手を伸ばした……んだけど、
「さわるな!」
男の子は動物みたいにすばやい動きで跳ね起きて、わたしを突き飛ばした。そのせいで、わたしは地面に倒れこみ、手から箱が落ちる。さらにはフタが開いて、宝石のいくつかが転がり出した。
「あああっ、うそ! 大事な商品なのに!」
商品に傷がついてしまったら、大変だ! せっかく、お客さまが楽しみに待ってくれているんだから。それに、母さんたちがていねいにつくったものを、壊すなんて、いや。真っ青になって宝石を拾うわたしを見て、男の子は「あ」と眉を寄せた。
「悪い、つい……」
そう言って落ちた宝石に手を伸ばす。だけど、拾い上げる前に、はっと顔をあげた。キョロキョロとあたりを見ている。まるで、なにかにおびえているように。思わずわたしも手を止めて、男の子を見た。
「なに? どうかした?」
「いや……、ほんと悪かったな! じゃ!」
言い終わらないうちに、男の子はすばやく走っていってしまった。あまりにもあっという間に、小道の奥に消えてしまう。
(なに、あれ)
「って、ダメだ、いまは仕事!」
ぶんっと首をふって、宝石を拾い集める。ひとつひとつ傷がないことを確認して、土やほこりをスカートで払っては、箱にしまい直す。
「よかった、宝石は無事みたい……」
ほっとして、今度こそしっかりと箱を抱きかかえて、大通りにもどる。
(でもあの子、本当にきれいな赤い瞳だったな)
もしかしたら、宝石より、もっときれいだったかも。その赤色を忘れられないまま、わたしはモーリスさまのお屋敷に向かった。
――宝石の数が合わないことに、気づかないまま。
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