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第二章 お嬢様たちは本の虫
第8話 無理は禁物
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宮廷の茶会まであと二週間。
「お嬢様、今日は休んでください。これ以上悪化したら困ります」
かすれた声でそうねと呟くお嬢様の額に浮かんだ汗をそっと拭きとった。体調が悪いのは明白だった。屋敷にこもっていたお嬢様が、急に外出の連続なんて、疲れてしまったのだろう。それに、屋敷で勉強やダンスの練習も、休まずしていた。疲れが爆発したらしい。
「寝込んでいる時間なんてないのに……」
「パッサン卿にはしばらく訪ねられないと、手紙で伝えてあります。まずはしっかり休んで、体調を戻すことをお考えください」
渋々という顔でお嬢様は頷き、目を閉じた。寝息が聞こえるのを確認して、退室する。調理場ではマリーがそわそわとして待っていた。
「リーフさん! お嬢様のお加減はいかがですか?」
「今、眠られたところ。熱も高くないから、一日休めば大丈夫よ」
「そうですか、よかったー」
そう言いつつも落ち着かない様子のマリーに、私は雑巾を手渡した。マリーがきょとんと見上げてくる。
「最近外出が多くて掃除できていなかったから、いい機会だし、屋敷の大掃除をしましょう」
動いている方がマリーも気が紛れるだろうし。私たちは掃除道具を持って廊下に出た。
「リーフさん、毎日のように図書観に行かれてますもんね」
「しつこく通うしか、手がないから。でも、そのおかげかパッサン卿とも少しずつお話ができるようになってるのよ」
ある日は「また来たのか」と睨まれ、ある日は「しつこい」と扉を閉められる。それを会話と言っていいのかは謎だけど、居留守を使われる回数は減った。
「おじいちゃんも、若い女の子にはたじたじなのかもしれないですねー」
マリーはくすくすと笑って、掃除のために腕まくりをする。
「私がいない間、お嬢様の様子はどうだった?」
「ずっと頑張っていらっしゃいますよ。お一人でダンスの練習も励んでらっしゃいます。私が相手役になれればいいんですけど、あいにくダンスは専門外で……」
「ダンスの先生も見つけないといけないかもね。でもまずは、掃除を完璧に行いましょう」
窓枠に指を這わせると埃がついた。毎日マリーが掃除をしているけれど、一人で手が回るわけもない。ほら、と指先をみせるとマリーは眉をひそめた。
「リーフさん、お姑さんみたいですよ!」
「おばあちゃんの次はお姑さん? 失礼ね。さあ、始めましょう」
○○○○
日が暮れるまで掃除をして、まずまずといった様子に仕上がった。
「もう疲れました。一生分の掃除をした気がします」
「大袈裟ね。まあ、頑張ったことだし、お茶でも飲みましょうか」
「そうしましょう」
ふらふらとマリーは調理場に向かう。すっかり疲れ切っているようだ。ちょっとしたご褒美でもあげようかとポケットを探ったとき。
「ごきげんよう。お二人とも、ずいぶんとお疲れのようですね」
銀髪優男のジルが顔をのぞかせた。お嬢様の妹君に仕える、使用人。
――相変わらず、胡散臭い笑顔。
顔をしかめる私の横で、マリーは慌てて背筋を伸ばした。マリーは彼のファンなのだ。
「ジルが別館に、なんの用です?」
「門の外にお客様がいらっしゃったので、お連れしました」
「お客様って――、エマとレオン? どうしてここに」
ジルの背中から顔をのぞかせたのは、パッサン卿の孫娘だった。こんばんは、と一礼するとポニーテールが揺れる。さらにその後ろには、街の少年レオンがいた。せわしなく視線を行ったり来たりさせて落ち着きがない。
「こちらのご令嬢はパッサン・リアル卿のお孫様とのことで、お連れしました。少年もあなたたちのお知り合いのようですから、問題ありませんね? たしかにご案内しましたから、俺はこれで」
ジルはすらすらと述べると、一礼して背中を向ける。
「あ、ありがとうございました! 二人をここまで案内してくれて――というか、急いでいるようですが、何かありました?」
慌てて声をかけると、彼は振り返った。いつもゆったり構えているジルにしては、慌ただしい態度だった。彼はエマやレオンをみて、一瞬考えるような目をしてから私を手招く。不思議に思いながら近づくと、顔を寄せて耳打ちされた。
「実はライラお嬢様が体調を崩されているので、お側についておきたいんです」
「ライラ様が?」
「そこまでひどい調子ではないですけど、念のため。――協力者のリーフには一応、伝えておきますが、お嬢様は体が強くありません。度々、体調を崩されるんです」
そんな話、聞いたことがなかった。ライラ様はいつでもにこにことしていて、弱い部分なんて見たことがない。
「――そういうことですので、俺はそろそろ行きますね」
「はい……、ありがとうございました」
一礼して去っていくジルを見送ってから、私はエマとレオンに向き直る。ライラ様のことも気になるが、まずはこの二人についてだ。
「どうして二人がここに? 二人とも知り合いだったんですか?」
「ああ、いや、これは違うんです。彼とは今日はじめて会ったんですけど」
何から話せばいいのやら、という様子でエマは困り顔をして眼鏡を押し上げた。
「ひとまず、レイチェル様の体調はいかがですか? 私、今日はお見舞いにきたんです。じいちゃん宛ての手紙を読んで、心配になって。すみません、断りもなく屋敷を訪ねるのは失礼かと思ったんですけど」
「いいえ。こちらもパッサン卿の研究室には無断で訪ねていますし、お相子です」
それもそうですね、とエマが笑う。パッサン卿に手紙を出したのは今朝だから、手紙を読んですぐに来てくれたのだろう。
「お嬢様は寝ているかもしれませんから、一度様子を見てきます」
お嬢様の部屋をノックすると、返事があった。すでに目が覚めていたようだ。エマとレオンが訪ねてきたことを伝えると不思議そうな顔をして、部屋に通すようにと言われた。全員がお嬢様の部屋に揃うと、まずはエマが「大丈夫ですか?」と切り出した。
「わたくしは大丈夫よ。わざわざ見舞いに来てくれたのね。ありがとう。――あなたも見舞いに?」
お嬢様が声をかけると、「ひゃい」という謎の返事をしてレオンは肩を震わせた。せわしなく視線が行ったり来たりする。
「えっと、僕はエマから話を聞いて、その、すみません……、僕みたいな庶民がお屋敷に来るなんておこがましいと思ったんですけど、その、エマの護衛というかなんというか。ほんとは屋敷の外で待っていようと思ったんですが……、すみません!」
要領を得ない説明でレオンはペコペコと頭を下げた。そういえば、レオンがまともにお嬢様と話をするのははじめてかもしれない。今までは馬車の窓越しに顔を見合わせる程度だった。
それに、彼はずっと街で暮らしていたのだ。貴族の屋敷というのも、もちろんはじめてだろう。緊張するのも仕方ない。――とはいえ、ガチガチすぎる気もするが。あまりにも不自然な動きにマリーは噴き出した。
「私とレオンは今日、街で知り合ったんです」
今にも緊張で倒れそうなレオンを不憫に思ったのか、空気の読める少女エマが助け船を出した。ね、とレオンを小突くと「そうなんです」と裏返った声がする。
「私、今日は辻馬車に乗っていたんですけど、街で悪い人たちに絡まれまして。そこをレオンが助けてくれたんです」
エマの実家、リアル家は下級の貴族だが、パッサン卿の功績もあって栄えている。本来はもっと上の身分を目指せるのに、身分に興味はないとパッサン卿が一蹴しているようだ。そんな家柄のエマは身なりがいいし、少女一人ともなれば悪漢に狙われるのも頷ける。
「レオン、結構強いんですよ。男たちを全員倒してしまいました」
「い、いえ、そんな、凄くなんてないです。多少心得があるだけで……!」
こんなガチガチの彼が悪漢を倒すなんて想像がつかないが、エマが嘘を言うことはないだろうし……。意外だ、という三人分の視線がレオンに集まって、彼はびくりと震えた。
「私がレイチェル様の見舞いに行くんだって話したら、レオンもレイチェル様を知っているらしいって分かって。私一人でいるとまた襲われるかもしれないし、護衛としてついてきてもらったんです」
なるほど、とお嬢様は頷いて、レオンを呼んだ。
「わたくしの友だちを守ってくれて、ありがとう」
「あ、いえ、そんな褒めていただくことでは! ……レイチェル様の体調、酷くないようでよかったです」
そこでやっとレオンはぎこちなく笑った。
今日はもう遅いということで、二人は別館に泊まることになった。レオンは最後まで拒否していたが、お嬢様の「うちに泊まるのがそんなに嫌かしら」という一言で泊まる以外の選択肢がなくなったようだ。
「お嬢様、今日は休んでください。これ以上悪化したら困ります」
かすれた声でそうねと呟くお嬢様の額に浮かんだ汗をそっと拭きとった。体調が悪いのは明白だった。屋敷にこもっていたお嬢様が、急に外出の連続なんて、疲れてしまったのだろう。それに、屋敷で勉強やダンスの練習も、休まずしていた。疲れが爆発したらしい。
「寝込んでいる時間なんてないのに……」
「パッサン卿にはしばらく訪ねられないと、手紙で伝えてあります。まずはしっかり休んで、体調を戻すことをお考えください」
渋々という顔でお嬢様は頷き、目を閉じた。寝息が聞こえるのを確認して、退室する。調理場ではマリーがそわそわとして待っていた。
「リーフさん! お嬢様のお加減はいかがですか?」
「今、眠られたところ。熱も高くないから、一日休めば大丈夫よ」
「そうですか、よかったー」
そう言いつつも落ち着かない様子のマリーに、私は雑巾を手渡した。マリーがきょとんと見上げてくる。
「最近外出が多くて掃除できていなかったから、いい機会だし、屋敷の大掃除をしましょう」
動いている方がマリーも気が紛れるだろうし。私たちは掃除道具を持って廊下に出た。
「リーフさん、毎日のように図書観に行かれてますもんね」
「しつこく通うしか、手がないから。でも、そのおかげかパッサン卿とも少しずつお話ができるようになってるのよ」
ある日は「また来たのか」と睨まれ、ある日は「しつこい」と扉を閉められる。それを会話と言っていいのかは謎だけど、居留守を使われる回数は減った。
「おじいちゃんも、若い女の子にはたじたじなのかもしれないですねー」
マリーはくすくすと笑って、掃除のために腕まくりをする。
「私がいない間、お嬢様の様子はどうだった?」
「ずっと頑張っていらっしゃいますよ。お一人でダンスの練習も励んでらっしゃいます。私が相手役になれればいいんですけど、あいにくダンスは専門外で……」
「ダンスの先生も見つけないといけないかもね。でもまずは、掃除を完璧に行いましょう」
窓枠に指を這わせると埃がついた。毎日マリーが掃除をしているけれど、一人で手が回るわけもない。ほら、と指先をみせるとマリーは眉をひそめた。
「リーフさん、お姑さんみたいですよ!」
「おばあちゃんの次はお姑さん? 失礼ね。さあ、始めましょう」
○○○○
日が暮れるまで掃除をして、まずまずといった様子に仕上がった。
「もう疲れました。一生分の掃除をした気がします」
「大袈裟ね。まあ、頑張ったことだし、お茶でも飲みましょうか」
「そうしましょう」
ふらふらとマリーは調理場に向かう。すっかり疲れ切っているようだ。ちょっとしたご褒美でもあげようかとポケットを探ったとき。
「ごきげんよう。お二人とも、ずいぶんとお疲れのようですね」
銀髪優男のジルが顔をのぞかせた。お嬢様の妹君に仕える、使用人。
――相変わらず、胡散臭い笑顔。
顔をしかめる私の横で、マリーは慌てて背筋を伸ばした。マリーは彼のファンなのだ。
「ジルが別館に、なんの用です?」
「門の外にお客様がいらっしゃったので、お連れしました」
「お客様って――、エマとレオン? どうしてここに」
ジルの背中から顔をのぞかせたのは、パッサン卿の孫娘だった。こんばんは、と一礼するとポニーテールが揺れる。さらにその後ろには、街の少年レオンがいた。せわしなく視線を行ったり来たりさせて落ち着きがない。
「こちらのご令嬢はパッサン・リアル卿のお孫様とのことで、お連れしました。少年もあなたたちのお知り合いのようですから、問題ありませんね? たしかにご案内しましたから、俺はこれで」
ジルはすらすらと述べると、一礼して背中を向ける。
「あ、ありがとうございました! 二人をここまで案内してくれて――というか、急いでいるようですが、何かありました?」
慌てて声をかけると、彼は振り返った。いつもゆったり構えているジルにしては、慌ただしい態度だった。彼はエマやレオンをみて、一瞬考えるような目をしてから私を手招く。不思議に思いながら近づくと、顔を寄せて耳打ちされた。
「実はライラお嬢様が体調を崩されているので、お側についておきたいんです」
「ライラ様が?」
「そこまでひどい調子ではないですけど、念のため。――協力者のリーフには一応、伝えておきますが、お嬢様は体が強くありません。度々、体調を崩されるんです」
そんな話、聞いたことがなかった。ライラ様はいつでもにこにことしていて、弱い部分なんて見たことがない。
「――そういうことですので、俺はそろそろ行きますね」
「はい……、ありがとうございました」
一礼して去っていくジルを見送ってから、私はエマとレオンに向き直る。ライラ様のことも気になるが、まずはこの二人についてだ。
「どうして二人がここに? 二人とも知り合いだったんですか?」
「ああ、いや、これは違うんです。彼とは今日はじめて会ったんですけど」
何から話せばいいのやら、という様子でエマは困り顔をして眼鏡を押し上げた。
「ひとまず、レイチェル様の体調はいかがですか? 私、今日はお見舞いにきたんです。じいちゃん宛ての手紙を読んで、心配になって。すみません、断りもなく屋敷を訪ねるのは失礼かと思ったんですけど」
「いいえ。こちらもパッサン卿の研究室には無断で訪ねていますし、お相子です」
それもそうですね、とエマが笑う。パッサン卿に手紙を出したのは今朝だから、手紙を読んですぐに来てくれたのだろう。
「お嬢様は寝ているかもしれませんから、一度様子を見てきます」
お嬢様の部屋をノックすると、返事があった。すでに目が覚めていたようだ。エマとレオンが訪ねてきたことを伝えると不思議そうな顔をして、部屋に通すようにと言われた。全員がお嬢様の部屋に揃うと、まずはエマが「大丈夫ですか?」と切り出した。
「わたくしは大丈夫よ。わざわざ見舞いに来てくれたのね。ありがとう。――あなたも見舞いに?」
お嬢様が声をかけると、「ひゃい」という謎の返事をしてレオンは肩を震わせた。せわしなく視線が行ったり来たりする。
「えっと、僕はエマから話を聞いて、その、すみません……、僕みたいな庶民がお屋敷に来るなんておこがましいと思ったんですけど、その、エマの護衛というかなんというか。ほんとは屋敷の外で待っていようと思ったんですが……、すみません!」
要領を得ない説明でレオンはペコペコと頭を下げた。そういえば、レオンがまともにお嬢様と話をするのははじめてかもしれない。今までは馬車の窓越しに顔を見合わせる程度だった。
それに、彼はずっと街で暮らしていたのだ。貴族の屋敷というのも、もちろんはじめてだろう。緊張するのも仕方ない。――とはいえ、ガチガチすぎる気もするが。あまりにも不自然な動きにマリーは噴き出した。
「私とレオンは今日、街で知り合ったんです」
今にも緊張で倒れそうなレオンを不憫に思ったのか、空気の読める少女エマが助け船を出した。ね、とレオンを小突くと「そうなんです」と裏返った声がする。
「私、今日は辻馬車に乗っていたんですけど、街で悪い人たちに絡まれまして。そこをレオンが助けてくれたんです」
エマの実家、リアル家は下級の貴族だが、パッサン卿の功績もあって栄えている。本来はもっと上の身分を目指せるのに、身分に興味はないとパッサン卿が一蹴しているようだ。そんな家柄のエマは身なりがいいし、少女一人ともなれば悪漢に狙われるのも頷ける。
「レオン、結構強いんですよ。男たちを全員倒してしまいました」
「い、いえ、そんな、凄くなんてないです。多少心得があるだけで……!」
こんなガチガチの彼が悪漢を倒すなんて想像がつかないが、エマが嘘を言うことはないだろうし……。意外だ、という三人分の視線がレオンに集まって、彼はびくりと震えた。
「私がレイチェル様の見舞いに行くんだって話したら、レオンもレイチェル様を知っているらしいって分かって。私一人でいるとまた襲われるかもしれないし、護衛としてついてきてもらったんです」
なるほど、とお嬢様は頷いて、レオンを呼んだ。
「わたくしの友だちを守ってくれて、ありがとう」
「あ、いえ、そんな褒めていただくことでは! ……レイチェル様の体調、酷くないようでよかったです」
そこでやっとレオンはぎこちなく笑った。
今日はもう遅いということで、二人は別館に泊まることになった。レオンは最後まで拒否していたが、お嬢様の「うちに泊まるのがそんなに嫌かしら」という一言で泊まる以外の選択肢がなくなったようだ。
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