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第6章 これからの、新しい色

(1)新しい色

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 長野に秋の気配が舞い込む。四柱神社の紅葉は見事に色づいていた。手を加えなくてもこれだけ鮮やかな色で塗られていくのだから、自然というものはすごいな、と絵莉は横目で眺めながら本の配達を終え、兎ノ書房に帰った。

「あ、絵莉。おかえりー。子どもたちが二階で待ってるよ」

 彩乃が伝票から顔を上げて、二階を示す。

「ただいま。はい、お土産。みたらし団子」
「やった。あとで食べよ。そうそう、ブックカバー完売した。また発注しておいて」
「うそ。すごい」
「最近ノってきてる。さっすが絵莉先生。いえーい」
「いえい」

 ふたりでハイタッチ。軽快な音が響いた。

「お絵かき講座も、本気で開催したら?」
「あはは。考えておきまーす」

 彩乃に手をふり、絵莉は二階の図書室に向かった。畳の小部屋には、六、七人の子どもが思い思いに過ごしている。お雪さんは子どもになでられていたが、絵莉を見て「おかえりなさい」と目で示す。子どもたちも絵莉に気づくと、ぱっと表情を明るくさせた。

「おねえさん、こんにちはー!」
「こんにちは。みんな宿題やった?」
「やった!」
「ならばよし」

 本を読む子も、お絵かきする子も、友だちと話している子も、それぞれ楽しんでいるようでなによりだ。絵莉も畳に上がると、一番幼い幼稚園児の子たちが近寄ってきて絵本を押しつけてくるから、二冊ほど読み聞かせをした。

 ちょうど本を閉じた段階で、階段をのぼってとわがやってくる。

「おねえさん」
「こんにちは、とわくん」
「こんにちは。……読んで」

 ずいと差し出されるのは、とわが持参してきたハードカバーの本。受け取り、絵莉は微笑む。あたたかい陽の光に照らされて淡い黄金こがねに輝く本棚の前、窓の外を見つめる少女の後ろ姿。窓から射し込む光はきらきらと輝き、室内を照らしている。ふきこむ風はやわらかく、少女のまわりに便せんを舞わせていた。

『本棚の手紙』

 この物語にふさわしい、やさしい色合いで彩られた、ただひとつの装画。

 絵莉が描いた一枚。

 あの日。去年の冬――。絵莉は描き上げた一枚をデータにし、一色と、すこや書房の狐谷に送った。狐谷は「時間をください」と言い、返答が来たのはその三日後だった。

 ――装丁家にも確認したところ、この絵がいい、とのことでした。

 狐谷は絵莉に、電話でそう伝えた。

 ――ぼくも同意見です。正直驚きました、ここまで仕上げてくるとは。恐れ入りました。

 そうして季節はめぐり、この秋、『本棚の手紙』は出版された。売れ行きは好調だという。兎ノ書房でも、彩乃が全力でポップを描き、SNSでも宣伝したおかげで、予想を上回って売れた。二階を利用する子どもたちが喜んで買ってくれたのも、うれしいことだ。

 一色の書いた物語が、絵莉の描いた装画が、多くの読者に届いたのだった。もちろん、とわにも――。夢中になって読み聞かせに耳をかたむけるとわに、絵莉は胸があたたかくなる。

「はい。今日はここまで」
「……ん。ありがとう」

 区切りのいいところで、本を閉じ、とわに返す。とわもこくり、とうなずいて微笑み、本を抱きしめた。

「わたし、下にいるからなにかあったら呼んでね。お雪さーん、みんなのことお願い」

 お雪さんの白い耳がぴんと立つ。承知した、ということだろう。絵莉は一階におりると、本棚の整理をはじめた。
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