ダイアモンド・ダスト

柑奈木

文字の大きさ
上 下
36 / 54

36.岡本君と琴乃

しおりを挟む
 このまま階段を登り廊下を一本真っ直ぐいけば教室に着く。

 でも、私はあえて、一つ下の階で階段を登るのをやめた。

 この気持ちのままでは教室に戻れそうもない。戻ったとしても西宮の顔を見たら、殴りつけてしまいそうだ。

 遠回りをしながら、一刻も早く頭の中から西宮のことを締め出そうと努力する。

 分かれ道に差し掛かる度、教室から遠ざかる方の道を選ぶ。

 とはいえ、どれほど時間稼ぎをしたところで、教室に戻らなければならないという事実は変わらない。

 少し心が落ち着いたところで、私は教室のある階へ向かった。

 もう、休み時間も終わりに近く、生徒の移動が始まっている。三年七組の次の授業は体育だから、もう教室には誰にもいないかもしれない。

 また誰もいない教室に行かなければいけないと思うと怖かった。自然と忍び足にある。

 白んでいる教室に足を踏み入れると、薄緑色のカーテンが翻った。

 カーテンの陰に隠れていた人物があらわになる。

 一人の美少年が天使のように美しい少女の頬に口づけをしていた。

 穏やかな光が二人を温かく照らす。

 『アモルとプシュケ』をそのまま実写にしたような美しい光景が目の前に繰り広げられた。

 登場人物はよく知っている人物。

 岡本君と琴乃だった。

 私はたじろいだ。後ろのドア枠に肩がぶつかる。生み出された音が神話の世界に亀裂を入れる。

「……立川」

「……桜」

 私に気が付いた二人は明らかに動揺していた。

 どういうこと?やっぱり岡本君は琴乃のことが好きなの?そうでしょ。そういうことなんでしょ。

 そのまま後づさって廊下を走り抜けていく。取りに来た体操服を教室に置いてきてしまったことに気がついたが、そのまま体育館に走った。

 体操服は忘れたとでも言って体育科に借りればいい。あの教室に戻る気には決してなれなかった。

「待て、違うんだ。聞けっ、立川」

「桜!」

 岡本君と琴乃の声が後ろから追いかけてくるが、私が中庭の開けた場所に出る方が早かった。

 人込みに紛れて体育科の先生がいる教室に向う。

 先生は体操服を忘れたというと、特に説教することもなく、洗って返すように、とだけ言って体操服を貸してくれた。

 体育科の先生のいる教室から更衣室はすぐだった。

 私は素早く着替えて体育館に向かう。

「今から、5時間目の体育を始めます」

「お願いします」

 体育館には号令のかかるギリギリのタイミングを見計らって入った。

 周りを見回していた琴乃は、私を見つけるなり何かしら言いたそうに近寄ってきたが、先生が号令をかける方が先だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...