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第7話

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 黒目黒髪の少年、マークの適性の儀が王都ライナで執り行われてからすぐ翌日の昼過ぎ。
 まだ適正の儀からそれ程経っていないのにも関わらず、邸宅にて訓練が行なわれようとしていた。

「おい! お前か? アーカイル辺境伯家の顔潰しの能無し劣等者インフェリアっていうのは」

 マークを見るや否や、無神経にも声を掛けた男がいた。その男の目元には戦士の証とも言える刀傷がある。
 
 背丈もかなりあり、父親のダリウスよりは遥かに大きい。ダリウスが小さい訳ではない。マークの目の前に男が遥かに大きいのである。

 いつも以上にマークは首を傾け、その男を見上げる。

 その男のただの謗りにも取れるが、それには男の別の意図があるとマークは察していた。

「能無しという意味が魔法が使えるかどうか、でああるなら、間違いなく僕がそうでしょうね……」

「な、なるほど……思っていた反応とは違うな」

 挑発をして少年の反応を伺おうとした男であったが、予想とは異なり、成年にも近い落ち着き具合に逆に狼狽えてしまう。

 突如、一瞬たじろいだ男には純粋無垢な笑顔を浮かべる少年。

「それであなたが今日から剣術を教えてくれる先生なのでしょうか?」

 マークの期待に満ちた視線が巨漢の男を貫く。

「そうだ! 俺がお前に剣術の極意ってのを叩き込んでやる! 何よりダリウスの頼みだ、無碍にすることも出来ん! 例えお前が劣等者インフェリアであろうともな」

「はい! ありがとうございます! 僕も剣術の極意っていうやつを学んでみたいです! それであなたのお名前は?」

 純真な言葉の一つ一つがダリウスの心を刺す。

「……なんだか調子が狂うな。ただのグレゴリオだ。そんなことより早速訓練を始めてもいいか? 時間が惜しい」

 巨漢の男グレゴリオがそう言って訓練が開始する。どうやら目の前の先生は忙しいようで、その理由まではマークも訪ねることはなかった。

「はい! 早速剣術を教えて貰えるんですね!」

 マークは今日から剣術を教えて貰えるかと思っていたが、どうやら予想は外れてしまった。

「いいや、剣術は教えない……まだ基本的な身体が出来ていない。まずは基礎体力訓練と簡単な身体能力強化からだ!」

 グレゴリオがそう言うと、すぐに教えて貰えないということにマークは落胆の表情を見せた。

「わかりました! 確かに剣術を教わる前には必要ですからね!」

 グレゴリオにはマークの言っている意味が分からなかった。

 何しろグレゴリオには今日、そして当分の間、剣術を教えるという予定などなかった。

 グレゴリオの想定では早くても1年か2年後。
 まず基礎体力を向上させる身体作りをしていき、微弱ながら身体能力強化の手法も教えていく。

 それがある程度形になってから、ようやく剣を持たせようと考えていた。

「そうだ! まず剣術を教える前に振るえるだけの筋力と体力が必要だ。だから、今からはお前の現状の筋力と体力がどれくらいかを測る!」

 そう言ってグレゴリオが何処からかマネキンのような人形を取り出す。
 そしてグレゴリオがそのマネキンに手を触れるとマネキンが動き出す。

 魔力の糸のような物が巨漢のグレゴリオとマネキンの間に生じるのをマークは視た。

「おぉ! これは何ですか?」

 目の前の興味深い人形にマークの目が煌めく。

「これはただのパペットだ! 今、俺との魔力のパスを繋いだ! そんな事よりも、今からコイツから逃げてもらう! 簡単だ、ただ逃げるだけでいい! 逃げ切れとは言わん。ただ全力で逃げろ、でないと意味がない!」

 グレゴリオの訓練の内容を聞いて、マークも首肯する。

「はい、とりあえずこのパペットから全力で逃げれば良いんですね!」

「そうだ、早速始めるか!」

 グレゴリオも性格が悪い。
 このパペットの仕様だが、常時追尾機能が搭載されている。
 それも逃走対象の最高スピードで追尾を続ける。
 つまり絶対に捕まるように設定上なっている。

 ただし、グレゴリオの魔力が持つ限りは,。

 そうして、グレゴリオによるマークの逃走訓練が幕を開けた。


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