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第23話 国王策謀

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 アルトバルト城にて地龍討伐の褒賞授与式が急遽執り行われ、シーリア含め、『翼竜の翼』も褒賞授与式に呼ばれ、国王からは褒賞を頂いた。
 俺に関しては何故かこの件によって、貴族入りを果たしてしまった。
 
 そして俺達は褒賞授与式の後に王城の侍女に案内されて、待合室のような場所に居た。
 そこには伯爵令嬢であるシーリア・フォン・フィンブルドと侍女であるルミナ、『翼竜の翼』メンバーが控えている。
 シーリアはどうやら褒賞に不服がある様で、

「それにしても国王様は何を考えているのかしら!ソウタを子爵に授爵してしまうなんて! それじゃあ、私の専属料理人は誰にすれば良いのよ!」

「いえいえ、お嬢様~! 何言ってるんですか~? まず、もうソウタさんは専属料理人ではないですよ~! それに専属料理人は他に居るじゃないですか~」

 侍女のルミナはシーリアを宥める。だが効果はあまりない様で、

「それとこれとはべ、別問題よ! もうどうすれば良いのよ!」

 シーリアは何故か頭を悩ませている。『翼竜の翼』はというと先程の褒賞授与式での緊張感でぐったりとしている。

「お前らそんなにぐったりして大丈夫なのか?」

 ケインは呆れ顔で上を向いて呟く。

「逆にソウタは何でそんな大丈夫なんだよ?」

 俺は『翼竜の翼』に今聞くのもどうかと思ったため、ルミナに聞くことにした。

「ルミナさん、俺、元々田舎出身だから貴族のことが分からないんだよね。俺が授爵した子爵ってのはどれくらいの地位なんだ?」

「そうですね。貴族の爵位の序列から説明すると上から公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵、名誉騎士爵の順番ですね。子爵は貴族の中でも真ん中の地位になりますね」

 なるほどある程度、中世西欧の知識はあったので、それとほぼ一緒であることがわかった。

「それで具体的に貴族は何をすれば良いの? 後、国王様から家名の命名権なんて物を貰ったんだけど、貰うほど特別なものなのか?」

 ルミナは俺の発言に珍しく驚いた表情を浮かべる。

「貴族の役目はまだしも、家名の命名権の貴重さを知らないのですか?」

 俺は黙って頷く。

「はぁ~。じゃあ説明致しますね。まず貴族の役目は国から下賜された領地の経営と領地の守護ですね。それに家名の命名権はというと」

 ルミナが貴族に関する事を教えてくれる。
 ルミナによると貴族の役割は領地の経営と領地の守護、そして家名の命名権というのは名の通り、家名を自分で決めることができる権利だという。
 普通であれば国王から家名と爵位を下賜されるものらしい。
 この家名の命名権を与えられた者はアルトバルト王国史上の中でも数少ないと言う。

「なるほどね。自分の家名を自分で決定できるという権利か。まぁ変な家名を付けられなくて済んだってことかな」

「変な家名って。そうならない為の家名の命名権ってなんだか可笑しいですね」

 侍女のルミナがクスッと笑う。

 俺は侍女ルミナが淹れてくれた紅茶を一口飲む。
 俺も貴族になってしまった訳だし、これから色々と準備を進めていかないといけないわけか。
 
 暫くしてから待合室の扉がトントンと叩かれる。
 そして白銀の髪に、蒼色の瞳をした美少女が現れた。

「ソウタ様、先程は子爵の授爵おめでとうございます。本当にこの度は私の命を救って頂きありがとうございます」

 この口振りを察するにフィリナだが、

「も、もしかしてフィリナ王女殿下!?」

 扉の先から現れた美少女は白銀の甲冑に身を包んだあの時の王女殿下ではなく、華やかで可憐なドレスに身を包んだ王女様がそこには居た。
 
 可憐さのあまり、俺は思わずフィリナ王女殿下を凝視してしまう。

「あの~、ソウタ様……そんなにジーと見つめられると私も恥ずかしいのですけど……」
 
 フィリナ王女殿下は俺があまりにも凝視したせいか顔をポット赤らめる。
 
「あまりにも綺麗だったのでつい……」
 
 俺は頭を掻いてぎこちなく謝罪をする。
 フィリナ王女殿下の方もどことなく余所余所しい。
 フィリナ王女殿下は何か思い出した様に、

「ソウタ様、国王様が個人的に貴方をお呼びしております。ですので、私に付いて来てください」

 どうやら国王様からの直々のお呼びらしく、そのためにフィリナ王女殿下が呼びに来てくれたとのことだった。
 シーリアやパーティメンバーも一緒かどうか聞いたのだが、俺一人だけで来いとの事だった。

 流石の俺も国王様からの個人的なお呼びとなるとどんな事を聞かれるのか少しばかり不安になった。

 俺は待合室を出て、フィリナ王女殿下と一緒に国王の応接室へと向かっていく。

 そして俺はフィリナ王女殿下と国王の応接室へと足を踏み入れた。

 そこには先程玉座に座っていた国王様とフィリナ王女にそっくりで白銀の髪に、蒼色の瞳の大人っぽい女性がいた。
 察するにフィリナ王女殿下の母親、この国に妃后様なのだろう。
 
「おぉ、よく来てくれたなソウタ殿。儂はこの国アルトバルト王国の第32代国王のデイドルド・アルバ・アルトバルトだ」

「えぇ、よく来てくれたわ、ソウタ様。私はフィリナの母のマリアリア・ティア・アルトバルトよ。マリアと呼んでくれて構わないわよ」

「俺、いや私は冒険者パーティの『翼竜の翼』ソウタです。本日はお呼び頂きありがとうございます。して本日は何用で?」

 流石にこの国の国王様と妃后ということもあって無礼な態度や失礼な言葉遣いは出来ない。
 だが何故ここに俺が呼ばれたのかが疑問である。

「ソウタ殿、そんなに畏まらないで良いぞ。お主は儂の娘の命の恩人だ。其方に畏まられるのも儂としてもむず痒い。一国の王としてではなく、フィリナの親としてお主のことを感謝しておる」

「そうだわね。まさかあのフィリナが助けられることになるとわね。いつもは助ける側の子でしたのに」

「はぁ……畏まりました。国王様がそうおっしゃるのでしたら」

 国王であるデイドルドは蓄えた髭を撫でるようにして

「ソウタ殿、近くで見ると本当に若い様だな、して今は幾つなんだ?」

「え? 年齢ですか? 俺は今15歳ですね。年齢がどうかしましたか」

 俺が年齢を教えると国王デイドルドと妃后マリアリアは喜色を浮かべて見つめ合う。

「あなたこんな奇跡が本当に起こるのですね!」

「あぁ、そうだな。マリア。これで儂らも少しは安心できそうだな」

 そして、国王は再度こちらを覗く様にして、

「して、ソウタ殿。お主は儂の命によりアルトバルト王侯貴族の仲間入りを果たしたわけだが、貴族の役割とやらを知っておるか?」

「えぇ、先程、伯爵令嬢の侍女の方からお聞きしました。領地の経営と領地の守護だとそう伺っておりますが」

 俺が解答するのに対し、国王は首を横に振る。

「まぁ大体は合っておるが、貴族の役割はそれだけではないぞ?」

 俺が不思議そうな顔を浮かべていると、国王デイドルドがニヤリとした表情でこう告げる。

「貴族の役割の一つには『子孫繁栄』というものがあるぞ」

 子孫繁栄という言葉に俺の心臓がどきりとする。
 そして国王デイドルドは何かを企んでいる様な笑みを浮かべている。

「して貴族になったお主にはその役割を果たしてもらう必要があるんだが、お主、ソウタ殿はもうこの国では成人の身だ。となると直ぐにでもその任を果たす義務がある」

 その言葉に妃后マリアリアもニヤリとした笑みを浮かべている。

「そうね、あなた。ソウタ様ももう成人ですもんね。それに———」

 妃后マリアリアはチラリとフィリナ王女殿下の方へと視線をやる。

 そして国王デイドルドは「コホン」と咳払いしてから、突如こんな事を口にした。

「そこでだな、お主ソウタ殿には儂の娘、『第3王女フィリナ・ティア・アルトバルト』をお主の子爵家へと降嫁させることにする。つまり、ここにいるフィリナがソウタ殿の妻になるということだ」

 俺は突如言われた事に眼を丸くする。
 だがこんな事を国王、妃后であろうとも王女フィリナの意思なくして決める事は出来ないだろう。

 俺はそれを伝えるため国王に奏上する。

「ですが、それはフィリナ王女殿下の意思がない事には結婚など……」

 すると国王デイドルドは俺にさらにニヤリと微笑む。

「そうかそうか……ソウタ殿はフィリナが結婚の意思が有れば結婚しても良いという事だな?」

「まぁ…………もしあればですけど……」

 フィリナ王女殿下に関しては、一目見た時からとても綺麗な女性だと思っていたし、数日間、一緒に過ごしてある程度はどんな人かわかっているつもりだ。
 そして彼女が外見内面総じて、魅力的な女性だということも。

 俺が一応国王にそう答えると「ふむ」と声を漏らして、

「では、お望み通りフィリナに聞いてみれば良い。そして今のフィリナの表情を見るが良い」

 俺は国王デイドルドに言われるがまま、隣に控えていたフィリナ王女殿下へと目を向ける。

 するとフィリナ王女の耳が茹蛸のように真っ赤に染まりあがり、頬からは湯気が出そうな勢いだった。
 そして、恥ずかしそうな表情を浮かべ、瞳にはうっすらと涙を浮かべ、上目遣いで俺を覗く。

「ソウタ様……私じゃ駄目ですか?」

 その瞬間、俺の脳の活動は休止した。
 俺はこうして国王デイドルド、妃后マリアリアの策謀、さらにはフィリナ王女殿下の魅惑的な魅力に負け、フィリナ王女殿下を妻に頂くことになった。

 この決定が色々と面倒事を引き連れてくるという事には余りの可愛さにのぼせた頭の俺には考えることができなかった。









 
 
 

 

 
 


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