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夜の子供
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夜だった。
空気が濁り、チカチカと激しい光が星の輝きを奪い去る。
人工的な灯りを、どうしても好きになれなかった。
どこを歩いても人にぶつかり、ぶつかられ、もみくちゃにされた末に行き着くのはいつだって暗い路地の中だ。
圧迫感のある小汚いビルの間を、陰気な猫背がのろのろと歩く様子はどこまでもみすぼらしいのだろう。
ただただ真っ直ぐに、暗闇に身を投じていく。
暗闇は過去を回顧させる。
真っ黒なキャンバスに浮かび上がる、幼い頃の、あのギラギラとした夜景。
夜の都会に放り出された子供の恐怖と不安を想像できるだろうか。
最初は、ドアの前でジッとうずくまる。
手慰みに、マンションの廊下の、剥がれたコンクリートをいじる。
やがて中に入れてもらえないことを悟ると、そっと立ち上がる。
そして、眼前の光景に気がつき、ひどく狼狽える。
見渡す限りの光の洪水。
もはやそれは暴力だった。
光の引力は凄まじく、子供はそちらに向かって歩きはじめる。手を、伸ばす。
子供の手は宙をかく。重力が容赦なく襲いかかる。
狭い溝に落ちて、子供は気を失った。
暗転。
過去の回想から、暗闇の路地へ戻ってきた。
ぽつん、と、鼻先に水滴が落ちてきた。
そう思ったのも束の間、あっという間に土砂降りになった。
構わず歩き続けた。
服が雨を吸い、ひどく体が重かった。
だんだんと体の重さが増していき、一歩一歩がどうしようもなく倦怠になる。
ここで止まってしまおうか。
そもそも、なぜ歩くのか。なぜ歩かなければならないのか。あてもなく彷徨っているだけじゃないか。
ついに私は止まった。
鉛のような足を、棒のように地面に貼り付けて呆然とした。
雨は依然、土砂降りのままだ。
この路地の中で私はこのままなのか。
誰にも顧みられずに。
私は、路地の中が重力に叩きつけられたあの溝によく似ていることに気がついた。
私は、あの頃と変わっていないじゃないか。
夜の中で震えながらうずくまっていたあの頃と。
悔しかった。
私はもう一度、足を持ち上げた。
少しずつ歩みを進める。
雨は心なしか弱くなってきた。
一歩あるく。
雨が弱まった。
もう一歩進む。
雨は小雨になった。
やがて視界の先に路地の終わりが見えるようになった頃、雨はすっかりやんでいた。
私は気力を取り戻し、一息にこの路地を出た。
そこで私は奇妙なものを見た。
アスファルトに映し出された、あの夜景だった。
子供の頃の、私を打ちのめしたあの夜景。
しかし、それとは違って、今私の眼前にある光景はひどく優しい色だった。
雨に濡れたアスファルトが映し出すそれは、もはや幻想的だとさえ思えた。
私は震えながら手を伸ばす。
重力は、この夜景に触れるように私を促した。
空気が濁り、チカチカと激しい光が星の輝きを奪い去る。
人工的な灯りを、どうしても好きになれなかった。
どこを歩いても人にぶつかり、ぶつかられ、もみくちゃにされた末に行き着くのはいつだって暗い路地の中だ。
圧迫感のある小汚いビルの間を、陰気な猫背がのろのろと歩く様子はどこまでもみすぼらしいのだろう。
ただただ真っ直ぐに、暗闇に身を投じていく。
暗闇は過去を回顧させる。
真っ黒なキャンバスに浮かび上がる、幼い頃の、あのギラギラとした夜景。
夜の都会に放り出された子供の恐怖と不安を想像できるだろうか。
最初は、ドアの前でジッとうずくまる。
手慰みに、マンションの廊下の、剥がれたコンクリートをいじる。
やがて中に入れてもらえないことを悟ると、そっと立ち上がる。
そして、眼前の光景に気がつき、ひどく狼狽える。
見渡す限りの光の洪水。
もはやそれは暴力だった。
光の引力は凄まじく、子供はそちらに向かって歩きはじめる。手を、伸ばす。
子供の手は宙をかく。重力が容赦なく襲いかかる。
狭い溝に落ちて、子供は気を失った。
暗転。
過去の回想から、暗闇の路地へ戻ってきた。
ぽつん、と、鼻先に水滴が落ちてきた。
そう思ったのも束の間、あっという間に土砂降りになった。
構わず歩き続けた。
服が雨を吸い、ひどく体が重かった。
だんだんと体の重さが増していき、一歩一歩がどうしようもなく倦怠になる。
ここで止まってしまおうか。
そもそも、なぜ歩くのか。なぜ歩かなければならないのか。あてもなく彷徨っているだけじゃないか。
ついに私は止まった。
鉛のような足を、棒のように地面に貼り付けて呆然とした。
雨は依然、土砂降りのままだ。
この路地の中で私はこのままなのか。
誰にも顧みられずに。
私は、路地の中が重力に叩きつけられたあの溝によく似ていることに気がついた。
私は、あの頃と変わっていないじゃないか。
夜の中で震えながらうずくまっていたあの頃と。
悔しかった。
私はもう一度、足を持ち上げた。
少しずつ歩みを進める。
雨は心なしか弱くなってきた。
一歩あるく。
雨が弱まった。
もう一歩進む。
雨は小雨になった。
やがて視界の先に路地の終わりが見えるようになった頃、雨はすっかりやんでいた。
私は気力を取り戻し、一息にこの路地を出た。
そこで私は奇妙なものを見た。
アスファルトに映し出された、あの夜景だった。
子供の頃の、私を打ちのめしたあの夜景。
しかし、それとは違って、今私の眼前にある光景はひどく優しい色だった。
雨に濡れたアスファルトが映し出すそれは、もはや幻想的だとさえ思えた。
私は震えながら手を伸ばす。
重力は、この夜景に触れるように私を促した。
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