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彼女の横顔を見ながら、永遠を望んだ

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「ねえ、シンさま」
「・・・なんだ」
「生まれ変わりって、信じます?」
「さぁな。自分以外の記憶を知らないから、信じるも何も無い。
我はもう、悠久の時を生きているからな」
「ロマンが無いですねぇ・・・私は、信じますよ」



 シンの言葉に、頬を若干膨らませながらシャスラは息をはく。
 怒った素振りを見せながらも、彼女の瞳は、至極、楽しそうにシンをうつしている。
 黒い瞳の中に、光が入ってまぶしい。

 彼女の瞳は、魔法のようだった。
 シンの心を穏やかにさせる。優しい暗闇。
 その瞳の中のシンも、穏やかな顔をしているのが見えた。




「だって、シン様をお見かけしたときに、思ったんですもん。

 ”やっと、見つけた。また…会えた”って!」

「!」


 シンは、息を思わず止めた。
 彼女も、同じことを思っていたのだろうか。
 そう思うと、なんとも言葉にはならない喜びを感じるのを抑えられない。
 夕焼けが、目に染みる。
 そんなシンの様子に気づかず、シャスラは夕日と風に身を委ねて、目を閉じる。
 出会ってもう気づけば10年が過ぎようとしていた。



「懐かしい感情、どこか切なくなる……素敵な感情でしょう!!」
「‥‥少女趣味だな」


 シャスラは、再び頬をふくらませて「うっさいですねぇ‥‥もうっ!夢がないんだからシン様は!!」
 といいシンの背中をバシンッ!と叩く。
 どうしても、目の際がにじんだのを悟られたくなくて
 憎まれ口をシンは叩くいてしまう。声を出して、笑った。



 ――――夕日を背にして笑う彼女を、シンはきっと忘れないであろう。


 刻々と日が沈む。鳥の声が寂しく鳴いて、頭の中で聞こえる
 小さな囁きが風にかきけされた。




「だから・・きっと、きっと・・私の埋まらない心の隙間を埋めてくれる何かにも、
いつか会えるんだと思います」
「・・・・」



 ――――会いたかった、誰か。
     帰りたい、どこか―――――



「ねぇ、シンさま・・私、あなたのことが好きですよ。シンさまは?」
「‥‥」
「なんで、そっぽ向くんですか」
「……」
「なんで、哀れみの目で見るんですかぁー! しつれいですね!!」
「ハハハッ」





 ―――――嫌いになるわけなどない。
     会いたかった、誰かなのに――――



 生きることは、シンにとって地獄であった。
 でも…なぜだろうか。彼女となら、永遠を生きてみたいと思える。
 この毎日が、続けばいいのにと。
 シンは、初めて不老不死であることに心から感謝した。
 自分が不老不死であったからこそ、シャスラに出会えたのだから。




「シンさま、どうされましたか?
もう、暗くなりますが」
「ああ、もどろ…」
「今日は、夜まで、あそびまし」
「あたまがおかしい」
「ひどっ!!!!
最近、シンさま私に容赦がなさすぎ…ま、まあいいとして。
今日は、ピョウルを見たいんですよーーー!
見たいですー!! いっしょにみましょうよ~~!!」



 シンは、シャスラの発言に、やれやれと力なく笑う。
 ピョウルとは、光り飛び回る虫のことである。
 鈴の音を優しく鳴らしながら、飛び回り、ピョウルを見ることが出来ると
 幸運を呼ぶ光る華と言われている。


 ラディオン村では、普段はシンが入っている山には、
 お世話係である巫女しか入れないのだが
 ピョウルの華が舞う時だけは入れるようになる。
 そして、恋人たちは愛を囁きあい、そして婚姻式を行うのだ。 



「ねねねね! 隣村のよっちゃんから聴いて幻想的だったって
言ってたから、見てみたいんですよぉ~~」
「大丈夫だ。お前の頭が幻想的だから見る必要はなかろう」
「し!ん!ら!つ!
シンさまだけに、しんらつッ!!!」
「あまりくだらんこと言うと土砂崩れ起こすぞ」
「ごめんなさい!!!」



 恋人たちのイベントであるピョウル。
 それを見たいという恋とか愛とか絶対に分かっていないだろうというシャスラ。
 人の気も知らずにと、シャスラを目でとがめる。
 夜は、巫女にとって出歩くことはタブーであり、
 婚姻のできない巫女には縁のないものであった。


 それでも、諦めきれないのか、すがるような瞳でシンを見るシャスラ。
 なんだかんだいいつつも、シンは毎回シャスラの言うことを
 何故か知らないけれども渋々受け入れてしまう。
 どうしてかしらないけれども、断れない何かがあるのだろう。
 ため息をつき、仕方ない…連れて行くか。
 …という前にタブーを犯す危険を察知したのであろう。
 「こぉおおんの! バカ孫おおおおおお!」という声と共に
 祖母であるアスラがやってきた。
 駄々をこねるシャスラを引きずって、拳骨を落とす鈍い音にシンは頬をひきつらせる。
 嵐が去っていったのであった。 



「‥‥ふ」




 静かになった部屋。シンは、一人で布団に横たわった。
 ―――仕方ない。連れて行ってやるか…。
 最近、どうにも自分は彼女に甘いような気がするとシンは思う。
 しかし、どうしても甘やかしてしまう。最終的には彼女の望みを叶えようとしてしまう自分がいた。




(まあ‥‥わるくない)




 じんわりとあたたかい、気持ち。
 まさか、それが突然壊れるとはシンは思わなかったのであった。
 いつだって、人は、”今“しかないのだと認識させられる。
 後悔は突然と共に、やってくる。
 永久の時を生きているシンには、それを気づくすべはなかった。

 



――――――――――・・・・・

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