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第三Q 生き様を証明せよ
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後方に吹っ飛んだ雪之丞を千原は罵倒した。
「鳴海てめえ! なんだその弱っちい拳はよ!? 俺をナメてんのかあクソが!?」
「……バーカ! お前なんか汚くて舐められるかよ!」
雪之丞はそう返すだけで精一杯だった。憤る気持ちも、負けてたまるかという気持ちもあるのにどうにも拳に力が入らないのだ。
気がつけば一方的な喧嘩となっていた。思うように体を動かせないうえに判断力まで低下していた雪之丞は、喧嘩の立ち振る舞いすらもわからなくなっていたのだ。 再び千原の前蹴りで転ばされると、千原は雪之丞の胸倉を掴んで持ち上げた。
「……こんなてめえを倒しても、なんの意味もねえんだよ!」
千原は血走った目で雪之丞を見下ろし、怒りを露にした。そんな千原とは対照的に、雪之丞は死んだ魚のような感情のない目で千原を見上げた。
「……お前はさ、俺みてえな左手のない男と喧嘩して面白いかよ? さっさとやっちまえよ、クズ野郎が」
雪之丞がそう口にした瞬間、本日最大の一撃を食らった。千原の石頭が雪之丞の額に大きな衝撃を与えると同時に、地面に叩きつけられた。
「俺はなあ! 右手一本しかねえくせに筋の通った喧嘩をしていたてめえをすげえと思った! 本当に強い男だと思ったから、今まで拘ってきた! 絶対倒してやろうと思ってきたんだぞ!? 今更くだらねえこと言ってんじゃねえ!」
感覚神経を通して、脳味噌が受けたダメージは甚大であることを訴えてくる。口の中は血の味がして、体中がひどく痛む。少し前までこれが当たり前の日常だったのに、雪之丞はいつの間にか、自分がスポーツマンとして生活していたことを知った。
体を起こし、馬鹿みたいに拳でしか気持ちを伝えられない不器用な男を見た。千原は額を赤くしながら、雪之丞を睨みつけている。
――右手一本でも前向きにやってきたことは、大吾も紗綾も傷つけていた。
だから雪之丞は、生き方を間違えたのだと思った。人生を否定されたと思った。だけど、そんな自分に拘る人間もいるのだ。
「……左手がなくても、バスケはできるよな?」
「バスケ? 知らねえよ! てめえは右手と頭突きと蹴りだけで、散々俺と喧嘩してきただろうが!」
答えを聞いた雪之丞は、何も言わずに千原に渾身の頭突きをかました。あえて一番ダメージを負っている額で攻撃をしたため、痛みは当然自分にも返ってくる。割れるような痛みに顔を顰めながらも、雪之丞は無理して白い歯を見せた。
「……まさか、お前の言葉に救われるとはね。鳴海雪之丞、一生の不覚だ」
頭突きの余波でまだふらついている千原の腹に膝蹴りを入れ、地面に尻をつかせた。感謝こそすれ、容赦はしない。雪之丞は千原の左頬に抉るようなストレートを入れた。鼻血で千原が咳き込む中、雪之丞は先にやられた仕返しと言わんばかりに、彼の胸倉を片手一本で持ち上げた。
「まあとりあえず、ありがとよ。でも、それとこれとは話が別だ。やられた分はやり返す」
二人はとても青春映画にはなりそうにない、汚い喧嘩を再開したのだった。
「鳴海てめえ! なんだその弱っちい拳はよ!? 俺をナメてんのかあクソが!?」
「……バーカ! お前なんか汚くて舐められるかよ!」
雪之丞はそう返すだけで精一杯だった。憤る気持ちも、負けてたまるかという気持ちもあるのにどうにも拳に力が入らないのだ。
気がつけば一方的な喧嘩となっていた。思うように体を動かせないうえに判断力まで低下していた雪之丞は、喧嘩の立ち振る舞いすらもわからなくなっていたのだ。 再び千原の前蹴りで転ばされると、千原は雪之丞の胸倉を掴んで持ち上げた。
「……こんなてめえを倒しても、なんの意味もねえんだよ!」
千原は血走った目で雪之丞を見下ろし、怒りを露にした。そんな千原とは対照的に、雪之丞は死んだ魚のような感情のない目で千原を見上げた。
「……お前はさ、俺みてえな左手のない男と喧嘩して面白いかよ? さっさとやっちまえよ、クズ野郎が」
雪之丞がそう口にした瞬間、本日最大の一撃を食らった。千原の石頭が雪之丞の額に大きな衝撃を与えると同時に、地面に叩きつけられた。
「俺はなあ! 右手一本しかねえくせに筋の通った喧嘩をしていたてめえをすげえと思った! 本当に強い男だと思ったから、今まで拘ってきた! 絶対倒してやろうと思ってきたんだぞ!? 今更くだらねえこと言ってんじゃねえ!」
感覚神経を通して、脳味噌が受けたダメージは甚大であることを訴えてくる。口の中は血の味がして、体中がひどく痛む。少し前までこれが当たり前の日常だったのに、雪之丞はいつの間にか、自分がスポーツマンとして生活していたことを知った。
体を起こし、馬鹿みたいに拳でしか気持ちを伝えられない不器用な男を見た。千原は額を赤くしながら、雪之丞を睨みつけている。
――右手一本でも前向きにやってきたことは、大吾も紗綾も傷つけていた。
だから雪之丞は、生き方を間違えたのだと思った。人生を否定されたと思った。だけど、そんな自分に拘る人間もいるのだ。
「……左手がなくても、バスケはできるよな?」
「バスケ? 知らねえよ! てめえは右手と頭突きと蹴りだけで、散々俺と喧嘩してきただろうが!」
答えを聞いた雪之丞は、何も言わずに千原に渾身の頭突きをかました。あえて一番ダメージを負っている額で攻撃をしたため、痛みは当然自分にも返ってくる。割れるような痛みに顔を顰めながらも、雪之丞は無理して白い歯を見せた。
「……まさか、お前の言葉に救われるとはね。鳴海雪之丞、一生の不覚だ」
頭突きの余波でまだふらついている千原の腹に膝蹴りを入れ、地面に尻をつかせた。感謝こそすれ、容赦はしない。雪之丞は千原の左頬に抉るようなストレートを入れた。鼻血で千原が咳き込む中、雪之丞は先にやられた仕返しと言わんばかりに、彼の胸倉を片手一本で持ち上げた。
「まあとりあえず、ありがとよ。でも、それとこれとは話が別だ。やられた分はやり返す」
二人はとても青春映画にはなりそうにない、汚い喧嘩を再開したのだった。
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