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ハクが棲家の樹木に戻ってくると、イザラメが驚きの表情で駆け寄ってきました。
「どうしたの?」
イザラメは少し怒りのこもった口調で息を荒立てました。
「どうしたのじゃねえよ。どこに行ってんだよ。探したんだぞ」
「何かあったの?」
「夕食の時間だってのにいつまでも顔見せないから探してたんだよ」
「ごめん」
「いいんだよ。行こうぜ」
がやがやと話し声が聞こえてきました。仲間の雀たちが今日の収穫をお互いにねぎらっていました。
多くの食材が並んでいる大処で好きなものを取って食べている雀たちの間を縫って、自分の分を取って空いている場所に落ち着きました。
「何してたんだ?」
唐突にイザラメに聞かれ、ハクは言葉に詰まりました。
「……休んでたんだ」
「猫とかタヌキに襲われんぞ」
「そうだよね。気をつけるよ」
イザラメは横目で盗み見ました。ハクの表情は今日の空模様のように曇っていて、今も苦しそうでした。イザラメはためらうも、やわらかな表情で口を開きました。
「ケンゴロウには俺から言っておく。でも強情だから、そう簡単にやめてくれるとは思えないけどな」
「僕、迷惑じゃないかな?」
「誰にでもできないことはある。それに、ハクは十分みんなの役に立ってるよ」
「そうなのかな」
「ケンゴロウは俺たちの群れの中じゃ、若い雀のリーダーなんだ。アイツも大口叩ているけど、なんだかんだ苦労してるんだよ。たぶん、一番ハクのことを気にかけてるのはケンゴロウだ」
ハクは疑念を浮かべました。
「アイツも同じだよ。もともと、ケンゴロウは他の群れにいた雀だ。トンビに群れを襲われて、ケンゴロウの父親が陽動に向かった。でもケンゴロウは後を追って、負傷しちゃったんだよ。俺たちが見つけた時、ケンゴロウは家の敷地の草むらにいた。ひどい傷で、助かったのも奇跡だって聞いた」
ハクはケンゴロウの古傷を思い起こし、悲しい気持ちが胸の奥にじんわりと沁み込んでくるのを感じました。
「俺たちの群れで預かるってなったんだけど、最初の頃はケンゴロウもビクビクしてたよ。知らない雀ばかりだし、大きな羽音を聞くだけで固まってたりな。いつか、自分を迎えに来るって思ってたみたいだけど、もう三年……。寂しさもどっかやっちまったらしい。他にもはぐれた雀を引き取ったりしてたら、アイツが発破かけんだよ。いつまでめそめそしてんだってな」
イザラメは懐かしげにクスと笑いました。
「そうしてるうちにアイツを慕うヤツらが増えて、すっかりうちの若衆のリーダーだよ。ま、たまにやんちゃするのが困りもんだけどな」
枝に実る果実のような賑やかな声と笑顔が街灯に照らされていました。木の葉の隙間から入り込む光は、儚く、らんらんと命の灯をしとやかに映し出していたのです。いつぞ消えゆく灯かもしれません。だとしても、今この時を生きる雀たちは、心に何かを抱えて、その灯を燃やし続けるのでしょう。誰も一羽きりなんてことはないと示すように、輝くのです。
「お前も辛いと思う。でも、お前もきっと誰かを支えられる。俺はそう思うよ。ほら、早く食わないとなくなっちまうぞ」
「うん……」
「どうしたの?」
イザラメは少し怒りのこもった口調で息を荒立てました。
「どうしたのじゃねえよ。どこに行ってんだよ。探したんだぞ」
「何かあったの?」
「夕食の時間だってのにいつまでも顔見せないから探してたんだよ」
「ごめん」
「いいんだよ。行こうぜ」
がやがやと話し声が聞こえてきました。仲間の雀たちが今日の収穫をお互いにねぎらっていました。
多くの食材が並んでいる大処で好きなものを取って食べている雀たちの間を縫って、自分の分を取って空いている場所に落ち着きました。
「何してたんだ?」
唐突にイザラメに聞かれ、ハクは言葉に詰まりました。
「……休んでたんだ」
「猫とかタヌキに襲われんぞ」
「そうだよね。気をつけるよ」
イザラメは横目で盗み見ました。ハクの表情は今日の空模様のように曇っていて、今も苦しそうでした。イザラメはためらうも、やわらかな表情で口を開きました。
「ケンゴロウには俺から言っておく。でも強情だから、そう簡単にやめてくれるとは思えないけどな」
「僕、迷惑じゃないかな?」
「誰にでもできないことはある。それに、ハクは十分みんなの役に立ってるよ」
「そうなのかな」
「ケンゴロウは俺たちの群れの中じゃ、若い雀のリーダーなんだ。アイツも大口叩ているけど、なんだかんだ苦労してるんだよ。たぶん、一番ハクのことを気にかけてるのはケンゴロウだ」
ハクは疑念を浮かべました。
「アイツも同じだよ。もともと、ケンゴロウは他の群れにいた雀だ。トンビに群れを襲われて、ケンゴロウの父親が陽動に向かった。でもケンゴロウは後を追って、負傷しちゃったんだよ。俺たちが見つけた時、ケンゴロウは家の敷地の草むらにいた。ひどい傷で、助かったのも奇跡だって聞いた」
ハクはケンゴロウの古傷を思い起こし、悲しい気持ちが胸の奥にじんわりと沁み込んでくるのを感じました。
「俺たちの群れで預かるってなったんだけど、最初の頃はケンゴロウもビクビクしてたよ。知らない雀ばかりだし、大きな羽音を聞くだけで固まってたりな。いつか、自分を迎えに来るって思ってたみたいだけど、もう三年……。寂しさもどっかやっちまったらしい。他にもはぐれた雀を引き取ったりしてたら、アイツが発破かけんだよ。いつまでめそめそしてんだってな」
イザラメは懐かしげにクスと笑いました。
「そうしてるうちにアイツを慕うヤツらが増えて、すっかりうちの若衆のリーダーだよ。ま、たまにやんちゃするのが困りもんだけどな」
枝に実る果実のような賑やかな声と笑顔が街灯に照らされていました。木の葉の隙間から入り込む光は、儚く、らんらんと命の灯をしとやかに映し出していたのです。いつぞ消えゆく灯かもしれません。だとしても、今この時を生きる雀たちは、心に何かを抱えて、その灯を燃やし続けるのでしょう。誰も一羽きりなんてことはないと示すように、輝くのです。
「お前も辛いと思う。でも、お前もきっと誰かを支えられる。俺はそう思うよ。ほら、早く食わないとなくなっちまうぞ」
「うん……」
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