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8章 盲目の青春
3dbs‐獣と獣
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小見川は自宅で勉強をしていた。学校には精神的にまだ回復してないと理由をつけて休んでいた。
ニュースでは警察の失態を取り上げ、人権団体が抗議活動を行っているのが伝えられていた。世間の反応は完全に小見川達を擁護し、風向きは上々だった。
この風向きがいつまでも吹き続け、メディアがこの話題に飽きてくれたら、俺達の勝ちだ。
小見川は手を休め、椅子から離れる。本棚の中には新しい本が入っていた。英語版の入試対策の本だった。
今のうちに勉強しておき、海外の高校も視野に入れていた。先生にも狙えないことはないと、背中を押してくれた。
冴島と湯藤さんは転校の準備を進めているようだった。同じ学校で仲良くやっていくことだろう。根元、鹿倉、熊田は、話を聞く限りでは今の学校に残り、進学はそれぞれの将来に向けた場所に行くことになるようだ。
不測の事態もあったけど、天は俺達に味方したんだ。
やり直せる未来を想像し、薄く微笑む。
家のチャイムが鳴っている。親はいない。小見川はまたピンポンダッシュするイタズラかと思って、カーテンの隙間から窓の外を覗く。
見覚えのある車が家の前に止まっていた。
警察の覆面パトカー。乗っていたのは貝塚と増古とかいう刑事だろう。今更何の用かと不審に思っていたが、チャイムは一定の間隔で鳴り続けた。
小見川は仕方なく1階へ下り、リビングにある電話機から出た。
「はい……」
「貝塚です。お久しぶりぶりぃ」
「どうも」
覇気のない声ながら、飢えた餓狼のような息づかいが鼓膜を揺らす。
「今親はいないよね?」
「調べて来てるんじゃないんですか?」
小見川はめんどくさそうに言う。
「ふふっ」
「また逮捕ですか?」
「いや、任意の事情聴取だ。あと湯藤、冴島。根元昌弘、熊田敦巳、鹿倉つなぐにも、他の刑事が任意の事情聴取の依頼を申し出てる。5人はもう警視庁に向かってる」
小見川は眉をひそめる。
「この事件のルートを手に入れた。おそらく、お前の知らないこともな」
「そう言ってみんなを誘ったのか?」
「お前は知っておくべきだ。表に出る前に、お前には知ってもらいたいっていう俺の個人的な願望もある。知りたきゃ一緒に来い」
「それだけじゃないだろ」
「もちろん。それでも、お前はここを乗り越える必要があるはずだ。それとも、まさかここまで来て逃げるとか言わないよな?」
小見川は黙った。数秒の間が空き、小見川は電話を切った。
久しぶりの取調室は空気が澄んでいるように思った。時折、男性達の話し声がかすかに聞こえる。
これから何を聞かされるのか。
貝塚という刑事はこの事件のルートを手に入れたと言っていた。この事件の真相を掴んだということだろう。つまり、犯人も分かったということ。
強引に俺達を犯人に仕立てようと、手を考えたのかもしれない。十分に警戒しなければならない。
冴島達には刑事達の話術をあしらう技術がない。不測の事態は必ずある。どういう話をしてくるか分からない以上、咄嗟の対応をできるかが鍵となってくる。どうにか耐え抜いてくれ。
取調室のドアが開いた。貝塚と増古が入ってくる。以前は開けにくかったドアもスムーズに開いていた。
貝塚は小見川の顔を見ることもなく、前に座った。前と同じように背もたれにどっぷりもたれかかっている。
「気分はどうだ?」
「いいわけないでしょ」
貝塚は余裕の笑みを浮かべる。
「じゃ、手っ取り早く壊すか。お前の作った迷宮を」
宣戦布告。ハッタリ。事件の鍵を引き出すための虚勢だ。
「冴島は湯藤から自分の子供の妊娠を報告された。冴島と湯藤は熟慮した結果、隠し通すことを決めた。冴島と湯藤は、妊娠の事実を周りにバレないように細心の注意を払った。体調に合わせて学校を休んだり、体育の授業だけ休んだり。その証拠に、出産が近くなった去年の4月から6月の期間は必ずと言っていいほど体育の授業を休んでる」
増古は取調室の四隅にある席から立ち上がり、紙を小見川の前に置く。それは体育の授業の出席表のコピーだった。貝塚の言った通り、4月から6月まで、湯藤は体育の授業を全部休んでいた。
「体調が悪かったら休むことくらいあるでしょう。女性なんですから」
「その前はほぼ出席していた。この落差は異常だ」
小見川は呆れ返る。
「それで?」
「出産したのは6月の24日。冴島と湯藤は石滝公園の男子トイレで赤ちゃんを殺害し、クーラーボックスに赤ちゃんを入れてどこかに保管していた」
「どこかって……」
小見川は嘲笑する。
「ここからが重要だ。お前等、小見川、鹿倉、根元、熊田がその事実を知ったのは、10月後半から11月初旬。それでお前等は冴島に協力するようになった」
「推測の域を出ていませんね。なんで俺達がその期間に知ったと言いきれるんですか?」
「お前がもし、湯藤が出産する前に知っていたら、公衆トイレで出産させてクーラーボックスの中に保管し続けるなんて危険な方法は取らない。必ず中絶させるか、流産させるように持っていく」
「刑事の勘ですか?」
小見川は馬鹿にしたような薄ら笑いで聞く。
「廃墟で花火をしていたという表向きの理由を作るため、廃墟に物証を残して遺体処理を行う奴が、そんな危険な方法を取るなんておかしいだろう?」
「ふふっ、結局推測じゃないですか。まさかそんな理由で僕等が犯人だって?」
「いいや、それはおまけみたいなものだ。これで裁判所をまるめこめるなんて思っちゃいない」
「じゃあ言ってみなよ」
不敵な笑みが交錯する。
ニュースでは警察の失態を取り上げ、人権団体が抗議活動を行っているのが伝えられていた。世間の反応は完全に小見川達を擁護し、風向きは上々だった。
この風向きがいつまでも吹き続け、メディアがこの話題に飽きてくれたら、俺達の勝ちだ。
小見川は手を休め、椅子から離れる。本棚の中には新しい本が入っていた。英語版の入試対策の本だった。
今のうちに勉強しておき、海外の高校も視野に入れていた。先生にも狙えないことはないと、背中を押してくれた。
冴島と湯藤さんは転校の準備を進めているようだった。同じ学校で仲良くやっていくことだろう。根元、鹿倉、熊田は、話を聞く限りでは今の学校に残り、進学はそれぞれの将来に向けた場所に行くことになるようだ。
不測の事態もあったけど、天は俺達に味方したんだ。
やり直せる未来を想像し、薄く微笑む。
家のチャイムが鳴っている。親はいない。小見川はまたピンポンダッシュするイタズラかと思って、カーテンの隙間から窓の外を覗く。
見覚えのある車が家の前に止まっていた。
警察の覆面パトカー。乗っていたのは貝塚と増古とかいう刑事だろう。今更何の用かと不審に思っていたが、チャイムは一定の間隔で鳴り続けた。
小見川は仕方なく1階へ下り、リビングにある電話機から出た。
「はい……」
「貝塚です。お久しぶりぶりぃ」
「どうも」
覇気のない声ながら、飢えた餓狼のような息づかいが鼓膜を揺らす。
「今親はいないよね?」
「調べて来てるんじゃないんですか?」
小見川はめんどくさそうに言う。
「ふふっ」
「また逮捕ですか?」
「いや、任意の事情聴取だ。あと湯藤、冴島。根元昌弘、熊田敦巳、鹿倉つなぐにも、他の刑事が任意の事情聴取の依頼を申し出てる。5人はもう警視庁に向かってる」
小見川は眉をひそめる。
「この事件のルートを手に入れた。おそらく、お前の知らないこともな」
「そう言ってみんなを誘ったのか?」
「お前は知っておくべきだ。表に出る前に、お前には知ってもらいたいっていう俺の個人的な願望もある。知りたきゃ一緒に来い」
「それだけじゃないだろ」
「もちろん。それでも、お前はここを乗り越える必要があるはずだ。それとも、まさかここまで来て逃げるとか言わないよな?」
小見川は黙った。数秒の間が空き、小見川は電話を切った。
久しぶりの取調室は空気が澄んでいるように思った。時折、男性達の話し声がかすかに聞こえる。
これから何を聞かされるのか。
貝塚という刑事はこの事件のルートを手に入れたと言っていた。この事件の真相を掴んだということだろう。つまり、犯人も分かったということ。
強引に俺達を犯人に仕立てようと、手を考えたのかもしれない。十分に警戒しなければならない。
冴島達には刑事達の話術をあしらう技術がない。不測の事態は必ずある。どういう話をしてくるか分からない以上、咄嗟の対応をできるかが鍵となってくる。どうにか耐え抜いてくれ。
取調室のドアが開いた。貝塚と増古が入ってくる。以前は開けにくかったドアもスムーズに開いていた。
貝塚は小見川の顔を見ることもなく、前に座った。前と同じように背もたれにどっぷりもたれかかっている。
「気分はどうだ?」
「いいわけないでしょ」
貝塚は余裕の笑みを浮かべる。
「じゃ、手っ取り早く壊すか。お前の作った迷宮を」
宣戦布告。ハッタリ。事件の鍵を引き出すための虚勢だ。
「冴島は湯藤から自分の子供の妊娠を報告された。冴島と湯藤は熟慮した結果、隠し通すことを決めた。冴島と湯藤は、妊娠の事実を周りにバレないように細心の注意を払った。体調に合わせて学校を休んだり、体育の授業だけ休んだり。その証拠に、出産が近くなった去年の4月から6月の期間は必ずと言っていいほど体育の授業を休んでる」
増古は取調室の四隅にある席から立ち上がり、紙を小見川の前に置く。それは体育の授業の出席表のコピーだった。貝塚の言った通り、4月から6月まで、湯藤は体育の授業を全部休んでいた。
「体調が悪かったら休むことくらいあるでしょう。女性なんですから」
「その前はほぼ出席していた。この落差は異常だ」
小見川は呆れ返る。
「それで?」
「出産したのは6月の24日。冴島と湯藤は石滝公園の男子トイレで赤ちゃんを殺害し、クーラーボックスに赤ちゃんを入れてどこかに保管していた」
「どこかって……」
小見川は嘲笑する。
「ここからが重要だ。お前等、小見川、鹿倉、根元、熊田がその事実を知ったのは、10月後半から11月初旬。それでお前等は冴島に協力するようになった」
「推測の域を出ていませんね。なんで俺達がその期間に知ったと言いきれるんですか?」
「お前がもし、湯藤が出産する前に知っていたら、公衆トイレで出産させてクーラーボックスの中に保管し続けるなんて危険な方法は取らない。必ず中絶させるか、流産させるように持っていく」
「刑事の勘ですか?」
小見川は馬鹿にしたような薄ら笑いで聞く。
「廃墟で花火をしていたという表向きの理由を作るため、廃墟に物証を残して遺体処理を行う奴が、そんな危険な方法を取るなんておかしいだろう?」
「ふふっ、結局推測じゃないですか。まさかそんな理由で僕等が犯人だって?」
「いいや、それはおまけみたいなものだ。これで裁判所をまるめこめるなんて思っちゃいない」
「じゃあ言ってみなよ」
不敵な笑みが交錯する。
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