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7章 青と桜はもゆるが如く
5dbs‐攻略失敗
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小見川に対抗できる武器を持たない貝塚は、何も聞き出せないまま取調室を出るしかなかった。
乳児の親が冴島、湯藤の両名ではないということになれば、乳児遺体に細工し、遺棄する理由がなくなる。
冴島、湯藤もまた共犯。あり得ない。
他に犯人候補が別にいるとすれば、あの中学校にいる小見川達と関係のある生徒ということになる。
6月末頃に石滝公園の公衆トイレで聞いたという赤ちゃんの産声、男子トイレで見つかった乳児遺体と同じDNA型の胎脂、11月14日に上がった煙。廃墟の床に焦げ跡、廃墟のある山に捨てられていたボウルに残っていた硫黄、遺体にかけられた硫酸と加留部山で発見された、硫酸の成分が残った瓶。
乳児遺体から見つかった数々の点は結ぶことができるが、肝心の犯人へ辿り着けない。全てが状況証拠。
今回の事件の犯人が冴島と湯藤で、秋澤を操っていた人物があの6人以外の人物になると、疑問が残る。なぜ乳児遺体の隠し場所を知っていた?
あんなことをしても、小見川達にとってマイナスにしかならない。
結果的には湯藤と冴島の子供じゃなかったが、それを知っていたら家庭菜園を急に始めるなんて都合の良い話をするわけがない。
硫黄末は単価にして1キロ500円程度で買える。中学生の小遣いで買えるような金額だ。わざわざ農家に譲ってもらうような手間のかかることをしたのは、購入したことを客観的データに残したくなかったからだ。
この不自然さこそ、貝塚が小見川への疑惑を深める肝になっていた。
今回の事件の介入者は、小見川達にとっても予期せぬことだった?
そして、小見川は気づいた。介入者は自分達の味方だと。
鹿倉、根元、熊田は小見川から根元達に宛てられた手紙を一緒に読んでいた。手紙には指示が書かれていると思っていたが、指示は少ししかなかった。
秋澤を操っていた男は自分達の味方だと断言していた。
決して、その人間と接触してはいけない。3人は未だに警察の監視下にあり、妙な動きをすれば勘付かれる。普段通りの日常を過ごすように書かれていた。
そして、小見川の手紙にはこう書かれていた。
辛いのは俺や冴島、湯藤さんだけじゃない。根元達もきっと辛い思いをしていると思う。逮捕されてないのに、俺や冴島と付き合いのある3人は白い目で見られてしまうだろう。
逮捕されてしまった以上、俺や冴島、湯藤さんは今まで通りというわけにはいかなくなる。釈放された後、3人は退学や停学処分になるかもしれない。処分がなかったとしても、転校を余儀なくされるかもしれない。もし、今の学校が辛かったら、転校も考えた方がいい。たとえ離ればなれになっても、俺達はずっと親友だ。
そして、いつかまた、6人で会おう。
冴島、湯藤さん、俺は必ず釈放され、また外で自由に歩き回れるから、安心してほしい。
この手紙を読んだら、すぐに燃やしてゴミに捨ててほしい。また塀の外で会おう。
根元、鹿倉、熊田は熊田の部屋で父親が使っている灰皿の上で手紙を燃やし、ゆらゆら揺れる火を見つめながら、希望のある未来を強く願った。
貝塚と増古は仮眠室で休息を取っていた。捜査本部は既に他の容疑者候補の捜索に向けて、再度洗い直しを行っていた。つまり、冴島、湯藤、小見川は釈放される見通しだ。マークもしなくなり、容疑者候補からも外れる。
しかし、貝塚はまだ3人が白になりきったと思っていなかった。もし、3人が犯行していたとして、犯人じゃなくなる計算があったとしたら何か? 決め手は間違いなく親子鑑定だ。
親子鑑定の精度は99.9%。鑑定精度は申し分ない。
だが、この数字はある条件下において、99.9%になるということだ。条件を満たしていなければ、99.9%にはならない。もし、DNA鑑定が間違っていたとしたら……。
貝塚はベッドに横になっていた体を起こした。
「増古」
貝塚は隣にあるベッドで横になっていた増古に声をかける。
「……はい」
増古はベッドの上で体を転がして、眠さが滲み出た声で応えた。
「ちょっと調べたいことがある。他の連中には内緒で」
「何ですか?」
貝塚は微笑む。
「介入者の下部を探る」
小見川、冴島、湯藤は勾留期限を迎え、釈放となった。それぞれの親に迎えられ、親子同士の涙の再会が綺麗で簡素な白い部屋で行われた。地獄の日々を耐え抜いた3人は同じ部屋で親子の再会を迎え、笑い合った。
そして、それぞれの家族で久しぶりの食事を囲んだ。
数日後、ファストフード店で根元達と再会し、釈放の喜びを分かち合っていた。平日の午後とあって客の入りはまあまあといったところだ。
「釈放されて本当に良かったよ」
鹿倉は喜々とする。テーブルにはたくさんの商品が並んでいた。
「言っただろ。必ず釈放されるって」
小見川は少しやせ細った顔で笑った。
「これでなんとか山は越えたな」
熊田はホッとしたようにため息交じりに言う。
「ああ、これで少しは落ち着ける。けど、まだ犯人が捕まってない。それまでこの事件は終わらない」
小見川は身を引き締めた様子で言う。
「じゃあ俺達は、それまで油断できないってことか」
根元は気分を鎮める。
「一応秋澤を操っていた介入者が犯人じゃないかって誘導してみた。信じてるかどうか分からないけど」
「とりあえず、状況が好転するまで耐え忍ぶしかないのか」
熊田も少し声を潜めて言う。
「ああ」
「冴島とも会いたかったよ」
冴島と湯藤さんは2人の時間を今頃楽しんでいるだろう。ここまで来たら、もう運頼みしかない。
小見川は拳を強く握った。
乳児の親が冴島、湯藤の両名ではないということになれば、乳児遺体に細工し、遺棄する理由がなくなる。
冴島、湯藤もまた共犯。あり得ない。
他に犯人候補が別にいるとすれば、あの中学校にいる小見川達と関係のある生徒ということになる。
6月末頃に石滝公園の公衆トイレで聞いたという赤ちゃんの産声、男子トイレで見つかった乳児遺体と同じDNA型の胎脂、11月14日に上がった煙。廃墟の床に焦げ跡、廃墟のある山に捨てられていたボウルに残っていた硫黄、遺体にかけられた硫酸と加留部山で発見された、硫酸の成分が残った瓶。
乳児遺体から見つかった数々の点は結ぶことができるが、肝心の犯人へ辿り着けない。全てが状況証拠。
今回の事件の犯人が冴島と湯藤で、秋澤を操っていた人物があの6人以外の人物になると、疑問が残る。なぜ乳児遺体の隠し場所を知っていた?
あんなことをしても、小見川達にとってマイナスにしかならない。
結果的には湯藤と冴島の子供じゃなかったが、それを知っていたら家庭菜園を急に始めるなんて都合の良い話をするわけがない。
硫黄末は単価にして1キロ500円程度で買える。中学生の小遣いで買えるような金額だ。わざわざ農家に譲ってもらうような手間のかかることをしたのは、購入したことを客観的データに残したくなかったからだ。
この不自然さこそ、貝塚が小見川への疑惑を深める肝になっていた。
今回の事件の介入者は、小見川達にとっても予期せぬことだった?
そして、小見川は気づいた。介入者は自分達の味方だと。
鹿倉、根元、熊田は小見川から根元達に宛てられた手紙を一緒に読んでいた。手紙には指示が書かれていると思っていたが、指示は少ししかなかった。
秋澤を操っていた男は自分達の味方だと断言していた。
決して、その人間と接触してはいけない。3人は未だに警察の監視下にあり、妙な動きをすれば勘付かれる。普段通りの日常を過ごすように書かれていた。
そして、小見川の手紙にはこう書かれていた。
辛いのは俺や冴島、湯藤さんだけじゃない。根元達もきっと辛い思いをしていると思う。逮捕されてないのに、俺や冴島と付き合いのある3人は白い目で見られてしまうだろう。
逮捕されてしまった以上、俺や冴島、湯藤さんは今まで通りというわけにはいかなくなる。釈放された後、3人は退学や停学処分になるかもしれない。処分がなかったとしても、転校を余儀なくされるかもしれない。もし、今の学校が辛かったら、転校も考えた方がいい。たとえ離ればなれになっても、俺達はずっと親友だ。
そして、いつかまた、6人で会おう。
冴島、湯藤さん、俺は必ず釈放され、また外で自由に歩き回れるから、安心してほしい。
この手紙を読んだら、すぐに燃やしてゴミに捨ててほしい。また塀の外で会おう。
根元、鹿倉、熊田は熊田の部屋で父親が使っている灰皿の上で手紙を燃やし、ゆらゆら揺れる火を見つめながら、希望のある未来を強く願った。
貝塚と増古は仮眠室で休息を取っていた。捜査本部は既に他の容疑者候補の捜索に向けて、再度洗い直しを行っていた。つまり、冴島、湯藤、小見川は釈放される見通しだ。マークもしなくなり、容疑者候補からも外れる。
しかし、貝塚はまだ3人が白になりきったと思っていなかった。もし、3人が犯行していたとして、犯人じゃなくなる計算があったとしたら何か? 決め手は間違いなく親子鑑定だ。
親子鑑定の精度は99.9%。鑑定精度は申し分ない。
だが、この数字はある条件下において、99.9%になるということだ。条件を満たしていなければ、99.9%にはならない。もし、DNA鑑定が間違っていたとしたら……。
貝塚はベッドに横になっていた体を起こした。
「増古」
貝塚は隣にあるベッドで横になっていた増古に声をかける。
「……はい」
増古はベッドの上で体を転がして、眠さが滲み出た声で応えた。
「ちょっと調べたいことがある。他の連中には内緒で」
「何ですか?」
貝塚は微笑む。
「介入者の下部を探る」
小見川、冴島、湯藤は勾留期限を迎え、釈放となった。それぞれの親に迎えられ、親子同士の涙の再会が綺麗で簡素な白い部屋で行われた。地獄の日々を耐え抜いた3人は同じ部屋で親子の再会を迎え、笑い合った。
そして、それぞれの家族で久しぶりの食事を囲んだ。
数日後、ファストフード店で根元達と再会し、釈放の喜びを分かち合っていた。平日の午後とあって客の入りはまあまあといったところだ。
「釈放されて本当に良かったよ」
鹿倉は喜々とする。テーブルにはたくさんの商品が並んでいた。
「言っただろ。必ず釈放されるって」
小見川は少しやせ細った顔で笑った。
「これでなんとか山は越えたな」
熊田はホッとしたようにため息交じりに言う。
「ああ、これで少しは落ち着ける。けど、まだ犯人が捕まってない。それまでこの事件は終わらない」
小見川は身を引き締めた様子で言う。
「じゃあ俺達は、それまで油断できないってことか」
根元は気分を鎮める。
「一応秋澤を操っていた介入者が犯人じゃないかって誘導してみた。信じてるかどうか分からないけど」
「とりあえず、状況が好転するまで耐え忍ぶしかないのか」
熊田も少し声を潜めて言う。
「ああ」
「冴島とも会いたかったよ」
冴島と湯藤さんは2人の時間を今頃楽しんでいるだろう。ここまで来たら、もう運頼みしかない。
小見川は拳を強く握った。
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