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5章 青に濁る
6dbs-聞き取り
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こじんまりとした趣のある内装のカフェに、小見川達と増古は入っていた。小見川達がついている席の通路を挟んで右隣りに、冴島と増古が向かい合って座っている。
「ここは僕達の奢りなので、遠慮せずに頼んで下さい」
ぎこちない愛想笑いだったが、増古の丁寧な口調もあって、貝塚とかいう男よりも印象は良く見えた。
「じゃあ、いただきます」
緊張した面持ちで熊田は会釈する。
小見川はメニュー表を見ている素振りを見せながら、横目で冴島の様子を窺う。冴島は落ち着きなくテーブルに置かれた水を何度も飲んでいた。
貝塚が店内に入ってきた。
「今どの段階?」
「メニューを選んでもらってるところです」
「あっそ。俺コーヒーとサンドイッチね」
「分かりました」
貝塚は増古の隣に座る。
「決まったら言って下さい」
「はい」
「あの、刑事さんですか?」
小見川は少し興味ありげな様子で問う。
「はい」
「初めて見ました。生の刑事さん」
小見川は根元達に笑顔を振る。
「そうだな。すげぇ」
小見川のフリに応える根元達。
「正直、刑事さんって強面というイメージがあったので、いきなりじゃんけんし出した時は、ちょっと戸惑ってしまいました」
「刑事も色々です」
「そう。先輩をパシリに使う後輩もいれば、誠実な先輩もいるってことさ」
「パシリにしてませんよ。じゃんけんの結果です」
「普通そこは後輩が率先して行くもんだろうよ。なあ?」
貝塚は小見川達に同調を求めたが、小見川達は苦笑いを浮かべるしかなかった。和やかな雰囲気に緊張が解けている。小見川は根元達の様子に少し安心し始めた。
「もう決まった?」
小見川は根元達に確認する。
「おう。いいよな?」
「ああ」
「じゃあ押して下さい」
両サイドの2つのテーブルで、端にある呼び鈴が押された。
小見川達はテーブルに並んだ昔ながらの料理を食べ始めていた。
「さ、本題に入ろうか」
貝塚は表情を引き締めて口火を切った。
「6月24日16時半ごろ、石滝公園へ行ってますね? 石滝公園へ行った理由はなんですか?」
「彼女とのデートです」
冴島はゆっくり答える。
「その彼女、湯藤愛美さんは15時55分ごろに石滝公園に来ていました。その日湯藤さんは学校を休んでいました。また、湯藤さんはその頃よく学校を休んでいたそうです。学校に確認したところ、熱が出て体調が悪いという理由でした。6月24日は学校を休んで4日目です。湯藤さんは6月20日から24日まで休んでいますが、火曜から金曜なのでほぼ一週間休んでいます。25日の部活も休んでいます。計5日です。熱を伴った風邪なら、あり得る話です。しかし、24日には外に出ています。熱を出すほどの風邪なら、外に出られるかどうか微妙なところです。湯藤さんの家から石滝公園までは、歩いて20分ほどかかります。そこに向かうメリットがありません。何か聞いてないでしょうか?」
増古は優しそうな雰囲気から鋭い目つきに変わっていた。これが刑事。言いようのない圧迫感に、小見川達の手は止まっていた。
「実は……」
冴島は乾いた口を開いた。
「熱を出していたというのは、嘘なんです」
「なぜそんな嘘を?」
「彼女は吹奏楽部なんですけど、思った演奏ができなくて、悩んでいました。学校もしばらく休みたいと、言ってました」
「石滝公園には、彼女に呼び出されたから?」
「はい。部活が終わったら来てほしいと言ってましたが、俺は部活を休んですぐに行くと言って、駆けつけたんです」
「石滝公園で2人は会い、何をしましたか?」
「公園内を歩きながら、彼女の悩みを聞いたり、他愛もない話をしていました」
「公園のトイレは使用しましたか?」
「はい。お互い1度トイレに行ってます」
すると、貝塚が話し出す。
「君と湯藤さん、服を変えて公園を出てきてるね。湯藤さんの方は男物。おそらく君の物だ。これはどうして?」
貝塚は手に持った紙を見ながら訊く。
「その日、セックスしたんです。公園のトイレで」
冴島はおずおずと証言する。
「トイレで?」
「はい。だから着替えを取りに公園を出たんです」
「なるほどね。それで君は一度家に帰り、流れでセックスをしたのち、2人分の服を持って公園に来たというわけか」
「はい」
「大人しそうな顔してやるねぇ~」
貝塚はおだてる。冴島は苦笑する。
「あのでかい荷物も着替え用の服ってわけか。でもさ、セックスするなら着替えないようにすれば良かったんじゃない?」
「夢中になり過ぎて、汚してしまったんです」
「あー、まあそういうことしてる時にそんなこと考えないもんねぇ~」
「はい」
「なるほど。あともう一つ聞いていいかな?」
「何ですか?」
「セックスをした場所は男子トイレの個室の何番目?」
「えっと……覚えてません」
「そっか」
急に貝塚は大人しくなり、増古は貝塚に視線を振った。すると、貝塚はニヤリと口元に笑みを残して頷く。
「質問は以上です。ありがとうございました」
「あ、はい」
「どうぞ、食事の続きを」
安堵した様子で冴島はハンバーグを食べ始めた。小見川達も安堵と不安が入り交じった微妙な余韻を感じながら、敵からの奉仕を遠慮なく口に入れた。
ジューシーな肉の味はあんまり感じられず、ただお腹に溜まる感覚だけが残った。
「ここは僕達の奢りなので、遠慮せずに頼んで下さい」
ぎこちない愛想笑いだったが、増古の丁寧な口調もあって、貝塚とかいう男よりも印象は良く見えた。
「じゃあ、いただきます」
緊張した面持ちで熊田は会釈する。
小見川はメニュー表を見ている素振りを見せながら、横目で冴島の様子を窺う。冴島は落ち着きなくテーブルに置かれた水を何度も飲んでいた。
貝塚が店内に入ってきた。
「今どの段階?」
「メニューを選んでもらってるところです」
「あっそ。俺コーヒーとサンドイッチね」
「分かりました」
貝塚は増古の隣に座る。
「決まったら言って下さい」
「はい」
「あの、刑事さんですか?」
小見川は少し興味ありげな様子で問う。
「はい」
「初めて見ました。生の刑事さん」
小見川は根元達に笑顔を振る。
「そうだな。すげぇ」
小見川のフリに応える根元達。
「正直、刑事さんって強面というイメージがあったので、いきなりじゃんけんし出した時は、ちょっと戸惑ってしまいました」
「刑事も色々です」
「そう。先輩をパシリに使う後輩もいれば、誠実な先輩もいるってことさ」
「パシリにしてませんよ。じゃんけんの結果です」
「普通そこは後輩が率先して行くもんだろうよ。なあ?」
貝塚は小見川達に同調を求めたが、小見川達は苦笑いを浮かべるしかなかった。和やかな雰囲気に緊張が解けている。小見川は根元達の様子に少し安心し始めた。
「もう決まった?」
小見川は根元達に確認する。
「おう。いいよな?」
「ああ」
「じゃあ押して下さい」
両サイドの2つのテーブルで、端にある呼び鈴が押された。
小見川達はテーブルに並んだ昔ながらの料理を食べ始めていた。
「さ、本題に入ろうか」
貝塚は表情を引き締めて口火を切った。
「6月24日16時半ごろ、石滝公園へ行ってますね? 石滝公園へ行った理由はなんですか?」
「彼女とのデートです」
冴島はゆっくり答える。
「その彼女、湯藤愛美さんは15時55分ごろに石滝公園に来ていました。その日湯藤さんは学校を休んでいました。また、湯藤さんはその頃よく学校を休んでいたそうです。学校に確認したところ、熱が出て体調が悪いという理由でした。6月24日は学校を休んで4日目です。湯藤さんは6月20日から24日まで休んでいますが、火曜から金曜なのでほぼ一週間休んでいます。25日の部活も休んでいます。計5日です。熱を伴った風邪なら、あり得る話です。しかし、24日には外に出ています。熱を出すほどの風邪なら、外に出られるかどうか微妙なところです。湯藤さんの家から石滝公園までは、歩いて20分ほどかかります。そこに向かうメリットがありません。何か聞いてないでしょうか?」
増古は優しそうな雰囲気から鋭い目つきに変わっていた。これが刑事。言いようのない圧迫感に、小見川達の手は止まっていた。
「実は……」
冴島は乾いた口を開いた。
「熱を出していたというのは、嘘なんです」
「なぜそんな嘘を?」
「彼女は吹奏楽部なんですけど、思った演奏ができなくて、悩んでいました。学校もしばらく休みたいと、言ってました」
「石滝公園には、彼女に呼び出されたから?」
「はい。部活が終わったら来てほしいと言ってましたが、俺は部活を休んですぐに行くと言って、駆けつけたんです」
「石滝公園で2人は会い、何をしましたか?」
「公園内を歩きながら、彼女の悩みを聞いたり、他愛もない話をしていました」
「公園のトイレは使用しましたか?」
「はい。お互い1度トイレに行ってます」
すると、貝塚が話し出す。
「君と湯藤さん、服を変えて公園を出てきてるね。湯藤さんの方は男物。おそらく君の物だ。これはどうして?」
貝塚は手に持った紙を見ながら訊く。
「その日、セックスしたんです。公園のトイレで」
冴島はおずおずと証言する。
「トイレで?」
「はい。だから着替えを取りに公園を出たんです」
「なるほどね。それで君は一度家に帰り、流れでセックスをしたのち、2人分の服を持って公園に来たというわけか」
「はい」
「大人しそうな顔してやるねぇ~」
貝塚はおだてる。冴島は苦笑する。
「あのでかい荷物も着替え用の服ってわけか。でもさ、セックスするなら着替えないようにすれば良かったんじゃない?」
「夢中になり過ぎて、汚してしまったんです」
「あー、まあそういうことしてる時にそんなこと考えないもんねぇ~」
「はい」
「なるほど。あともう一つ聞いていいかな?」
「何ですか?」
「セックスをした場所は男子トイレの個室の何番目?」
「えっと……覚えてません」
「そっか」
急に貝塚は大人しくなり、増古は貝塚に視線を振った。すると、貝塚はニヤリと口元に笑みを残して頷く。
「質問は以上です。ありがとうございました」
「あ、はい」
「どうぞ、食事の続きを」
安堵した様子で冴島はハンバーグを食べ始めた。小見川達も安堵と不安が入り交じった微妙な余韻を感じながら、敵からの奉仕を遠慮なく口に入れた。
ジューシーな肉の味はあんまり感じられず、ただお腹に溜まる感覚だけが残った。
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