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5章 青に濁る
3dbs-捜査会議
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警視庁の一室。ドアの横には『乳児遺棄事件捜査本部』の文字が入った看板がかけられていた。およそ30名の刑事が席に着き、増古がこれまでの経緯を話している。
「以上です」
話し終えた増古は椅子に座る。刑事達の前に立つ本田課長は頷く。
「これからだが、捜査方針を決定したいと思う。貝塚、意見はないか?」
増古の隣に座る貝塚に、周りの刑事達の視線が注がれる。貝塚は座ったまま話し出す。
「遺体の発見が最優先ですが、遺棄した場所についての手がかりはまったく発見できていません。一番の近道は犯人の特定です。石滝公園、加留部山の廃墟。この2つから探った方がいいと思います。女子高生の証言によると、石滝公園の男子トイレで、赤ちゃんの泣き声を聞いたのは6月末頃から7月初旬。加留部山の廃墟から煙が上がっていたのは11月14日。およそ5ヶ月の間がありますが、この5ヶ月の間にどこかに保管したのち、加留部山で遺体を処理していたと思われます」
すると、刑事達の中から1つ手が挙がった。
「狩野」
「はい。加留部山で膿の付着したクーラーボックスが発見されたからといって、廃墟で煙が上がった日にクーラーボックスが捨てられたという根拠にはならないんじゃないでしょうか」
「いえ、クーラーボックスには膿だけではなく、タオルの繊維が残っていました」
「タオル?」
本田は眉をひそめる。
「はい。おそらく、タオルは膿を全て拭き取るために使われたんだと思います。その時に、タオルの繊維が残ってしまった」
「なるほど。狩野、いいかな?」
「はい」
狩野は複雑そうな表情をする。
「加留部山と石滝公園、ここから徹底的に犯人の情報を集めれば、自ずと犯人は特定できると思われます。以上です」
「俺もその意見に賛同する。では、下村班と山崎班は加留部山周辺で学生らしき人物を見かけなかったか聞き込みを。諸里班は鑑識と共に加留部山の廃墟を捜索。貝塚班と細島班は石滝公園周辺の防犯カメラに映っている学生をリストアップ。的場班は捜索隊と共に、他に何か捨てられていないか山中を調べてくれ」
刑事達は一斉に返事をして、立ち上がった。
貝塚と増古は車で石滝公園へ向かっていた。しかし、貝塚と増古の乗った車は渋滞に巻き込まれていた。年末の帰省やらなんやらで渋滞に捕まったのだ。
「あぁ~年末に仕事かよ」
貝塚は気だるげに口端を曲げる。
「そんなに嫌そうにしてますけど、年末に仕事入れたくないなら最初から笹見さんの頼みを断ってるでしょ?」
貝塚は核心を突かれて、面白くなさそうにする。増古は前を向いたまま前の車が進むかどうかをジッと見ている。
「言うくらいいいじゃん」
ふて腐れた貝塚は窓にできた結露でお絵かきを始める。
「貝塚さん、年末に何か予定あったんですか?」
「いや、特になんもねぇよ。お前こそ年末に何か予定入れてたんじゃないのか? 奥さんにまた怒られたりして」
貝塚は口角を上げて増古の様子を窺う。
「まあ……」
「捜査から外れてもいいんだぞ。もう公開捜査になったんだから、家族サービスしてやっても誰も責めやしない」
「この事件が終わってからでも、休みは取れますから」
「奥さんに逃げられんなよ」
「気をつけます」
増古は神妙に首肯した。
貝塚は雪だるまの絵を完成させ、助手席の背に深くもたれかかる。
「しかし気の毒だよな」
「なんのことですか?」
「赤ちゃんだよ」
「ああ、お母さんからも見捨てられたんですからね」
「まあな、でも生きてても結局里親か児童施設に預けられたりするんだろう。他の子はみんな父親と母親がいるのに、知らない人と生活するのが当たり前の生活なんだよなぁ。どういう気分なんだろうな?」
「やっぱり、悲しいんじゃないですか?」
「そうかもな。生きてりゃあ誰かが知ってくれてるけど、産まれたばかりの赤ちゃんには、誰の記憶にも残ってない。たぶん知ってたのは母親と父親だけだろう。その2人に見捨てられて、箱の中に押し込められたら、誰にも気づかれずに死んでいく。ちゃんと悲しんでくれる人もいないってのは、残酷かもな」
しみじみと呟く貝塚に少しばかり驚く増古。にわかに悲哀を纏う車内。貝塚は朧げな瞳を閉じて、「着いたら起こしてくれ」と増古に言って仮眠を取り始めた。
「以上です」
話し終えた増古は椅子に座る。刑事達の前に立つ本田課長は頷く。
「これからだが、捜査方針を決定したいと思う。貝塚、意見はないか?」
増古の隣に座る貝塚に、周りの刑事達の視線が注がれる。貝塚は座ったまま話し出す。
「遺体の発見が最優先ですが、遺棄した場所についての手がかりはまったく発見できていません。一番の近道は犯人の特定です。石滝公園、加留部山の廃墟。この2つから探った方がいいと思います。女子高生の証言によると、石滝公園の男子トイレで、赤ちゃんの泣き声を聞いたのは6月末頃から7月初旬。加留部山の廃墟から煙が上がっていたのは11月14日。およそ5ヶ月の間がありますが、この5ヶ月の間にどこかに保管したのち、加留部山で遺体を処理していたと思われます」
すると、刑事達の中から1つ手が挙がった。
「狩野」
「はい。加留部山で膿の付着したクーラーボックスが発見されたからといって、廃墟で煙が上がった日にクーラーボックスが捨てられたという根拠にはならないんじゃないでしょうか」
「いえ、クーラーボックスには膿だけではなく、タオルの繊維が残っていました」
「タオル?」
本田は眉をひそめる。
「はい。おそらく、タオルは膿を全て拭き取るために使われたんだと思います。その時に、タオルの繊維が残ってしまった」
「なるほど。狩野、いいかな?」
「はい」
狩野は複雑そうな表情をする。
「加留部山と石滝公園、ここから徹底的に犯人の情報を集めれば、自ずと犯人は特定できると思われます。以上です」
「俺もその意見に賛同する。では、下村班と山崎班は加留部山周辺で学生らしき人物を見かけなかったか聞き込みを。諸里班は鑑識と共に加留部山の廃墟を捜索。貝塚班と細島班は石滝公園周辺の防犯カメラに映っている学生をリストアップ。的場班は捜索隊と共に、他に何か捨てられていないか山中を調べてくれ」
刑事達は一斉に返事をして、立ち上がった。
貝塚と増古は車で石滝公園へ向かっていた。しかし、貝塚と増古の乗った車は渋滞に巻き込まれていた。年末の帰省やらなんやらで渋滞に捕まったのだ。
「あぁ~年末に仕事かよ」
貝塚は気だるげに口端を曲げる。
「そんなに嫌そうにしてますけど、年末に仕事入れたくないなら最初から笹見さんの頼みを断ってるでしょ?」
貝塚は核心を突かれて、面白くなさそうにする。増古は前を向いたまま前の車が進むかどうかをジッと見ている。
「言うくらいいいじゃん」
ふて腐れた貝塚は窓にできた結露でお絵かきを始める。
「貝塚さん、年末に何か予定あったんですか?」
「いや、特になんもねぇよ。お前こそ年末に何か予定入れてたんじゃないのか? 奥さんにまた怒られたりして」
貝塚は口角を上げて増古の様子を窺う。
「まあ……」
「捜査から外れてもいいんだぞ。もう公開捜査になったんだから、家族サービスしてやっても誰も責めやしない」
「この事件が終わってからでも、休みは取れますから」
「奥さんに逃げられんなよ」
「気をつけます」
増古は神妙に首肯した。
貝塚は雪だるまの絵を完成させ、助手席の背に深くもたれかかる。
「しかし気の毒だよな」
「なんのことですか?」
「赤ちゃんだよ」
「ああ、お母さんからも見捨てられたんですからね」
「まあな、でも生きてても結局里親か児童施設に預けられたりするんだろう。他の子はみんな父親と母親がいるのに、知らない人と生活するのが当たり前の生活なんだよなぁ。どういう気分なんだろうな?」
「やっぱり、悲しいんじゃないですか?」
「そうかもな。生きてりゃあ誰かが知ってくれてるけど、産まれたばかりの赤ちゃんには、誰の記憶にも残ってない。たぶん知ってたのは母親と父親だけだろう。その2人に見捨てられて、箱の中に押し込められたら、誰にも気づかれずに死んでいく。ちゃんと悲しんでくれる人もいないってのは、残酷かもな」
しみじみと呟く貝塚に少しばかり驚く増古。にわかに悲哀を纏う車内。貝塚は朧げな瞳を閉じて、「着いたら起こしてくれ」と増古に言って仮眠を取り始めた。
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