サイコラビリンス

國灯闇一

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3章 汚れた青春

4dbs-干渉

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 散々ゲームセンターで遊び、気の済んだ小見川達は深まった夜の街からベッドタウンへ帰ろうとしていた。

「もうちょっとでジャックポットだったな」

 冴島は落胆している。

「おかしくね!? 5番と8番のラッシュだったぞあれ。なんであの2つの台だけジャックポット出るんだよ」

「だよなぁ。ジャックポットチャンスも俺達の台よりも倍は出てるよ」

「いや! 3倍は出てたな」

 根元と冴島は競馬に負けたおじさんのたわむれを演じている。それを遠目に見ている4人は苦笑いを浮かべていた。

「湯藤さん。1つ聞いてもいいか?」

「なに?」

 小見川は少し真剣な表情で聞く。

「お腹に身ごもってる時、誰にもバレなかったのか?」

「うん。意外と、バレなかった。学校や体育も……生理があってとか、風邪気味とか言って休んだし。お腹が少し大きくなっても、直接聞けないでしょ? 赤ちゃんができたのなんて」

「確かに。冗談ぽく聞けるかもだけど、いざってなると難しいかもな」

 熊田は渋い表情をする。

「それに、思ったより大きくならなかったから、ちょっと便秘気味的な感じで言えば誤魔化せそうだったし」

「でも、ずっと休んでたらおかしいと思われるんじゃないか?」

 熊田が疑問を投げかける。

「ずっと休んでたわけじゃないよ。妊娠して5ヶ月目くらいまでは普通に学校に通ってたし」

「父親にもバレなかったのか?」

「うん。特に聞かれなかった」

「それがどうかしたの?」

 鹿倉は怪訝けげんに問う。

「いや、思い返したんだけど、もしバレるならそこからボロが出る可能性もあると思ってな」

「え?」

「もし、湯藤さんが休んだことを不審に思う人間がいたら、調べようとする人が現れてもおかしくはない」

「そうか? 考え過ぎだろ」

 熊田は楽観的に捉える。小見川は熊田の言うことも一理あると思い、それ以上は何も言わなかった。

「愛美」

 湯藤の名前を呼ぶ声。それが冴島の声でないことはすぐに分かった。小見川達の視線を集めた人はすらっとした中年男性だった。

「誰?」

 根元が小声で冴島に問う。

「愛美のお父さん」

「へ~」

 根元は率直に若そうな父親だなと思った。

「お友達?」

 爽やかに着こなしたネイビースーツ姿の湯藤の父親は、ちょっとカッコよかった。

「うん」

「愛美の父親です」

 湯藤の父親は頭を下げた。

「みんな仲良くしてくれてありがとね」

「いえ……」

「冴島君もありがとね」

「あ、はい」

 冴島は少し緊張しているように見えた。

「みんな送ろうか?」

「あ、いや。悪いんで、自分達で帰ります」

 小見川はぎこちない笑顔で答える。

「遠慮なんてしなくていいのに。ま、友達同士で帰りたい時もあるか。さすがに全員は乗せられないし」

「はい」

「気を付けてね」

「ありがとうございます」

 小見川は会釈する。

「じゃあね」

「……うん」

 冴島と湯藤は名残惜しそうに別れを告げる。カップルってこういうものなのかと、密かに興奮している鹿倉と根元、熊田。
 しかし、小見川はその様子が別れを惜しむ寂しさとは違うような気がしていた。
 2人は少し見つめ合った後、湯藤は父親と一緒に路肩に止まっているATR4のブラックの車に向かった。

「高そうな車だな」

 熊田は感嘆する。

「湯藤のお父さんって何やってんの?」

「IT企業に勤めてるって聞いたことある」

 鹿倉は根元の問いに答える。

「IT……」

 根元は湯藤の父親に羨望の眼差しを向ける。

「お金には困らないほど収入あるらしいよ」

「へ~! すげぇな」

 小見川は冴島の背中を見つめていた。小見川は自分の知らない2人の関係に、漠然とした悲しみを覚えた。

 テスト期間となり、生徒達の間で勉強への集中度が少しだけ高まる。その頃、小見川達の間で別のことが頭をつついていた。

「小見川君」

 鹿倉は学生鞄を背負って教室に入ってきた小見川に声をかける。鹿倉の後ろには根元達もいた。

「おはよう」

 少し眠そうな小見川は挨拶をする。

「ちょっといいか?」

「ん?」

「他の場所で話そう」

 熊田は周りを気にしながらそう言った。小見川は険しい表情になる。


 小見川達は誰もいない特別教室の前の廊下に移動した。

「これ見て」

 小見川は鹿倉に携帯画面を見せられる。ネットの動画配信サービスで投稿された動画だった。
 空に立ち昇る灰色の煙。その煙は山の中にある古めかしい廃墟の中から出ていた。動画を撮っている場所は山の見える遥か遠くからだと推察できた。

「まずくない?」

 鹿倉は不安げに聞く。

「大丈夫だよ。再生回数も1000くらいじゃないか。誰も気にしてないよ」

「そうかな?」

「あそこに残っているもので、俺達に辿りつけるものは何1つない。気にし過ぎだ」

「そっか……。そうだよね。ちょっと不安になって」

 鹿倉は安堵の笑みを見せる。

「さ、戻ろう」

 小見川達は教室に戻り始めた。
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