サイコラビリンス

國灯闇一

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3章 汚れた青春

3dbs-汚して手に入れた平穏

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 放課後、生徒達は部活に励む時間となっていた。

「アルトーレ家のみなさん、お集まりいただき誠にありがとうございます」

 根元はゆっくりとした口調で話しながら、お辞儀をする。ワックスで強引に固めた頭がしっかり頭に張り付き、横に流れている。

「お食事の用意ができましたので、イーティングルームへお集まり下さい」

「今日の朝食、少しお塩が効き過ぎでしたわ」

 少し年季の入ったソファーに座った女子生徒が苦言を申す。

「シェフに伝えておきます」

「今度加減を間違えたら、この家を出ていってもらうわ」

「そう言うなマリア。そんなに不味い飯じゃなかっただろ~」

 おじさん役の男子生徒がなだめる。

「高いお金で雇ってるんだから当然じゃないですか」

 教室の中は殺伐とした空気に包まれていた。

 現在、小見川達2年生が作ったシナリオのワンシーンを練習していた。
 資産家のブランドン・アルトーレが亡くなり、遺産相続の関係で集まったアルトーレ家の親族が訪れていたのは、ブランドンが最期の住処として建てた大きな屋敷だった。
 親族はブランドンの兄と弟、ブランドンの娘、2人の息子。この5人の中には家族を持っている人もおり、屋敷の中にはたくさんの人が招かれているという状況だった。

 それぞれ屋敷に着いたのが昨日の夜。そして今日の午後18時、遺言状が開封されるはずだった。

「なあ、いつになったら弁護士は来るんだ?」

 ブランドンの息子の1人、カルビン役の男子生徒が聞く。

「私には分かりかねます」

 執事役の根元は無表情で答える。

「電話してくれよ」

 イラついた様子で根元に言う1年生の男子生徒。彼はブランドンの弟の息子の役だった。

「連絡先は聞いておりません」

「聞いとけよ~」

「聞いたのですが、お教えできないと言われました」

「は?」

「ブランドン様は、遺産相続の手続きをしていたことすら、誰にも言われておられなかったのです」

「じゃあ、それを知っていたのは、弁護士だけ?」

 ブランドンの弟の妻役の女子学生が戸惑いながら聞く。

「はい」

 根元がそう言った瞬間、押し黙る出演者。それが少しの時を刻んで、カットがかかった。
 緊張が解けて、教室の中にいた部員がせっせと次のシーンの準備に入る。
 根元は気疲れをたずさえて、小見川達の下へ近づく。

「お疲れ」

 小見川が根元に声をかける。

「なんとかなったぁ」

「究極の一夜漬けが成功したな」

 熊田はニヤニヤしながら根元の目の下を指差す。

「何でお前等今回裏方に回ったんだよ?」

「裏方も結構味あるだろ」

 小見川は薄く笑みを見せて言う。

「そうかぁ?」

「小道具作りや衣装作り、脚本、演出。奥が深いんだよ」

 熊田は小見川に同調する。

「鹿倉と冴島もセット運びに回っちゃうし、俺だけ仲間外れかよ」

「何いじけてんだよ」

「そういうんじゃねぇよ」

「後で良い子良い子してやるよ」

「おちょっくってんのかこの野郎!」

 小見川と熊田はいつものように根元をイジって笑い合う。


 小見川達は部活を終えてモノレールに乗っていた。駅を2つ通り過ぎた場所へ行くと、そこには建ち並ぶビル群が軒を連ねる眠らない街がある。流行の物がありふれている街は、若者のいこいの場でもある。

 小見川達は気分転換をしに、ゲームセンターに行こうとしていた。

「お前、何やってんの?」

 熊田は隣に座る冴島の携帯画面を覗き込む。

「ビート・クルセイド」

「お前もやってんの?」

「やってないの?」

「やってないよ。だってそれすげぇギガ食うじゃん」

「そう? 熊田が色々アプリ入れ過ぎてんじゃないの?」

「まあ……」

 急に熊田の歯切れが悪くなる。

「ちゃんと断捨離しなきゃ」

「必要だから入れてんだよ」

「ふふふっ、めんどくさいよね?」

 冴島の隣に座る湯藤さんが熊田の気持ちに同調する。

「だよなぁ」

「AIが発達すれば、そういうのも勝手にやってくれるよ」

 3人の前に立っていた小見川が近未来的な発言をする。

「AIが発達し過ぎたら、俺達ダメ人間になりそうだな」

「根元がこれ以上ダメ人間になったら終わりじゃね?」

「お前それどういう意味だよ?」

「ごめんごめんごめん! 冗談だよ!」

「んほんっ!!」

 横に立っていたおじさんがあからさまな咳払いをする。小見川達は一瞬にして静まり、小見川は小さく「すみません」と謝った。
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