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3章 汚れた青春
2dbs-冬が刺す
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「何ですか?」
小見川は冷静に言葉を絞り出した。
「最近この辺でわいせつ事件が多数あって、2週間くらい前から発生してるんだけど、不審な男を見なかったかい?」
優しそうな印象の1人の警察官が聞いてくる。
「いえ、俺達あんまりここ通らないんで、お役に立てないと思います」
「見てないですかぁ」
小見川と話していた警察官は残念そうにしている。
「はい」
「お時間取らせてすみません」
警察官は一礼して去っていく。その時、見守っていた怖そうなおじさんの警察官は、小見川達を鋭い目つきで睨みつけて背を向けた。小見川は感じ悪い警察官の離れていく背中を睨み返す。
「びっくりした……」
熊田は思わず声を漏らした。
「変に動揺するなよ」
「簡単に言うなよ」
「怪しい仕草してると根拠もなく疑われるぞ」
萎えたテンションのまま、小見川達はそれぞれの帰路へ歩き出した。
小見川は自宅に帰っても落ち着けずにいた。夕食時、ニュースを見ながら食事をするのが好きな父親は、テレビに釘付けだった。
「お父さん、行儀悪いわよ」
「少しくらいいいだろぅ。常に社会に関心があるんだよ」
「そんなこと言って、ただテレビが観たいだけでしょ」
いつもの光景だった。でも、何かが違う。事件のニュースが出る度に、赤ちゃんの遺体を処理する時の光景が頭を過る。自然と小見川の手は止まっていた。
「どうしたの?」
小見川の母親は小見川の様子に気づく。
「あ、ああ、ちょっと友達とハンバーガー食ってきたから、あんまり腹減ってないかもしれない。後で食うよ」
小見川はそう言って、ダイニングを出た。
「変な子」
「難しい年頃なんだからしょうがないよ」
小見川は自室に入ってすぐ、ベッドに仰向けで寝転んだ。
寝て忘れよう。
そう祈るような気持ちで目を瞑った。
――――――――――
「ふぃ~さみぃー!」
寒さが肌に染みてくる季節となり、小見川達も含め、街を歩く人々は温かそうな防寒具を身に纏っていた。顔をしかめて道を歩く根元は体をずっと擦っている。
「早く春来ねぇかなぁ」
今にも雨が降り出しそうな曇り空が気持ちをどんよりさせていた。
「まだ12月だぞ。当分来ねぇよ」
熊田は呆れながらも同じく携帯カイロを手に持っていた。
「おい、なんか元気ねぇな鹿倉」
熊田は俯き加減に歩く鹿倉の顔を覗き込む。
「最近、苦しいんだ」
「体調悪いのか?」
「違う。なんか、息苦しいんだよ。ずっと」
「どういうことだよ」
根元は困惑する。
「みんなだって感じてるんだろ? 本当は」
3人は黙り込む。
「人の目が、責めてきてる気がする。僕等のしてたことが、本当は誰かに知られているんじゃないかって、突然不安になるんだ」
「そんなこと言ったってしょうがねぇだろ。もう……そうしちまったんだから」
根元は言葉尻にかけて声が小さくなっていく。
「分かってるよ。どうしようもないって。でも、こんな気持ちで、ずっと生活していくのって、生きてるのかなって……」
小見川達の足取りが重くなる。小見川は眉間にしわを寄せて大きく息を吸った。
「冴島は、もっと苦しいはずだ。湯藤さんに対して、赤ちゃんに対して、俺達に対して。あいつは少なくとも3つの罪を背負ってる。その重さに押し潰されてしまわないように、必死に生きてる。俺達がその罪の重さを背負っても、罪は消えない。大切な人を守るために、罪を背負うしかなかった」
小見川は優しく言葉を紡ぐ。
「あいつがもし、罪の重さに耐えられなくなったら、俺達が支えてやろう。倒れないように、俺達が側にいよう。きっと、心から笑い合える日が来ると、そう言ってやろう」
「おし! 今日も頑張りましょうか!!」
根元は急にテンションを上げた。
「さっきまでのネガティブ発言はどこ行ったんだよ」
小見川は馬鹿騒ぎしている根元に笑いながら聞く。
「そんなもんは風に飛んでったよ。ほら鹿倉、今日は俺がお前の男を上げる特別授業をしてやる」
根元は鹿倉の肩に腕を回して言い放つ。
「何だよ、男を上げる授業って」
熊田は根元が作ろうとしている空気に乗る。
「そりゃあもちろん、どうやったら女子にモテるか」
目を細めてカッコつける根元。
「お前彼女いねえじゃん」
「うっせぇ! 本気出せばあっという間にできるんだよ!」
「じゃあさっさと作れよ」
「お前もそうだろ」
根元は反撃とばかりに熊田に噛みつく。
「去年みたいに勘違いすんなよ」
「何だよ勘違いって」
根元は表情を強張らせる。
「もうすぐバレンタインデーだろ?」
小見川はクスクスと笑いながら問いかける。
「あ~、お前去年バレンタインデーに女子からチョコ貰って、告白したんだっけ?」
熊田も思い出して笑う。
「で、それが実は義理チョコだったってことを告白した後に知って、その場でフラれた」
小見川は根元の恥部を晒す。
「お前そういうことを思い出させんなよ~。学校行くのマジで憂鬱だったわ」
根元は悩ましい表情をして体をのけ反らせる。
「まあ若さ故の過ちだよなぁ~」
「あ~本命チョコ欲しい~~!!」
「声大きいよ」
小見川は根元の情緒不安定なテンションを鎮めさせようとする。
「神様にお願いしてんだよ」
「この曇り空じゃ届かねえよ」
「そんなの分かんねえだろ」
それを見ていた鹿倉は密かに笑っていた。それをこっそり見ていた小見川は胸を撫で下ろす。
小見川は冷静に言葉を絞り出した。
「最近この辺でわいせつ事件が多数あって、2週間くらい前から発生してるんだけど、不審な男を見なかったかい?」
優しそうな印象の1人の警察官が聞いてくる。
「いえ、俺達あんまりここ通らないんで、お役に立てないと思います」
「見てないですかぁ」
小見川と話していた警察官は残念そうにしている。
「はい」
「お時間取らせてすみません」
警察官は一礼して去っていく。その時、見守っていた怖そうなおじさんの警察官は、小見川達を鋭い目つきで睨みつけて背を向けた。小見川は感じ悪い警察官の離れていく背中を睨み返す。
「びっくりした……」
熊田は思わず声を漏らした。
「変に動揺するなよ」
「簡単に言うなよ」
「怪しい仕草してると根拠もなく疑われるぞ」
萎えたテンションのまま、小見川達はそれぞれの帰路へ歩き出した。
小見川は自宅に帰っても落ち着けずにいた。夕食時、ニュースを見ながら食事をするのが好きな父親は、テレビに釘付けだった。
「お父さん、行儀悪いわよ」
「少しくらいいいだろぅ。常に社会に関心があるんだよ」
「そんなこと言って、ただテレビが観たいだけでしょ」
いつもの光景だった。でも、何かが違う。事件のニュースが出る度に、赤ちゃんの遺体を処理する時の光景が頭を過る。自然と小見川の手は止まっていた。
「どうしたの?」
小見川の母親は小見川の様子に気づく。
「あ、ああ、ちょっと友達とハンバーガー食ってきたから、あんまり腹減ってないかもしれない。後で食うよ」
小見川はそう言って、ダイニングを出た。
「変な子」
「難しい年頃なんだからしょうがないよ」
小見川は自室に入ってすぐ、ベッドに仰向けで寝転んだ。
寝て忘れよう。
そう祈るような気持ちで目を瞑った。
――――――――――
「ふぃ~さみぃー!」
寒さが肌に染みてくる季節となり、小見川達も含め、街を歩く人々は温かそうな防寒具を身に纏っていた。顔をしかめて道を歩く根元は体をずっと擦っている。
「早く春来ねぇかなぁ」
今にも雨が降り出しそうな曇り空が気持ちをどんよりさせていた。
「まだ12月だぞ。当分来ねぇよ」
熊田は呆れながらも同じく携帯カイロを手に持っていた。
「おい、なんか元気ねぇな鹿倉」
熊田は俯き加減に歩く鹿倉の顔を覗き込む。
「最近、苦しいんだ」
「体調悪いのか?」
「違う。なんか、息苦しいんだよ。ずっと」
「どういうことだよ」
根元は困惑する。
「みんなだって感じてるんだろ? 本当は」
3人は黙り込む。
「人の目が、責めてきてる気がする。僕等のしてたことが、本当は誰かに知られているんじゃないかって、突然不安になるんだ」
「そんなこと言ったってしょうがねぇだろ。もう……そうしちまったんだから」
根元は言葉尻にかけて声が小さくなっていく。
「分かってるよ。どうしようもないって。でも、こんな気持ちで、ずっと生活していくのって、生きてるのかなって……」
小見川達の足取りが重くなる。小見川は眉間にしわを寄せて大きく息を吸った。
「冴島は、もっと苦しいはずだ。湯藤さんに対して、赤ちゃんに対して、俺達に対して。あいつは少なくとも3つの罪を背負ってる。その重さに押し潰されてしまわないように、必死に生きてる。俺達がその罪の重さを背負っても、罪は消えない。大切な人を守るために、罪を背負うしかなかった」
小見川は優しく言葉を紡ぐ。
「あいつがもし、罪の重さに耐えられなくなったら、俺達が支えてやろう。倒れないように、俺達が側にいよう。きっと、心から笑い合える日が来ると、そう言ってやろう」
「おし! 今日も頑張りましょうか!!」
根元は急にテンションを上げた。
「さっきまでのネガティブ発言はどこ行ったんだよ」
小見川は馬鹿騒ぎしている根元に笑いながら聞く。
「そんなもんは風に飛んでったよ。ほら鹿倉、今日は俺がお前の男を上げる特別授業をしてやる」
根元は鹿倉の肩に腕を回して言い放つ。
「何だよ、男を上げる授業って」
熊田は根元が作ろうとしている空気に乗る。
「そりゃあもちろん、どうやったら女子にモテるか」
目を細めてカッコつける根元。
「お前彼女いねえじゃん」
「うっせぇ! 本気出せばあっという間にできるんだよ!」
「じゃあさっさと作れよ」
「お前もそうだろ」
根元は反撃とばかりに熊田に噛みつく。
「去年みたいに勘違いすんなよ」
「何だよ勘違いって」
根元は表情を強張らせる。
「もうすぐバレンタインデーだろ?」
小見川はクスクスと笑いながら問いかける。
「あ~、お前去年バレンタインデーに女子からチョコ貰って、告白したんだっけ?」
熊田も思い出して笑う。
「で、それが実は義理チョコだったってことを告白した後に知って、その場でフラれた」
小見川は根元の恥部を晒す。
「お前そういうことを思い出させんなよ~。学校行くのマジで憂鬱だったわ」
根元は悩ましい表情をして体をのけ反らせる。
「まあ若さ故の過ちだよなぁ~」
「あ~本命チョコ欲しい~~!!」
「声大きいよ」
小見川は根元の情緒不安定なテンションを鎮めさせようとする。
「神様にお願いしてんだよ」
「この曇り空じゃ届かねえよ」
「そんなの分かんねえだろ」
それを見ていた鹿倉は密かに笑っていた。それをこっそり見ていた小見川は胸を撫で下ろす。
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