揺れる想い

古紫汐桜

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涙の向こう側

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 あれから幾つもの季節が過ぎて行った。
「ダディ、マミー!日本が見えて来たよ!」
飛行機の窓から外を見つめ、私達の一人息子が微笑む。
「ほら、彰。もうすぐ着陸するから、シートベルトして」
すっかり専業主夫が板に着いた薫が、彰のシートベルトをしている。
私は相変わらず、新薬の研究に没頭している。
そう出来るのは、全てを捨ててアメリカに着いて来てくれた薫のお陰だ。
……とはいえ、薫の祖父母もアメリカに連れて来た。
生活が馴染めるのか心配だったが、薫の話ではアメリカの生活が気に入ったらしく、日本に居た頃より元気になったらしい。
私自身も、彰の出産で薫の祖父母にはたくさん助けられた。
薫も持ち前のコミュ力で、直ぐにアメリカの生活に馴染んだのもさすがだった。
毎日、笑いの絶えない幸せな毎日を送れているのも、私の我儘を許してくれた薫のお陰だと感謝している。
今回の帰国は、私の開発した新薬について学会で発表する為の帰国だが、少し前乗りして大好きな人達に会いに行く。
「千秋が妊娠して以来だから、4年振りか?」
「たまちゃんの家の長女が、小学校に入学したらしいよ」
「早いなぁ~!」
会話をしながら、まさか自分が母親になれる日が来るなんて思いもしなかった。
薫に抱っこされながら窓の外を眺めている彰の頭を撫でると、彰が笑顔を浮かべて私の顔を見上げた。
「マミーの友達に会える?」
「会えるよ」
「じゃあ、ダディのお友達にも?」
「もちろん」
微笑む私に
「僕、仲良く出来るかな?」
恥ずかしそうに笑う息子に
「大丈夫だよ、彰なら」
と答えると、薫に良く似た笑顔を浮かべた。
着陸して、久しぶりの日本に帰国したので少し緊張している。
すると
「ち~ちゃん!」
変わらないたまちゃんの笑顔が、空港でで迎えてくれた。
たまちゃんの手には、小さな男の子の手が握られていて、そんなたまちゃんの傍らには田川が笑顔で手を上げた。
そんな田川の後ろに、可哀想にパパに良く似た女の子が恥ずかしそうに顔を出した。
「ほら、実花。ご挨拶は?」
すっかり父親の顔をしている田川に、思わずニヤけていると
「こんにちは……」
と、モジモジしながらご挨拶した実花ちゃんが可愛い!
「可愛い!」
思わず叫んでしまうと、彰が
「こんにちは。お世話になります」
と、人懐っこい笑顔を浮かべて、ペコリとお辞儀した。
(こういう抜け目ない所は、薫似だな……)
そう思っていると
「きゃ~!ち~ちゃんのミニチュア版。絶対にイケメンになるよ!!」
たまちゃんがジタバタと騒いでいる。
「ママ、落ち着いて」
そんなたまちゃんを、冷静に諌めるたまちゃん家の長男春人君。
容姿はママ似だけど、性格はパパに似たのだろう。
小さいのに、やけに落ち着いている。
そんな事を考えていると
「玲奈!走らないの!!」
聞き覚えのある声が聞こえて、たまちゃんJrの春人君に抱き着く少女が現れた。
「春人君、捕まえた」
完全に恋する乙女の瞳をした石橋家の長女に、当のたまちゃんJrの春人君は無表情。
「玲奈ちゃん、走ったら危ないよ」
これまた冷静に話す春人君に、某人物が彷彿される。
こっそりたまちゃんの耳元で
「たまちゃん。まさかこの子、長塚との子供じゃないよね?」
と聞いてしまうと、たまちゃんが真っ赤な顔をして
「ち~ちゃん!」
そう叫んだのと同時に
「残念だけど、俺の子供だよ!」
って、田川がムッとした顔をして背後に現れた。
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