揺れる想い

古紫汐桜

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僥倖

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 その日は俺の部屋にみんなで集まり、夏休みの宿題をしていた。
何故、うちになったのか?
そんなの、俺が一人っ子で親が共働き。
尚且つ、部屋が一番広かったからだ。
健太は弟と同室。小野は祖父母の家。
石塚の家は親がお店をやっていて、田上と添田は部屋が6畳でベッドがあるから6人は無理!という話になり、何故か我が家になった。
みんな一軒家だからなのか、多分、マンションの高層階に行きたかったんだろうな。
まぁ……高層階と言いながら、別に普通のマンションで、12階建ての12階なだけなんだけどなぁ~と苦笑いした。
実際、健太と小野はリビングからベランダに走って行くと
「久しぶりだけど、相変わらず見晴らし最高!」
盛り上がる二人に、呆れた顔をしながら
「ほら!宿題しに来たんでしょう!」
と添田が呟いた。
優里も苦笑いしながら
「良くベランダに行けるよね」
って言うと、添田にしがみついている。
「優里、高所恐怖症だったよな?大丈夫か?」
ふと清水寺事件を思い出し、そう声を掛けながらモヤっとしてしまう。
そんな俺の気持ちに気付かず
「聡が高い所が平気な理由が分かった」
そう呟きながら、添田にしがみついているのにも気に入らない。
「優里、そこは添田じゃなくて俺だろう?」
と言って手招きすると
「意地悪しない?」
ビクビクしながらそう聞いて来る。
(どうしよう……今日も、優里が安定の可愛らしさだ!!)
心の中で滝の涙を流し頷くと、優里は添田を気にしながら手招きする俺に近付く。
おずおずと俺のシャツの裾を掴む仕草も、(くそ!マジ可愛いな!)って思いながら手を出すと、優里が俺の手を握り返した。
こういう瞬間、恋人で良かった!!と思う瞬間だったりする。
普段は甘えベタな優里が、こうして甘えてくれる度に幸せを噛み締める。
え?簡単な男だって?
良いんだよ。俺は優里の為なら、いくらだって簡単な男になれる。……いや、違うな。簡単な男になっちゃうんだよ。
仕方ない。それが、惚れた弱みって奴だ。

「取り敢えず、部屋はここだよ」
 部屋のドアを開けて中に招き入れると
「意外!田川の部屋って散らかってるかと思ってた!」
添田に開口一番に言われて苦笑い浮かべると
「田川君の部屋、初めて来た」
そう言いながら、珍しそうに優里が部屋をグルリと見て呟く。
「え!」
すると、優里の言葉に全員が俺の顔を見た。
「なんだよ!」
ムッとして睨む俺に、添田が目を輝かせて
「田川、あんたを見直したよ!」
そう言って俺の背中をバシバシと叩く。
「添田!痛てぇ!」
と呟く俺に
「たまちゃんを大事にしてくれて、本当にありがとう」
そう言って添田が小さく微笑んだ。
「なんだ~、聡。とっくに部屋に連れ込んでヤ……」
と言いかけた小野の知りに、切れ味抜群の添田の蹴りが入った。
「小野、下品!」
睨んだ添田に
「え~!なんで?普通に思うじゃん?でも小野っち、そこはラブホ」
と言いかけた健太を、石塚のチョップが脳天にめり込んだ。
「田川君を健太と一緒にしないで!」
石塚の言葉に困惑する。
石塚よ、俺はいつからお前の中でそんな位置になっているんだ?
健太の話では、石塚の中で俺は田上のナイトなんだとか。
どうしてそうなった?
俺だって、健全な男子高校生な訳で……。
隙あらば……と思っていても、田上の天然が他の人とは違う隙を作らないだけなんだけどなぁ~と苦笑いを浮かべるしかなかった。
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