揺れる想い

古紫汐桜

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僥倖~運命の日⑤~

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俺は一気に脱力し
「はぁ~~~」
と、深い溜め息を思わず吐いた。
額に手を当て、まずは冷静になろうと自分に言い聞かせた。
「そうだったな。お前に察しろとか、気が付けとか土台無理な話だったわ」
そう呟いても、田上は不思議そうに首を傾げるだけで嫌そうでは無い。
神様に縋る訳じゃないけど、連理の賢木の近くだったら……奇跡が起こるかもしれないと思った。
幸いな事に、今、辺りには誰も居ない。
心地よい風が吹いて、背中を押されたような気持ちになり
「好きだ」
と、ふと意識を他に向けた田上の横顔に小さな声で呟いた。
「え?」
俺の声に反応した田上が、座り込んでいる俺を見下ろした。
首まで真っ赤にしているが、以前のような
『困ります!』っていう拒否はされなかった。むしろ、恥ずかしそうにモジモジしている。いたたまれなくなって、一気に立ち上がり
「ほら!気が済んだなら次に行くぞ!」
と、恥ずかしさを誤魔化す為に歩き出す。
でも、田上から拒否の言葉も、この手を振り解く気配もない。
むしろ、恥ずかしくて田上を見られない俺を見上げているのを感じた。
「別に……直ぐどうこうとか、無理なの分かってるから」
少し先に歩きながら呟くと、田上の手が俺の手を握り返し
「ありがとう」
って呟いたのだ。
『えー!困るよ!友達Cを好きになって』でも無ければ
『また又!田川君ったら!』
と誤魔化す訳でも無い。
驚いて反射的に振り向くと、田上は耳まで真っ赤にすると
「あ!あの、今すぐどうこうは出来ないけど……、考えてみる」
そう答えたのだ。
信じられなくて、思わず小さく
「やった!」
ってガッツポーズしている俺を、田上が優しい眼差しで微笑み返した。
そして少し足早に歩いて俺の隣に並ぶと、小さく俺を見上げて田上が俺に笑いかけた。本当は緊張で手汗が凄いのに、俺も田上も繋いだ手を解かなかった。
俺は柄にも無く、この道がもっともっと長く続けば良いのに……と願っていた。
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