揺れる想い

古紫汐桜

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蚕の恋~中学から高校へ~

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それから間も無く、席替えがあって田川君とも石橋君とも席が離れてホッとした。
3年生になり、クラス替えで石橋君とは別のクラスになって受験に追われる毎日。
いつかこの気持ちも消えるのだろと思っていると、受験会場にバスケ部の3人組の姿があった。
そして春が来て、入学式であの3人組を見付けてしまった。
離れれば忘れられると、そう信じていた。
でも、思いは募るだけだった。
もう、笑い合った日々は返って来ないのだと、そう思っていた。
高校は部活動が自由だったので、私は部活に入らずにバスケ部を覗いてみた。
経験者でも初心者でも、基礎から始めるみたいだったけど、仲良しトリオは3年生の引退を待たずにレギュラー入りを果たした。
(凄いなぁ~、あの3人)
物陰から覗いていると
「ねぇ、同じクラスだよね?」
って声を掛けられた。
同じクラスの須藤さんと中川さんだ。
快活で明るい須藤さんと、そんな須藤さんが大好きな中川さん。
2人は石橋君を追いかけて、うちの学校に入学したんだとか。
そして私達は、3人で行動するようになった。
石橋君は相変わらずの人気ぶりで、高校生活でも早速蝶のようにヒラヒラしていた。
私は受験と恋煩いで30kgの減量に成功して、私を「ぬりかべ」と呼ぶような人は居なくなった。
そんなある日、いつもの如くバスケ部の練習を見に行こうとして、先生に頼まれごとをされてしまい、結局、練習を見に行けなかった。
ガッカリした気持ちのまま、家路を歩こうとした時だった。
足元にバスケットボールが転がって来て、つい拾ってしまう。
すると、体育館から
「聡の下手くそ!」
って笑いながら、石橋君が現れた。
すると
「あれ?繭花ちゃんじゃん」
と微笑んだのだ。
「え?」
驚く私に
「ボール、拾ってくれたんだ。ありがとう」
って変わらない笑顔を浮かべてくれた。
「どうして……」
そう呟き掛けて、喉が詰まったみたいに喋れない。
「痩せたね~。俺は、前の繭花ちゃんもす……可愛いと思ってたけど」
変わらない石橋君の笑顔。
声が出せなくて無言でボールを渡す私に、石橋君の笑顔が悲しそうな笑顔に変わる。
(違うの!緊張して、声が出ないだけなのに……)
素直に好きという感情が出せたら、もっと違うのかもしれない。
スカートを握り締めて
「ごめ……ん……なさ……い」
必死に絞り出した声が、蚊の鳴くような声しか出せなくて情けなくなる。
石橋君は私の声に気付き
「何で謝るの?」
ゆっくり近付き、首を傾げる。
「前に……私、自信なくて……八つ当たりしちゃって……」
必死に話す私に、石橋君は俯く私の顔を覗き込む。
「ほら……折角痩せて、益々可愛くなったのに、俯いてたら勿体無いよ」
しゃがんで私を見上げ、にっこり微笑む石橋君の笑顔が眩しい。
石橋君は、スポーツ万能で頭も良くて顔もかっこよくて誰にでも優しい。
そんな人が、私みたいな地味な人間にも優しいから、人気があるんだと思う。
「ずっと……謝りたかったの」
そう呟くと、石橋君は驚いた顔をしてからゆっくりと微笑むと
「そっか……。嫌われたんだと思ってた」
ボールに回転を掛けて上に投げ、キャッチするを繰り返して呟くと
「じゃあさ、又、話しかけても良い?」
そう言われて、コクコクと頷く。
するとフワリと笑顔を浮かべて
「良かった」
と呟いて、一際高く上に放ったボールをキャッチした。
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