揺れる想い

田川君と長塚君の違い……

   抱き着いて、ち～ちゃんでは無い感触に見上げると、何故かそこには長塚君が立っていた。
(ひっ！！！！)
私を見下ろす長塚君の視線に思わず飛び退いて
「ごめんなさい！ごめんなさい！ごめんなさい！」
とひたすら平謝りすると、長塚君の手が伸びて来て、私の頭をぽんぽんって優しく撫でた。
「高い所、苦手だったよね。大丈夫？」
って言われて、腰から砕けそうになった。
「だ、大丈夫」
ブンブンと首を縦に振った後、ハッとして青山さんの姿を探す。
あんなのを見られたら、何を言われるか分からない！！
キョロキョロしていると
「誰を探してるの？」
って聞かれてしまう。
「あ……怖い人が居ないよなぁ～って」
えへへって笑うと
「大丈夫だよ。今、先生に呼び出されてるから」
と答えた。
「え？」
「勝手な行動しすぎるって、クレームが出たんだよ」
長塚君の言葉に
「そうなんだ……」
ってホッとしながらも
(もしかして、これって縁切り寺の効果？)
なんて感動してしまった。
そして
「ん？何故、私が青山さんの事を言っているって分かったの？」
ハタと気付いて聞くと
「え？……なんとなく？」
と、長塚君が小首を傾げた。
(かっ……可愛いが止まらない！！)
鼻血が出そうになる程に心の中で興奮していると、長塚君が視線を遠くに向けて
「あ、タイムオーバーみたい。じゃあね」
って私の頭をポンってして微笑んで去って行った。
「ヤバい……、カッコイイと可愛いが渋滞し過ぎて辛い」
ポツリと呟くと
「何？たまちゃんは長塚の顔が好きなの？」
長塚君の背中を見送る私の肩越しから、小野君が顔を出して来た。
「小野君、顔が近い！」
手で小野君の顔を退かすと
「たまちゃん、つ～め～た～い～！」
と小野君が唇を尖らせて呟く。
「たまちゃん、いつも長塚の顔をうっとり見てるよね」
小野君に言われて
「え？そうかな？」
自分が恥ずかしくて、ポリポリと鼻をかいて誤魔化していると
「それってさ、長塚自身が好きなの？外見が好きなの？」
と聞かれた。
「え？」
「たまちゃん、聡の良い所と悪い所言ってみ」
突然振られて
「え？急になに？」
驚く私に
「良いから、ほら！」
とせっつかれて
「良い所は誰とでも仲良くなれて、誰にでも優しい所かな？悪いところは、いじめっ子！時々ジャイアンになる！」
プクっと頬を膨らませて言うと
「じゃあ、長塚は？」
と言われて、言葉を失った。
「たまちゃんは、長塚の何処が好きでどんな所が嫌い？」
「長塚君の事は……全部大好きだから、嫌いな所なんて無いよ」
やっと絞り出した言葉に
「それってさ、長塚の事を全然見てないよね？」
って言われた。
「え？」
「あ、いや、見てるよ。うん……見てるけど、ただ見てるだけだよね？」
と言われてしまう。
「テレビでアイドル見てるのと同じだよね？」
小野君の言葉が、ずっしりとのしかかって来た。
違う！って言いたかったけど、私は長塚君の何を見て何処が好き？って考えた。

初めて桜の花吹雪の中で長塚君を見た時、運命を感じたから？
それだけじゃない。
長塚君の笑った顔が好き
でも、授業で分からない所があって、眉間に皺を寄せて悩む顔も好き。

……そう考えて、自分が長塚君自身を見ていないのに気付いた。
長塚君は私に歩み寄ってくれてるのに、私は長塚君の中身を見ていないんじゃないかと思ってしまった。
田川君の性格ならいくらでも上げられのに、長塚君は無口で、休んでもクラスで分からない位に大人い事。
争い事が嫌いで、基本的に回答は白黒ハッキリよりグレーが多い事。
そんなの、大して親しくも無い人でも分かる程度の内容だ。
「それって、本当に好きなの？」
そう畳み掛ける小野君の言葉に言い返せない。