風の声 森の唄

古紫汐桜

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風太と美咲と……時々座敷童子

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   翌日から恭介は朝食を食べると何処かへ出かけるようになり、美咲もなんだか元気が無い。
ギクシャクしている空気が漂う中、風太は美咲に
「美咲、今日の夕飯は何が食べたい?」
と、声を掛けた。
縁側でぼんやりと考え事をしていた美咲は
「え? 夕飯? 風太君、さっき朝ごはん食べたのに、もう夕飯の事を考えているの?」
とクスクス笑い出す。
「やっと笑ったな。なんか、今日は美咲も恭介も……空も様子が変だった。何かあったのか?」
純粋な目で見つめられ、美咲は再び笑顔を消してしまう。
昨日の夜、恭介の部屋に行くと恭介の姿が無かった。
あちこち探してやっと見つけると、空とキスをする恭介を見てしまったのだ。
ずっと、誰に対しても興味の無かった恭介が、初めて執着をしている姿に、美咲が初めて空に会った時に感じた理由の無い不安が的中した瞬間を見てしまった自分のタイミングの悪さに悲しくなる。
「美咲?」
再び表情を曇らせる美咲を心配そうに見ている風太に
「空さんは……」
そう言いかけて口を噤む。
(空さんは教授の事を前から知っていて、本当は好きなんじゃないのか?)
と、口から出そうになる言葉を飲み込む。
「空? 美咲、空と何かあったのか?」
「え? ううん。何も無いよ。そう言えば、空さんって風太君のお母さんなの?」
美咲が何気無く聞くと、今度は風太が慌てた顔をして
「ち……違ぇぞ! 空は、オイラの母ちゃんじゃねえぞ!」
と言った後
「詳しくは知らねぇけど……オイラの母ちゃんは、罪を犯してオイラを産んで間も無く死んじゃったんだって。父ちゃんは人間らしいけど……良く知らねぇ。空に父ちゃんと母ちゃんの話を聞くと、凄く悲しそうな顔をするから聞けないんだ」
風太はそう言うと、悲しそうに笑って美咲の隣に座り足をぶらぶらさせ始める。
「そっか……寂しいね」
ぽつりつ美咲が呟くと
「オイラ、寂しくなんかねぇぞ! ずっと座敷童子と空が一緒に居てくれたから」
そう笑顔で答えて
「な! 座敷童子」
と言うと、いつの間にか美咲を挟んで、風太が座る反対側に座敷童子が座っていて頷いていた。
「座敷童子ちゃん! いつから居たの?」
驚いて声を上げると
「さっきからずっと一緒に居たぞ。オイラと座敷童子は、一心同体だからな」
風太がそう言うと、座敷童子の口がパクパクと動く。
「だよな~!」
風太には座敷童子の声が聞こえるらしく、何やら楽しそうに会話している。
「あの……風太君って、座敷童子ちゃんの声が聞こえるの?」
恐る恐る聞いてみると
「え?美咲には聞こえないのか?」
と驚かれてしまう。
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