上 下
76 / 91

記憶と思い出~レイモンド④~

しおりを挟む
 その話を聞いて、正直驚いた。
あんなに優しくて、精霊にも愛されているルイスが魔族だなんて……。
その話に唖然としていると
「ここからが本題だ」
父上はそう言うと
「もし、フレイアが破滅の魔女になったら、その時はお前の手でフレイアを切れ」
と言ったのだ。
「僕が……フレイアを?」
「そうだ。お前はバルフレア家の血を引く人間だ。王家の邪魔になる者は、例え身内でも切り捨てろ」
顔色も変えず、父上はそう言って僕の肩に手を乗せた。
「だから、必要以上に仲良くするな……」
おそらく4年間の間に見て来たフレイアの行いに、父上もフレイアが破滅の魔女だと判断したのだろう。
「期限は18歳だ。それまでに、もしアティカス王子に危害を加えるようなら、迷わず切れ」
父上の言葉に
「もし、もしフレイアが破滅の魔女にならなかったら……どうなるのですか?」
この時は、ほんの興味本位だった。
僕はフレイアの素行の悪さに、間違いなく破滅の魔女だろうとそう思っていたから。
すると父上は苦笑いを浮かべ
「聖女様になるのだよ。それこそ、アティカス王子と結ばれて、この国の平和と繁栄をもたらす大切な存在なんだ」
と答えたのだ。
 この時までは、僕も父上もフレイアは破滅の魔女になるのだろうと……そう思っていたんだ。
 そしてフレイアが5歳の誕生日の日に、奇跡が起こった。
その日は、いつも通りルイスと一緒に家庭教師の授業を終えて、テラスにお茶をしに行く所だった。
フレイアのメイドが、慌ててフレイアの部屋から飛び出して来たのだ。
(あの我儘娘、又、何かしでかしたのか?)
呆れた顔をしてメイドのアンを見ていると
「レイモンド様、大変です!フレイア様が、フレイア様の気がふれました!」
真っ青な顔で言われ、18歳を待つまでもなく切り捨てなければならないのかと、慌ててフレイアの部屋に駆け込んだ。
「フレイア!気が触れたと聞いたが、大丈夫か?」
そう叫ぶと、フレイアはハッとした顔で僕を見た後、恐らくフレイアが心配で僕の後を追って来たのだろう。
ルイスの顔を、口元に手を当てて凝視している。
そして何を思ったのか、突然手を叩くと右手を前に出し、そして再び手を叩くと左手を前に出すを2回繰り返し、手を糸巻きするかのようにクルクルと回すの行動を繰り返し出した。
最初は何をしているのかサッパリ分からなかったが、どうやら踊りを踊っているみたいだ。
「フレイア!突然、変な踊りを踊り出したりしてどうしたのだ?」
そう声を掛けると
「しまった!!心の中の舞いを、実際に舞ってしまっていた!!」
と頭を抱え出した。
そして急にルイスを見ると、物凄い勢いでルイスに駆け寄り両手を握り締め
「好きです。お嫁さんにして下さい」
なんて言い出した。
僕はもちろん、ルイスも目を見開いて驚いた顔をしている。
するとフレイアは何を思ったのか、感無量という顔をしたかと思うと、ルイスに思い切り抱き着いたのだ。
ルイスは顔半分赤くなり、顔半分青くなってパニックになっている。
そりゃそうだろう。
あんなに自分を毛嫌いしてた人間が、突然、好きとか……。
(ルイスの想いを知って、新手の嫌がらせか?)
僕は腹が立って、思わず『バシッ』と鈍い音を立ててフレイアの頭を殴り、ルイスから引き剥がした。
「お前は馬鹿か!」
そう叫んだ僕に、フレイアは涙目になりながら
「兄様、暴力反対ですわ!」
そう反論して来た。
純粋なルイスの気持ちを弄ぶフレイアに腹が立ち
「お前は、どうしてそうやってルイスをからかって虐めるんだ!」
と叫ぶと
「からかうなんて、誤解ですわ!」
フレイアが慌てた顔をして首を横に振った。その顔は、いつものムカつく嫌な女の顔をしていない。
しかし、相手はあの性悪フレイアだ。
何をしでかすか、分からない。
しおりを挟む

処理中です...