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記憶と思い出~レイモンド~

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 記憶の中に、妹という存在はいつの間にか居た家族の一人という認識だった。
両親、特に父は僕に対して厳しいのに対し、フレイアには異常な程に過保護だった。
王宮から用意されたメイドと家庭教師を着け、それはもう……蝶よ花よと大事に大事に育てられた。
その結果、3歳で既にくだらないプライドだけは高い嫌な女の子に成長していた。
おそらく、着けられていたメイドと家庭教師が悪かったのだろう。
ある日、我儘ばかり言うフレイアに注意をしたら
「私は未来の皇太子妃なのよ!あなたは私の部下になるくせに、生意気だわ!」
などと言いやがった。
その頃から、きっと僕はバルフレア家の血縁から養子に来た子供で、フレイアが実子なんだろうと思い、フレイアには関わらないようになった。
何故そのように考えるようになったかと言うと、僕の幼馴染みでセヴァレンス家の三男、ルイスが養子だったからだ。
ルイスは大人しくて、動物や植物が大好きな優しい奴だった。
うちの庭に萎れそうな花を見つけると、その土に魔法をかけて花を蘇らせたり。
野鳥のヒナや傷付いた動物を見ると、自分が怪我を負っても助けていた。
だからなのか、ルイスの周りにはたくさんの精霊が居て、ルイスを守っていた。
 しかし、ルイス本人には見えないらしく、僕が精霊の話をしたら驚いていたっけ。
そんなルイスは、何故か我が家の我儘娘に惚れていた。
「あんな性悪の何処が良いんだ?」
そう聞いた僕に、ルイスは笑顔で
「フレイアは、天使みたいだろう?」
と答えたのだ。
「はぁ?天使?あいつが?悪魔の間違いだろう?」
そう言った僕に、ルイスは真剣な顔をして
「レイ!いくら兄妹でも、言って良い事と悪い事がある」
と注意されたっけ……。
ルイスはいつも、遠くからフレイアを見ているだけだった。
「フレイアは、未来の皇太子妃だからね。僕なんて、視界にさえ入れてもらえないよ」
そう言って小さく笑うルイスの想いを、どうにかして上げたかった。
「なぁ、ルイス。来月、フレイアの誕生日なんだ。何かプレゼントを渡したらどうだ?」
そう提案した僕に
「え?僕がフレイアにプレゼントなんて、そんな……」
恥ずかしそうにするルイスに
「そうだ!お前が育てている薔薇なんてどうだ?ルイスの育てる花は、帝国一だからな」
と言った僕に、ルイスは少し悩みながら
「じゃあ、当日は何かプレゼントするよ」
笑顔でそう答えたのだ。
 誕生日当日、ルイスは手に包帯を巻いて花束を持って来た。
ピンクの可愛らしい薔薇の花束で、その美しさはルイスが愛情を掛けて育てたのが一目で分かる程の出来栄えだった。
「ルイス!その手はどうした?」
ルイスの腕を掴むと
「なんでもない。ちょっと、怪我をしただけだよ」
慌てて手を隠すルイスを心配していると
「あのね、ルイスは薔薇の棘を自分でカットしたの。でも、上手くいかなくて自分の手を切ったのよ」
ルイスにくっ付いている精霊の一人が、僕に耳打ちをして来た。
「ルイス……。大丈夫、フレイアは喜んでくれるよ」
そう言って背中を叩いた僕は、後でルイスにプレゼントを渡す提案をした事を後悔する事になる。
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