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ルイス様との時間

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「はぁ……はぁ……」
 私は裏庭に駆け込み、植え込みに隠れて座り荒い呼吸を整える。
レイモンド兄様が婚約してしまい、私にベッタリ引っ付かなくなったもんだから、カイルやジャックスが隙あらばお茶やらなんやら誘って来て落ち着かない。
アティカスじゃ、レイモンド兄様のようにビシッと二人を諌められないのよね。
「はぁ……。リリィとも、ゆっくりお茶出来ないしなぁ~」
ぼんやり呟くと
「フレイア、何しているの?」
と大好きな声が聞こえて振り向くと、ルイス様が隣に並んで座っているでは無いですか!
ニッコリと微笑んだその笑顔……、眩しいです!!
「あ……カイル様やジャックス様から、逃げて来ました」
そう呟くと、ルイス様は私の手を掴んで
「おいで」
と言うと、小走りして何処かに向かい出した。
裏庭を抜け、花壇の先にある温室に入り込んだ。
そこは美しい様々な花が植えられており、室内は花の香りで充満していた。
「ここは?」
「僕の秘密の場所」
そう言って小さく微笑むと、中央に置かれた可愛らしいデザインの白いテーブルと椅子のある場所に私を連れて来て
「ここなら、誰も来ないよ」
と言うと、私に椅子を勧めた。
スマートに椅子を引くお姿も素敵!と、感動していると
「ここは以前、学園の生徒会が集まってお茶会をしていた場所らしいんだけどね。今は誰も使っていないのだそうだ」
そう言って、私の前に座ると優しく微笑んだ。
「僕が来た頃は酷い状態でね。やっとここまでになったんだよ」
温室の部屋を見回し、ルイス様が愛しむように呟いた。
「え!では、この花は全てルイス様が?」
「うん。男が花を育てるなんて、格好悪いよね」
苦笑いするルイス様に
「そんな事無いですわ!ルイス様は土魔法の属性ですもの。ルイス様に育てられた花達は、幸せです」
私が握り拳を作って叫ぶと、ルイス様は小さく微笑み
「フレイアは変わらないね」
そう呟いた。
「きみはいつだって、そんな風に僕を肯定してくれる」
「ルイス様……」
「それが、どんなに僕の支えになってくれていたか……」
熱い眼差しが私を見つめ、ルイス様の漆黒の瞳に心臓が爆発しそうだった。
いたたまれなくて俯くと
「でも、入学式以来……ずっと僕を避けているようで辛かった」
ポツリと言われ、慌てて顔を上げると、何故か私の横にルイス様が立っていた。
(え?……これ、どういう状況?)
バクバクと高鳴る心臓に、顔が熱い!
パニックをお越し掛けていると、ルイス様が私に跪き
「フレイア、手に触れても?」
と囁いた。
私が声も出せずにひたすら頷いていると、ルイス様の大きな手が私の手を優しく掴んだ。
ゲームの世界とは違い、ルイス様の体温が感じられて、当たり前なんだけど『生きた人間』なんだと実感したその時、私の手の甲にルイス様の唇が触れたのだ。
(ギャーっ!ルイス様のく、く、唇がぁ!!)
「フレイア、僕は……」
私を見上げたルイス様の瞳と目が合った瞬間、私のキャパは遂にオーバーした。
「フレイア?……フレイア!」
甘い花の香りと、ルイス様の心配そうに私を呼ぶ声を聞きながら、ブラックアウトした。
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