上 下
39 / 91

奇跡が起きた

しおりを挟む
そんなやり取りをしているうちに、騎士団の方々が駆け付けて来た。
もちろん、その中にはルイス様のお兄様であり、セヴァランス家の跡取りフェリックスも入っていた。
アティカス王子は、フェリックスに
「今回の不祥事の詳細は、ルイスから聞いておけ」
連行されて行く令嬢達を横目にそう言うと、ずぶ濡れで噴水から引き上げられたエミリアに自分の制服ジャケットを掛けた。
エミリアが驚いた顔をしてアティカス王子を見上げたが、アティカスは顔を背けてエミリアの顔を見る事はしなかった。
その横顔を、悲しそうに見上げるエミリアからは涙が溢れていた。
彼女の発言は許せないけど、恋というのは時に愚かな行動をさせてしまうのよね。
……そう、ゲームのフレイアのように。
「ヒュー、優しいねぇ。アティカス王子」
からかうようにカイルが言うと
「どうであれ、今は侯爵令嬢なんだ。ずぶ濡れな姿を最後に晒すのは、可哀想だろう」
と呟いた。
その言葉で、修道院送りになるのは免れないのだと察した。
ガックリと項垂れる彼女達の背中を、私は黙って見つめる事しか出来なかった。

 その後、エミリア侯爵令嬢は、他の5人の令嬢達と共に北国の修道院に送られたと知らされた。
噂を流した犯人を炙り出す事は出来なかったが、代わりにレイモンド兄様も遂に婚約する事になった。
お相手は、ワーロック家の遠縁に当るハミルトン家のご令嬢、オリビア様だ。
頭脳に長け、かなりの才女だと聞いている。兄様と並ぶと、近寄り難い美男美女……という感じだ。
氷の貴公子と呼ばれている兄様と、鉄の女と呼ばれているオリビア様との婚約は、学園内はもとより王都中で話題になった。
初めてオリビア様にお会いしたのは、学園内で兄様と並んで歩いている所に遭遇した時だった。
意志の強い瞳と凛とした芯のある女性で、私は姉妹がいない事から直ぐに仲良くなった。
「オリビア姉様」と呼ばせて頂いており、レイモンド兄様と早く結婚して本当の姉妹になりたいと思っている。
 しかし、良い話ばかりでは無かった。
何故かあの一件で私を気に入ったと、ワーロック家とミューレンバーグ家からも婚約の打診が来てしまったのだとか。
アティカス王子との婚約があると断ったものの、婚約破棄した暁には是非!と言われているらしい。
父様は鼻高々で
「我が娘は、王家と4家紋のうち2家紋から求婚される程に魅力がある」
と喜んでいるらしい。
しかし私としては、王家だろうが4家紋だろうが結婚したくない!!
婚約者が居たとしても、ルイス様以外は無理なのだ。
そんな事を考えていると、例の一件はフェリックス様の監督不行届という事で、フェリックス様が後継者から外される事となったとレイモンド兄様から聞かされた。
元々、フェリックスは剣技の才はあっても、頭を使う事は苦手なのだとか。
カイル曰く
「あいつは脳筋だからな!」
との事。
そして、次男のライアン様が後継者になる事を拒否したとの事で、何故かルイス様がセヴァランス家の後継者となったのだ。
しかも……だ!
ライアン様が後継者として拒否した理由が、ルイス様の婚約者であるシャーロット様と恋仲になっていたんですって!
ルイス様には申し訳無いですが、ライアン様、ブラボーですわ!
そのお話を聞いた時、私、思わず立ち上がって喜んでしまいましたわ!
ルイス様の傷心なお心は、私が慰めましてよ!!と拳を握っていると、サラが慌てた感じで部屋に走り込んで来た。
「お……お嬢様!大変です!セヴァランス家からも、正式にお嬢様に結婚の申し出が入ったそうです!」
そう叫ばれて、思わず昔の新婚さんいらっしゃい!の桂三枝師匠の椅子芸並に吹っ飛んだ。
「えぇ!それって、まさか相手はフェリックス様というオチでは無いわよね!」
そう叫んだ私に、サラは興奮した顔で
「ルイス様です!遂に、遂にルイス様から求婚されたのです!」
そう叫んだのだ。
私とサラは、手を取り合いジャンプして喜んだ。
 しかしこの時の私は、この事が大変な事件に発展するなど予想もしなかったのだ。
しおりを挟む

処理中です...