野花のような君へ

古紫汐桜

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回り出す運命

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そんな日々を一年過ごした頃、どうやら彼は僕を見つめているだけで何のアクションもしてこないということを理解した。
もしかしたら、本当は僕の事を好きでは無いのかもしれない。
ただ、この容姿を見ているのだけが好きなのかしれないと思い始めた。
それで、最後の賭けに出ることにしてみた。
「すみません」
と、彼に声を掛けてみた。
すると彼は左右を確認してから、自分を指さした。
僕が笑顔で頷くと、真っ赤に頬を染めてオドオドしながら近付いて来た。
「コーヒーが冷めてしまったので、替えて頂けますか?」
と声を掛けると、彼は僕の顔をうっとりと見つめている。
あまりにもガン見されたので
「あの?」
と声を掛けると
「すすすす……すみません!」
と言って慌ててカップを掴み、コーヒーをこぼしてしまう。
咄嗟にお手拭きに手を伸ばし、彼のシャツの袖と布巾により僕には一切コーヒーは掛からなかった。
でも、制服をコーヒーで染めてしまって大丈夫なんだろうか?と心配になる。
「あの……大丈夫ですか?」
と声を掛けると、彼は
「あ!大丈夫です。お客様に掛からなくて、良かったです」
そう言ってハニカミ笑顔を浮かべた。
(あぁ……この笑顔、やっぱり好きだな)
と思いながら
「でも……染みになりますよね?」
って彼の顔を見上げた。
すると彼は耳だけで無く首まで真っ赤にして、僕の言葉にコクコクと頷いていた。
ジワジワと彼の制服の袖がコーヒー色に染まっていくと
「すみません!大丈夫ですか?」
と、慌てて彼と仲の良いフロア担当の子が布巾をたくさん持って走り寄ってきた。
そして彼に
「熊さんは、洗い場に戻って!」
と叫ぶと、彼はしょんぼりと肩を落として僕に背を向けた。
「高杉様、大変申し訳ございません。お荷物など、汚してはおりませんか?」
と聞いて来た彼を無視して
「あ…!ねぇ、きみ」
と、耳と尻尾を垂らしてしょんぼりして立ち去る彼に声を掛け
「お代わり、忘れないでね」
って微笑んだ。
すると彼は耳をピンと立て、尻尾を振って嬉しそうに頷くと、足早にカウンターの向こうへと消えて行った。
(やっぱり、大型犬みたいだ)
彼の可愛らしい行動にクスクス笑っていると、彼の代わりにテーブルを綺麗にしていたフロア係の子が僕の顔をジッと見つめていた。
この子はどちらかというと、柴犬みたいなタイプ?
可愛らしいけど、どこか人を見抜いて警戒心も強そうだ。
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