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最終話

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「じゃあ、気を付けてね」
俺は美咲ちゃんの頭を撫でて、創さんに連れられて行く美咲ちゃんを見送る。
俺達がやっているボランティアは、DVで傷付けられた子供達のあくまでも一時保護。
美咲ちゃんは母方の祖父母が引き取る事で話が纏まり、今日、祖父母の家に帰る。
美咲ちゃんの話では、母方の祖父母は優しい人達だと言うから少しは安心しているけれど……。
結局、一時保護は2ヶ月間という期限がある。
美咲ちゃんは期限前に引き取られる事になったけど、こうして別れる瞬間がとても辛い。
創さんは子供達と別れる時、お守りを必ず手渡す。
「幸せになれるお守りだから、もし、何か困った事があったら、お守りをお巡りさんに渡すんだよ」
そう言って、別れる子供の手に握らせる。
中には創さんの携帯の電話番号と病院の住所が書いてあり、その紙で千円札を包んでいる。きっと、創さんの願いでもあるのだろう。2度と此処へは戻らぬようにと。
そして又、創さんはボランティアの人達に、預かった子供達が期間を終えて引き取られる事が無いようなら、里親になると伝えているようだった。
美咲ちゃんはお守りを手に、創さんの車でこの山を降りて行った。
「何度も経験しているけど、寂しいもんだね」
婆ちゃんがぽつりと呟く。
俺達が此処に来た子供達に教えてあげられるのは、ほんの些細な事だけ。
此処に来た子達が、笑顔で毎日を暮らしているようにと願う事しか出来ない。
育児放棄された俺には、幸運な事に爺ちゃんと婆ちゃんが居た。
だから、俺が経験した事を子供達にも経験して欲しい。
どんなに辛い事があっても、此処での生活がこの子達が今後生きて行く上で支えになれたらと願わずには居られなかった。
美咲ちゃんを送った創さんが車で戻ると、子供達が心配そうな顔で創さんの顔を見た。
創さんは優しい笑顔を浮かべ
「美咲ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんは、優しそうな人だったよ。美咲ちゃんは
大丈夫だよ。きっと……」
そう伝えた。
それはまるで、創さんが自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
すると他の子供達は納得したように、いつもの生活へと戻って行く。
ただ、いつも俺の手を握っていた小さな手はもう無い。
いつかこの生活にも慣れて行くんだろうと思いながら、それさえも寂しく感じてしまう。
子供達が家の中へと入って行くのを見届けていると、俺の手を創さんが握って来た。
驚いて創さんの顔を見ると
「寂しいって顔してる」
そう言って、創さんが俺の顔を見上げた。
俺が苦笑いして
「この2年の間に、たくさんの子供が出たり入ったりしているけど、やっぱり別れは辛いですね」
と答えると、創さんは俺を真っ直ぐに見つめたまま
「僕はずっと、はじめの側に居るよ。今も、これからもずっと……」
そう呟いた。
「創さん……」
泣きそうになって、俺は腕で目を擦って微笑む。
「僕も、はじめに出会っていなければ、今でも心に傷を負ったままだった」
と、ぽつりと呟いた。
「そんな……!俺はなんにも……」
首を横に振る俺に
「案外、些細な事で人の心って救われるものなんだよ」
そう言うと、創さんは俺の頬に触れて
「はじめ。あの日、僕に声を掛けてくれてありがとう。そして、どんな僕でも目を逸さずに受け止めて、愛してくれてありがとう」
と言うと、優しく微笑んだ。

あの日、俺が創さんに一目惚れしなかったら……。
あの日、あの言葉を言わなかったら…。

俺達はいつだって、さまざまな選択をして生きている。
もし、誰かに声を掛ける言葉を選ぶなら、笑顔になってもらえる言葉を選んで生きていけたら幸せだと思う。
でも、全ての人が俺の言葉を良く受け取る訳では無いのも知っている。
それでも、せめて自分を大好きだと言ってくれる人には、笑顔になれる言葉を掛けていきたい。
俺はそう思った。
「また、はじめの珈琲が飲みたいな」
ぽつりと言われて、俺は創さんに微笑み返す。
「今度、一緒に買いに行きましょうか」
そう言うと
「いや!はじめは此処に居れば良い。僕が全部用意するから!」
何故か、一緒に暮らし始めてから、創さんの束縛が酷くなっている気がする……。
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