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失われた記憶
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翌日、アルトはいつも通りの表情でメイソンの邸宅に現れると、メイソンの母親と妹のアメリアの様子を見て
「うん、もう大丈夫だね」
と微笑むと
「メイソン、きみはしばらくご実家に残って、これからの事を決めると良い」
そう言うと、出会った頃の笑顔を向けた。
何か違和感を感じていると
「アルト、調査の結果が出たぞ」
フランシスが調査書を持って現れたその時だった。
「フランシス様!」
今まで自分に向けられていたアルトの愛情を込めた眼差しが、フランシスに向けられていた。
「もう、分かったの? さすがだね」
絡められた腕も、愛しい人を見つめる眼差しも、全てがフランシスに向けられている。
(どういう事だ……?)
昨日、意識を失う寸前まで、アルトは自分に愛の言葉を語っていた筈……と、メイソンは信じられないものを見る目で二人を見ていた。
「メイソン。きみの母親と妹君の体内から取り出した液体と、きみの領地に流行病を起こした原因が分かった。毒物による環境汚染と、汚染された食物摂取による中毒だったよ。きみの元領民を調べて、今、王立病院により治療を施している」
フランシスの言葉に、メイソンは目を見開いて驚いた。
「きみの賃金と、国王の支援金を横取りしていた人物も割り出した。聞きたいかい?」
フランシスの言葉に、粗方見当は着いていた。
「叔父上……ですね?」
力無く答えると
「まぁ、そうだが。妹君と婚約しているゴリアス男爵が黒幕のようだ。どうやらこの土地を、リゾート地にでもするつもりだったのだろう」
そう答えて、調査書をメイソンに手渡した。
「資金援助の為の婚約だったと聞いている。婚約は白紙に戻しておいた。ゴリアス男爵は王宮裁判に掛けられて、爵位剥奪と投獄は免れないだろうな。そして、きみ達家族を長きに渡り苦しめて来たアレクセル・ヒューストマンは死刑になるだろう。奴等に奪われた金品は、ゴリアス男爵の財産を全てメイソン・ヒューストマンに渡す事で納得してはくれないか?」
そう言われて、メイソンは拳を握り締めた。
「もちろん、我々王家からも、ずっと援助は惜しまない。ゴリアス男爵から虚偽の報告を受けていて、長らく君たちを救えなかった事は、申し訳無いと思っている。国王に代わり、謝罪させて欲しい」
フランシスが頭を下げると、メイソンの母親が慌てて
「そんな、王子殿下。頭を上げて下さいませ!」
とお願いし
「全ては、無知な私が起こした事。これからは、今までご迷惑を掛けた領民や国王陛下の為に尽力を尽くします」
そう答えた。
「しばらくの間、私の側近をこの領地に留めておきます。この領地の回復を、心より願っています」
フランシスの言葉に、メイソンの母親は泣きながら頭を下げて
「王子殿下、勿体なき言葉でございます」
と答えて居るのを、メイソンはまるで他人事のように見ていた。
領地は回復して、病に侵された領民も、間もなく復興したこの領地に戻って来ることになった。
全ては願った通りになったというのに、メイソンの心は乾いていた。
自分に向けられていた愛しい人の眼差しが、今、別の人間に向けられいる。
全てが終わり、帰り支度をしているアルトをメイソンは探していた。
もしかしたら、二人きりになったら本音を聞けるかもしれない。
あれは、領地に残る自分を安心させる為の演技だったのかもしれない。
そう思っていたメイソンは、仲良く馬車に乗り込む二人の姿が目に入った。
フランシスはメイソンに気付いたのか
「アルト、今回の功労者にキスをくれないか?」
そう言いながら、アルトの身体を抱き寄せた。
アルトは幸せそうな笑顔を浮かべ
「もう!僕だって、頑張ったんだよ!」
と言いながら
「フランシス様、お疲れ様」
そう言って、フランシスの膝に乗ってキスを交わしていた。
その時、メイソンは悟った。
もう、自分を愛していたアルトは居ないのだと。
あの時、最後に残した言葉は、自分を愛してくれたアルトが、消える前に伝えたかった言葉だったのだと。
メイソンは拳を握り締め、自分の為に全てを投げ捨てて助けてくれたアルトを、もう一度、取り戻そうと決意を固めた。
きっと、まだ道は残されている筈だと……、メイソンはそう自分に言い聞かせてアルト達を乗せた馬車に背を向けた。
(アルト様。必ず……必ずあなたを、もう一度、この手に取り戻します)
そう誓い、メイソンは歩き出した。
自分の足りない知識と、力を蓄える為に……。
「うん、もう大丈夫だね」
と微笑むと
「メイソン、きみはしばらくご実家に残って、これからの事を決めると良い」
そう言うと、出会った頃の笑顔を向けた。
何か違和感を感じていると
「アルト、調査の結果が出たぞ」
フランシスが調査書を持って現れたその時だった。
「フランシス様!」
今まで自分に向けられていたアルトの愛情を込めた眼差しが、フランシスに向けられていた。
「もう、分かったの? さすがだね」
絡められた腕も、愛しい人を見つめる眼差しも、全てがフランシスに向けられている。
(どういう事だ……?)
昨日、意識を失う寸前まで、アルトは自分に愛の言葉を語っていた筈……と、メイソンは信じられないものを見る目で二人を見ていた。
「メイソン。きみの母親と妹君の体内から取り出した液体と、きみの領地に流行病を起こした原因が分かった。毒物による環境汚染と、汚染された食物摂取による中毒だったよ。きみの元領民を調べて、今、王立病院により治療を施している」
フランシスの言葉に、メイソンは目を見開いて驚いた。
「きみの賃金と、国王の支援金を横取りしていた人物も割り出した。聞きたいかい?」
フランシスの言葉に、粗方見当は着いていた。
「叔父上……ですね?」
力無く答えると
「まぁ、そうだが。妹君と婚約しているゴリアス男爵が黒幕のようだ。どうやらこの土地を、リゾート地にでもするつもりだったのだろう」
そう答えて、調査書をメイソンに手渡した。
「資金援助の為の婚約だったと聞いている。婚約は白紙に戻しておいた。ゴリアス男爵は王宮裁判に掛けられて、爵位剥奪と投獄は免れないだろうな。そして、きみ達家族を長きに渡り苦しめて来たアレクセル・ヒューストマンは死刑になるだろう。奴等に奪われた金品は、ゴリアス男爵の財産を全てメイソン・ヒューストマンに渡す事で納得してはくれないか?」
そう言われて、メイソンは拳を握り締めた。
「もちろん、我々王家からも、ずっと援助は惜しまない。ゴリアス男爵から虚偽の報告を受けていて、長らく君たちを救えなかった事は、申し訳無いと思っている。国王に代わり、謝罪させて欲しい」
フランシスが頭を下げると、メイソンの母親が慌てて
「そんな、王子殿下。頭を上げて下さいませ!」
とお願いし
「全ては、無知な私が起こした事。これからは、今までご迷惑を掛けた領民や国王陛下の為に尽力を尽くします」
そう答えた。
「しばらくの間、私の側近をこの領地に留めておきます。この領地の回復を、心より願っています」
フランシスの言葉に、メイソンの母親は泣きながら頭を下げて
「王子殿下、勿体なき言葉でございます」
と答えて居るのを、メイソンはまるで他人事のように見ていた。
領地は回復して、病に侵された領民も、間もなく復興したこの領地に戻って来ることになった。
全ては願った通りになったというのに、メイソンの心は乾いていた。
自分に向けられていた愛しい人の眼差しが、今、別の人間に向けられいる。
全てが終わり、帰り支度をしているアルトをメイソンは探していた。
もしかしたら、二人きりになったら本音を聞けるかもしれない。
あれは、領地に残る自分を安心させる為の演技だったのかもしれない。
そう思っていたメイソンは、仲良く馬車に乗り込む二人の姿が目に入った。
フランシスはメイソンに気付いたのか
「アルト、今回の功労者にキスをくれないか?」
そう言いながら、アルトの身体を抱き寄せた。
アルトは幸せそうな笑顔を浮かべ
「もう!僕だって、頑張ったんだよ!」
と言いながら
「フランシス様、お疲れ様」
そう言って、フランシスの膝に乗ってキスを交わしていた。
その時、メイソンは悟った。
もう、自分を愛していたアルトは居ないのだと。
あの時、最後に残した言葉は、自分を愛してくれたアルトが、消える前に伝えたかった言葉だったのだと。
メイソンは拳を握り締め、自分の為に全てを投げ捨てて助けてくれたアルトを、もう一度、取り戻そうと決意を固めた。
きっと、まだ道は残されている筈だと……、メイソンはそう自分に言い聞かせてアルト達を乗せた馬車に背を向けた。
(アルト様。必ず……必ずあなたを、もう一度、この手に取り戻します)
そう誓い、メイソンは歩き出した。
自分の足りない知識と、力を蓄える為に……。
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