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婚約破棄有難う!!~愛しい君との再会と婚約~
しおりを挟むこれは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。
国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。
その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。
これはそんな国守りの女性の話──
「お前のような女とは婚約破棄だ!!」
私の婚約者、エルマー殿下は私にそういいました。
各国から招かれた客人がいる夜会の席で。
今までの鬱憤晴らし半分、嫌がらせ半分でしょう。
馬鹿な人。
「今、婚約破棄と?」
私はたずね返します。
「ああ、そうだ!! お前のような見目がいいだけの女はうんざりだ!!」
私は口元に笑みを浮かべます。
だって……
とっても……
「嬉しいですわー!!」
嬉しいんですもの!!
「ぶ、ブリュンヒルデ?!」
「私は嫌だと言ったにも関わらず王家の都合で妃候補……基婚約者にされ、好きでもないエルマー殿下の為に妃教育を受ける日々!! 国を守らされる日々!!」
もう隠すことはなにもありません、だからこそぶちまけます。
本心を。
「誰も感謝せず!! 国を守って当たり前!! 人を助けて当たり前なんてもう嫌です!!」
他国の皆さまは私を哀れむような表情で見てますが気にしません!!
「エルマー殿下、婚約破棄ありがとうございます!!」
「――そうだな、感謝しよう。この場で婚約破棄をしてくれて」
静かな殿方の声に振り向けば、幼い頃にとある男の子に渡した、水晶をくくりつけてあるだけの皮の紐のペンダントを胸元に下げた男性が居ました。
今でも鮮明に覚えています。
まだお母様とお父様が生きていた頃、私の元に現れた美しい少年の姿を。
その少年の姿より、心遣いに私の中で花が咲き、彼への想いで満ちあふれました。
私は思わず、大事にしていたペンダントの片割れをあげました。
すると彼は──
『大事にします、君が大きくなったら結婚してくれますか』
と、花の指輪を私の指に作ってくれました。
あの少年、私の初恋の御方──
「──ディートリヒ様!!」
私は駆け寄ります。
「ブリュンヒルデ!!」
夜のとばりのような髪、白い肌、夜空のような目の美しく成長したディートリヒ様に私は抱き着きます。
「ブリュンヒルデ、会いたかった」
「ディートリヒ様、私もです」
少しの間見つめ合ってから、私達は頷き合います。
「エルマー殿下、貴殿が婚約破棄したブリュンヒルデは私が貰おう、問題あるまい?」
「なっ?!」
「でしょう? 行きましょう、ディートリヒ様!!」
「ああ」
ディートリヒ様は私を抱きかかえて足早にその場を後にし、馬車に乗り込みます。
「何処か寄る場所は?」
「ありませんわ。だって……」
私はディートリヒ様が持っている水晶のペンダントと同じものをみせます。
「必要な物はこれだけなのです」
「……そうか」
ディートリヒ様は何処か悲し気にそう言ってから揺れる馬車の中で私を抱きしめてくれました。
「ああ、今日来ていて良かった」
「私も、来てくださって良かった……そしてエルマー王子がバカで良かった」
「間違いない」
そう言って笑いあい、私とディートリヒ様はディートリヒ様の母国グリュツィーニエ王国へと向かいました。
グリュツィーニエ王国では国を挙げての大歓迎を受けました。
少しそれが気恥ずかしかったですが、ディートリヒ様が婚約者だというと歓喜の声を上げる民の方々と、私に「ディートリヒ様とどうか仲良く」と言ってくださる方、祝福してくださる方々が多くてとても嬉しかったです。
ディートリヒ様のお父様ディートハルト陛下も私とディートリヒ様の婚約を認め、歓迎してくれました。
「さて、私は少々用事ができた。ブリュンヒルデ、我が息子の婚約者よ。今日はゆっくりと休まれよ」
ディートハルトは「国守り」の娘であるブリュンヒルデにそう言った。
「有難うございます、ディートハルト陛下」
「ディートリヒ、案内してやれ。お前の婚約者だろう?」
「はい、父上」
我が子が婚約者を案内しているのを見送るとディートハルトは転移魔法を使って、その場から姿を消した。
王宮では、エルマー第一王子は父である王に叱責されていた。
「馬鹿者!! あの『国守り』の娘と婚約破棄をしただと?! その上国を出るような発言をしていたのをただ見ていたのかお前は!!」
「父上!! あのような女は私は絶対いやです!! 私より強い女など!!」
エルマーの言葉に、王は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「馬鹿者!! あの娘は――『国守り』は最上位種のドラゴンすら一人で屠れるような存在だ!!」
「な……?! 何故そのような女と?!」
「私の代から『国守り』は何故か逃げ出すようになったのだ、我が国から……だから今度こそ逃がさぬようにと――」
「此処迄阿呆を極めるとはファイルヒェン王国も堕ちたものだな」
謁見の間に、白い肌に、青黒い髪に、紅玉の様な赤目の壮年の男性が姿を現す。
「ディートハルト!! グリュツィーニエ王国の王が何をしに来た!!」
「フリートヘルム、貴様の阿呆具合を見に来たのだよ、貴様の息子の阿呆具合もな」
グリュツィーニエ王国の王――ディートハルトはこの国の王――フリートヘルムに呆れたように言いました。
「『国守り』を蔑ろにするなとあれ程言われていたにも関わらず、お前の代から蔑ろにし始めて『国守り』は『国を守って当然、褒賞も何もなし』では向こうも嫌に決まっている」
「国を守れる栄誉があるだろうが!!」
「それを形として与えてないから問題だと言っている」
ディートハルトは呆れたようにため息をついてフリートヘルムを見ます。
「まぁ良い、貴様が蔑ろにした『国守り』の娘はわが国に招いた」
「何だと?!」
「それと婚約しようとしなかった我が息子が、貴様の息子が婚約破棄した娘と婚約することが決まった」
「くっ……」
「精々頑張るがいい『国守り』が居ないというのがどれほど辛いか味わうといい」
ディートハルトはそう言って光に包まれ姿を消した。
頭を抱える愚なる王と、愚なる王子を見て、大臣達は顔を青ざめさせた――
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