29 / 30
決断とこれから
しおりを挟む「愛している――」
その言葉に、マリヤの表情がなんとも言えないものに変わった。
ブラッドはダメだったかとうなだれると、マリヤがそっとブラッドの手に触れた。
「ブラッド様、言ったはずです。あの日からすべてブラッド様に捧げていると」
マリヤの言葉に、ブラッドははっとした表情になる。
「愛されるなんておこがましいと思っていました。でも――」
「今とても嬉しいのです」
マリヤは穏やかに微笑んだ。
「マリヤ……だが……」
「ブラッド様、一つ言い忘れていたことがあります……」
「なんだ?」
マリヤは少し言いづらそうにしてから、口を開いた。
「実はワクチン副作用がありまして……」
「何だと?!」
「老化現象のストップと、寿命が延びるというのがあって……」
「は……?」
「ハツカネズミで試したら細胞がわかいまま長く生きつづけるというのがでてまして……ちょっと自分、やらかしたな……と」
「……」
ブラッドは何も言わずマリヤの両頬を引っ張った。
「いふぁいれしゅびゅりゃっどしゃま」
「心配した私の気持ちを返せ貴様ー」
さも楽しげに引っ張るブラッドを見て、マリヤも頬を引っ張られながら笑ってしまう。
「……しかし、その薬は未発表なのだろう?」
「はい……さすがにこれを出したらいろいろと問題ありそうで……」
「では出すな、その副作用がないものを開発しろ」
「はい、ブラッド様」
「……いい加減様づけはやめんか?」
「出来たら苦労はしませんよ……」
そういって二人して笑いあう。
「永遠というわけにはいきませんが、末永くお供させて下さい」
「ああ、長くつきあってやろう。貴様がいやだといってもな」
ブラッドは頬を引っ張るのをやめて慈しむように撫でた。
「……あ、そうだ学校……いたた……」
「無理に動くな! お前も爆破テロの時いたんだろう?」
「そうなんですが先生が私をかばって怪我を……!」
「レアが治療したから安心――」
その時、通信機がなり、ブラッドは少し渋い顔をしながら電話をとる。
「何だ、レアか?」
『ブラッド、すまないがマリヤをつれて急いできて欲しい』
「……分かった行こう」
ブラッドは通信を終えると、マリヤを抱き抱えてその場から姿を消した。
マリヤが目をあけると、学園の研究室前であり、マリヤは青ざめた顔をしてブラッドを見る。
ブラッドはそれを見て少し深刻そうな顔をして、扉を開けはなった。
「おい、爺!」
扉をあければ、ジョシュアが横たわっていた。
「先生!」
ブラッドがマリヤを抱えたまま駆けつけ、ジョシュアに近づくと――
「ぐぅぐぅ……」
寝息が耳に届き、思わず抱き抱えたままずっこけそうになった。
「おい、この爺人の心臓に悪いことばかりしやがって……!」
「おーい、ブラッドキャラ崩壊だぞ」
「先生、起きて下さい……!」
マリヤがブラッドから抱き抱えられながらジョシュアを揺さぶる。
すると、ジョシュアがむにゃと何かいいながら目をさました。
「おや……おはよう二人とも……」
「先生! 心臓に悪いことはやめてくださいませ」
「倒れていると思ったら寝ていてな。無事を知らせたくて呼び出したんだ」
「なら普通に呼び出せ!!」
普段はしない意地悪そうな笑みを浮かべるレアにブラッドはかみつく。
「それにしてもマリヤくん、立てないのかね……?」
「その……緊張の連続で足がふらふらなんですよね……」
「ほほ、それはそうだろうね、こんな経験滅多にないからねぇ」
「出来ることなら一生経験せずに終わりたいです」
「ほほほ、君ならそういうだろうね、でもいい経験になったろう」
「は、はぁ……」
「さて、マイヤー社の不祥事というか悪事が世間に暴露されたわけだし、教え子の一人だったということもあるから私にも質問がくるだろうから、君たちは帰りなさい」
「あ……」
「出来の善し悪し関係なく、私の授業を一度でも受け取った子は皆私の弟子のようなもの。君の存在はあまり知られてないから大丈夫、マリヤくんをつれて帰ってもらえるかね」
「先生……」
「ほほ、安心したまえ。元生徒の不祥事はなれっこだから」
ジョシュアの台詞にマリヤは前のめりになり、ブラッドが抱き抱えていなければ倒れていそうなほどのめっていた。
「わかりました、先生お気をつけて……」
「はい、ああ彼との結婚式があるなら呼んでくれると嬉しいのですがな」
「え」
ジョシュアの台詞にマリヤの顔がカーッと赤くなる。
「この爺本当に厄介だな!」
「見抜く爺さんも爺さんだが、見抜かれるお前逹もお前逹だと思うぞ」
「簡単にいいおって……! 不愉快だ、先に帰るぞ!」
「せ、先生お元気で!」
そういうと、マリヤとブラッドの二人はその場から姿を消した。
「……相変わらず意地の悪いことをなさるな、ひいおじい様は」
「ほほ、普段はそう呼んでくれんのに、珍しいですなぁ」
「気分ですよ、ではお体に気をつけて」
レアもそう言うとその場から立ち去っていった。
屋敷に戻るとフミがふみゃーという鳴き声とともに出迎えた。
「フミちゃん、ただいま」
マリヤがそう言うとフミはブラッドの足下にまでかけより、ぴょんぴょんと飛び跳ねてマリヤの腕の中に入ろうとしたが、入らなかった。
見かねたブラッドがフミを片手で抱き抱え、マリヤの腕の中に納める。
すると、フミは満足そうにごろごろとのどを鳴らした。
「ふふ、よしよし……」
ブラッドに抱き抱えられながらマリヤは嬉しそうにフミに微笑んだ。
「全く……これでようやくいつも通り、か」
マリヤを抱き抱えたままソファーにすわり、ブラッドは息を吐いた。
「いや、いつも通り、ではないな」
猫に夢中なマリヤの頬を撫でて、口づけをする。
「あびゃ?!」
「くくく、貴様はいつも通りだな」
「そ、それは驚きますよ、いきなり頬に、きす、されるなんて……」
「私と共に歩むと誓ったのだろう、なら少しは覚悟……」
「いちゃつくならもっと別の場所でやらんか」
げしりとブラッドの後頭部にレアの蹴りが入る。
「レア、貴様!」
「私の目が黒いうちは変なことしたら締めるからな」
「まだ邪魔ものか……! くそ、こいつとの縁も一生つづくとなると本当に悪夢だ!」
「え?」
「ああ、言ってなかったな。こいつがアホしないように私も私が殺さない限りしなんようになってる」
「ええええええ?!」
予想外の真実に、マリヤは素っ頓狂な声を上げる。
「自殺しか死ぬ方法ないなんて最悪だなーはははー」
「貴様が選んだんだろうが! こんなロクデナシ一人生かしたら何おきるかわからねぇって!」
「ロクデナシの自覚ありか」
「ないわ!」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人を見て、マリヤはふふっと笑った。
「これからも一緒で嬉しいです」
「……ふふ、そうだな」
「貴様に言われると文句は言えんな……」
そして三人で笑いあった。
その様子を、猫は満足そうに眺めて鳴き声を上げて、そのまま眠った――
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
夜の貴族は、孤独な令嬢を愛する
琴葉悠
恋愛
クリス・エトランゼは、両親が溺愛する妹に、婚約者をとられた。
失意の中、祖父母の元に身を寄せ過ごしていたが、ある日祖父母に夜会にでるように言われ、そこで運命的な出会いを果たす──
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
ヤリチン幼なじみに見切りをつけました~そしたらイケメンが近寄ってきて……~
琴葉悠
恋愛
冬月心花は幼少時、結婚の約束を交わした幼なじみがやりチン屑野郎になったので、約束は忘れてかつ縁も切って一人で生きていくことを誓うが──
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる