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破滅への特効薬
しおりを挟む破滅を呼ぶ薬が、町だけでなく世界規模で流出しはじめ、ようやく世界政府は対策を始めたが、時すでに遅かった。
特効薬もなく、薬は「選ばれた者だけ不老不死にしてくれる」という噂が流れ、それを求めて薬を求める者がそこら中にいるようになってしまったのだ。
結果、薬によって変貌した人間による、殺傷事件が後をたたなかった。
「ええい、忌々しい!」
ブラッドは殺人事件ばかりの新聞をソファーにたたきつけた。
「ブラッド少しは落ち着け」
レアは冷静そうな顔でブラッドをみた。
「私の細胞を、劣化細胞とはいえ利用してこんなことをしているのだ! 我慢ならん!!」
ブラッドは壁を殴りつけた。
ブラッドの拳であっさりと屋敷の壁に大穴があいた。
「……貴様が修理しろ、マリヤは忙しいからな」
「くそ、あの爺も手伝えばいいのに……」
「ジョシュア氏はジョシュア氏で対応に追われている、遅延させる薬はできたが、それでも薬を使おうとする大衆をどうにかしないとな」
「いっそ、私がヴィランらしく脅してやろうか……」
「安直だからやめろ、気晴らしにテレビでも見てろ」
レアがそう言ってテレビをつけると、ニュース番組が始まっていた。
緊急ニュースという名目で。
「緊急ニュースだと」
『今――地区で巨大な未確認生命体が暴れまわっているとの報告が! 生命体はビルも破壊し――地区は立ち入り禁止になり、防衛軍が出動しております! 近隣住民は避難を――』
レアとブラッドが立ち上がる。
「どちらが行く?」
「私の方が防衛軍に顔が効く、私が行こう」
「任せたぞ」
ブラッドがそういうとレアは急いで屋敷を出て行った。
ブラッドはレアがいなくなると、再度テレビに視線を送る。
「この大きさ、一体じゃないな、複数が融合したものか……くそ、どんどん厄介になるな……」
再度忌々しげに呟くと同時に、基地の方から音がした。
「ブラッド様! ――あれ、レア先生は?!」
「テレビに移っている地区に向かった」
「ああ、遅かった、薬できたのに……!!」
「何?!」
「戻せるように銃で打ち込むタイプも作ったんですよ」
「わかった行くぞこい!」
「はい!」
ブラッドが手を差し出すと、マリヤは銃を持ちながらしっかりと掴んだ。
そして二人の姿がその場所から消えた。
レアは防衛軍に話して、禁止区域になんとかもぐり込み化け物の方へと近づいていた。
「くそ、こんな離れても見えるとは本当に巨大だな」
「レア!」
「レア先生!」
そこに、ブラッドとマリヤがいきなり現れた。
現れた二人を見て、レアは立ち止まり驚きを隠せなかった。
「おい、ブラッド!! なんでマリヤをつれてきた!!」
「成り行きだ!! あと、薬で戻せるかもしれん」
「レア先生、さすがに私は近づいて打ち込めないのでお願いします!!」
レアの言葉を遮るように二人が一気に話しかける。
そしてマリヤは銃をレアに渡した。
「薬が弾丸の銃です! 巨大すぎるので薬が回るのに時間が少しかかるかもしれませんが……」
マリヤがもうしわけなさそうに言うと、レアはようやく口元をゆるめた。
「いや、マリヤよくやった。だからもう避難しろ、ブラッドすぐにマリヤを安全な場所へ」
「わかっている、貴様も気をつけろ」
ブラッドはそういうと、マリヤの手を掴んでその場から姿を消した。
レアは銃と弾丸を確認すると、少しだけ眼を閉じてから眼を見開き、化け物と化した人々の元へと走っていった。
巨大な化け物は建物をなぎ倒し、逃げまどう人々に食らいついてより巨大化していっていた。
「本当に、厄介なものを押しつけてくれる!」
レアはそう言うと弾丸を化け物に打ち込んでいく。
弾丸は化け物の中に溶けるように吸い込まれ、最初は何も変化は無かったが、徐々に化け物がどろりと溶け、苦しむようにもがき始めた。
「やったか?!」
暴れ出す化け物の動きを避けながら、レアは徐々に化け物からはなれていく、それと合わせるかのように、化け物は徐々に小さく、そして――
「あれ……なんで……」
「きゃあ! なんで私裸なの!」
「し、死んだかと思った……」
化け物になった人々と、化け物に丸飲みされた人々が化け物の体液まみれになりながらでてきた。
「よし、さすがマリヤだ!」
「レア殿! 一体今のは?!」
防衛隊の幹部らしき人物が、かけよりレアに声をかける。
「あ――その、私が所属しているクライン社の製品だ。薬の研究をやってくれてる研究者がいてな、つい先ほど完成したのを試してみたのだ」
「おお、あのクライン社の製品ですか! ならば納得です、たしかジョシュア氏の教え子が研究者なのですよね、一度お会いしたいです!」
「悪いが彼女は人見知りが激しいのでご遠慮を……ってこれ何度もいってますけども」
「ははは、すみませぬ! ううむ、さすがクライン社」
「では、私は戻ります、商品については社長と交渉して下さい」
「もちろんですとも!」
レアは少し苦手そうな顔をしながらその場所を後にした。
「――レアは上手くやったようだぞ」
屋敷内で、ブラッドは満足そうにソファーに腰をかけていた。
「よかった……!」
「さて、今回はブラッド・クライムではなく、クライン社の社長として顔を合わせねばなるまいな、面倒だが」
ブラッドは少しだるそうに肩を回した。
「ブラッド様、本当に多芸多才ですね……私には無理です」
「何をいう、貴様とて多芸多才ではないか、薬も武器も道具もなんでもつくれる」
「その、なんでもできる訳じゃ……」
「私とて、何でもできる訳ではない、そして問題はこれからだ」
「これから?」
マリヤはソファーに腰をかけたまま、問いかけた。
ブラッドは立ち上がり、彼女を見下ろす。
「あの薬の出所をたたねばなるまいし、奴らもさらに薬を改良するはずだ、それを考慮してやらねばなるまい」
「薬の出所を直接つぶしに行くんですか?」
「どうせなら証拠を世界中にばらまいてからな」
ブラッドは邪悪に笑う。
「貴様も、薬の改良を怠るなよ」
「……はい、ブラッド様」
「それでいい、では私は行ってくる留守は頼んだぞ」
ブラッドはそういうと、その場から姿を消した。
「……壁の穴ふさがなきゃ……」
見送ったマリヤはそう呟くと、ブラッドが壊した壁の穴を塞ぎ始めた――
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