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科学者の先生
しおりを挟むヴィランによって破壊された町が少しずつ修復されつつあるとニュースで報じられる日、マリヤはそのニュースを見て安堵の息を吐いていた。
「よかった……」
マリヤのその様子を見て、ブラッドは内心安堵の息をついた。
「あ、あのブラッド様……」
「なんだ?」
「町の様子……見てきて良いでしょうか?」
その言葉に、ブラッドは信じられないという顔をしたが、少し考えて口を開いた。
「――レアが同伴で、レアから離れないなら構わん」
「ほ、本当ですか?」
ブラッドは小さく頷くと、通信機でレアを呼び出す。
しばらくすると、レアはいつも通りの白衣姿で現れた。
「全く人使いの荒い上司だ」
「れ、レア先生、すみません……」
「安心しろ、マリヤ。君に言ったわけじゃないから」
「はい……」
レアは穏やかに微笑んで、マリヤの肩を叩く。
「さぁ、出かける準備をしたまえ、その格好で出かけるのは目立つだろう。ああ、私は白衣を脱げば問題ないから気にするな」
「は、はい……!」
マリヤは大きく頷くと、自室へと向かって小走りで移動していった。
レアはそれを見て苦笑してから、いつもの仏頂面になり、ブラッドを見る。
「他のヴィランがいるかもしれないんだぞ、いいのか?」
「――私もついて行く、バレないようにな」
「なるほど解った。なるべく大事は避けたいがな」
レアがそう言うと、パタパタと足音が聞こえてきた。
かなりラフな格好のマリヤがやってくる。
「マリヤ、準備はできたか?」
「はい!」
レアは微笑んで、マリヤの手を取り基地を後にした。
ブラッドはそれを見送ると、その場所から姿を消した。
破壊された町は様々な建築家や科学者たちによって修復が進められていた。
マリヤはフードをかぶりながらそれをじっと見つめていた。
「マリヤ、どうして顔を隠すんだ」
「いやその……何か嫌な予感がしてきたんですよね……」
「何?」
マリヤが小声で言う言葉を聞き取り、レアは怪訝な顔を浮かべた。
すると、様々な記者たちがたった一人の人物を取材していた。
「ジョシュア氏! 今回の修復にはどれくらいかかると予想されますか?!」
「そうだねー、私も手伝うから二週間くらいかなー本来なら二ヶ月とかかかってもおかしくないけれども」
「さすがジョシュア氏!」
老齢の男性が答えているのをみると、マリヤは顔色を青ざめさせて、レアの背後に隠れた。
そして記者とその男性――ジョシュアがいなくなるのを見計らってようやくふうと息を吐いてフードを外し、汗を拭った。
「危なかったぁ」
「どういうことだ?」
「それはだね、マリヤくんが私の元生徒だから会いづらかったんだろうとおもうんだけどれども」
「あびゃあ?!」
「……あの天才ジョシュアの元生徒……?」
奇声をあげて尻餅をつくマリヤと突如姿をみせた、レアは信じられないものを見るような目で交互に見つめた。
「うむ、そうだよ。マリヤくん、優秀なのにどこも入れないのはおかしいと思ってたんだけども、誰かが裏で手回ししてたの気づいたんだよねーそのころはマリヤくんどっかに就職できたというから古傷えぐるのもどうかと思って」
「……先生、古傷えぐられてます、ナイフレベルで」
「おお、それはすまんかった、ゆるしてくれないか」
ぺこぺことへりくだる老人――ジョシュアに対して、マリヤは呆れのため息をついた。
「先生いつもそうですよね……なんというか、色々気力が萎える」
「でも、最後まで授業に残ってくれたのはマリヤくん、他でもない君だったろう?」
「そりゃあ授業とかは楽しかったですから……」
「みんな数式やら構造式やら、建築学やら実験やらどこかでつまづいていなくなるのに、君だけは最後まで残って全部きいてくれたからねぇ」
レアはジョシュアの言葉を聞いて納得したような顔をする。
だから何でも作れるのか、と。
「君も手伝ってくれると嬉しいんだけども……、レアくんがいるというとなると訳ありっぽいからね、無理強いはできないね」
「え……先生はレア先生の事ご存じなんで?」
「そりゃあ、何年か前の――」
「ジョシュア氏、悪いがその話はやめてもらおう。彼女に聞かせる話ではないし、ここでするべき話ではない」
ジョシュアの言葉を遮って、レアがいつもにまして不機嫌そうな顔つき、口を開いた。
「……うむ、そだね。この話はここでする話じゃないからね」
二人だけの自己完結に、マリヤは首を傾げていたが、自分が深入りするべきではないと判断すると再びフードをかぶった。
「マリヤくん、だから何でフードをかぶるの? さっきからきになってたんだけど」
「先生の元生徒ってだけで、色々あるんですよ」
「そうか、それもそだね」
ジョシュアは豊かな髭をもてあそびながら頷いた。
「それにしても――」
「?」
「いいところで、研究とかできてるみたいだね、死んだ目してるときもあるみたいだけど、生き生きしてるね」
ジョシュアの言葉に、マリヤは一瞬驚いた表情を浮かべて、すぐに笑顔になった。
「勿論です!」
「うんうん、じゃあこれからも頑張るんだよ」
「はい!」
「話も済んだようだし、いこうかマリヤ」
「はい、レア先生」
マリヤは最後にジョシュアにお辞儀をしてその場から去っていった。
「――で、邪魔したのはいいけどこうなるとはおもってなかったって顔をしとるね君」
「爺がやかましい」
「もう一人は、悪そうだけど、マリヤくんが大事だから極端な悪いことしてないし、ヴィランだけどよさそうでよかったよ」
「いつから気づいてた」
姿を消していたJとブラッドが姿を現した。
ジョシュアはほっほっほと笑い、二人を見ても動揺していなかった。
そして、状況を認識する力がブラッドを含む二人に歪められているのか、誰も彼らの会話を耳に留めず、彼らに気を留めることもしなかった。
ジョシュアは、髭を撫でながら言う。
「マリヤくんは私の秘蔵っ子だからね、正直どこの企業でもやっていけるし、やっていけないと思っていたんだよ。能力が私を越えてるからね、大企業でも彼女を生かせるか心配だったんだよ」
「安心しろ、マリヤの能力は日々私が生かさせてもらっているからな」
「ヴィランとしてだがな」
「黙れ、幼少期からのストーカーが」
「やるか?」
「構わんぞ?」
「これこれ、やめたまえ。さすがにここで喧嘩したらレアくんがすっとんでくるぞ」
一触即発になりかけたJとブラッドをジョシュアが止める。
「レアくんが強いの、君たちしってるだろう? 何せ彼女が生物類と認識したものは基本何でも『殺せる』んだから」
「例外もいるがな」
「そうだね、例外くん」
「そこまで知っててすっとぼけてたのかこの爺は」
ジョシュアの言葉に今度はブラッドが悪態をつく。
「まぁ、彼女の能力じゃコンクリートとかそういう生物と認識できないものは壊せないのが弱点だからね、前回のヴィランとの戦いすごかったね」
「それも知っていたのかこの爺は」
「食えない爺だ」
ブラッドとJは呆れたような顔でジョシュアを見る。
「ほっほっほ、老い先短い老人だから許してくれんかね」
「正直抹消してやりたいが、マリヤの恩師なら仕方あるまい」
「同感だ、私のマリヤにとっての先生なら仕方ない」
「誰が貴様のだ、このロリコンストーカーめが」
「貴様こそなんだ、この独占欲丸出しストーカーが」
「これこれ、やめんかね」
すぐに一触即発の空気を出す二人にジョシュアはため息をついた。
「やれやれ、愛弟子がこうも好かれているとなると大変だねぇ」
「……マリヤに気づかれるとまずいから戻るか。 ――ブラッドクライム、マリヤに何かあったら覚悟しろ」
「そっちこそ、何かしたら覚悟しておくといい」
姿を消したJを見て、ブラッドは忌々しそうに息を吐いて、その場から去ろうとした。
「ブラッドくんだったかな」
「なんだ?」
「マリヤくんを、よろしくね」
飄々とした調子でジョシュアはいい、頭を下げると、ブラッドは一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐさま邪悪に笑った。
「ああ、勿論だ。マリヤは私のものだからな」
そして、姿を消した。
「……学生時代はもてなかったのに、今すっごくもてて大変だなぁマリヤくん」
姿が消えると、ジョシュアはそう呟き、その場を後にして町の修復作業に戻った。
町を一通り見て回ったマリヤ達は、屋敷に戻った。
マリヤは屋敷に戻ると、疲れ切っていたのかソファーに寝ころんでそのまますぐに眠りに落ちた。
「ブラッド、途中でいなくなったが、何があった」
マリヤが寝たのを確認すると、レアは虚空に向かって問いかけた。
すると、玄関にブラッドが立っており、ブラッドはいつもの不機嫌な顔を張り付けて呟いた。
「マリヤの恩師が気づいていた、アレはただ者じゃないな」
「やっぱりか、面倒な恩師がいたものだ」
「全くだ」
疲れた顔のレアに対して、ブラッドは不機嫌な顔を張り付けたまま答えた。
内心、ひどく喜びに満ちているのを隠しながら――
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