私とマリヤの世界征服録

琴葉悠

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ブラッドの決意

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 休日、マリヤは屋敷の中でフミと遊んでいた。
 フミは、いつものようにふみゃふみゃいいながらマリヤにじゃれていた。
「フミちゃん、よしよし……」
 わしゃわしゃと撫でると、フミは満足そうにごろごろと鳴いた。
 すると、チャイムをならす音が響いた。
 マリヤは驚きつつ、少しうろたえてから扉をあけた。
「随分不用心だな」
 そこには、以前誘拐された先で出会った男性が立っていた。
「あびゃあ?!」
「屋敷の主はいないのか?」
 男がじろりとマリヤを見ると、マリヤは思わず半泣きの表情を浮かべた。
 すると、マリヤの後ろから屋敷の主が姿を現した。
「何の用だ貴様」
「そこにいたのか、随分と便利だな」
 男性はそういうと、ブラッドをじろりと見た。
 ブラッドはマリヤを自分の背後に隠すと、男をじろりとにらみ返した。
「私の大事な科学者をいじめないでもらいたいのだがな」
「大事ならもっと厳重に閉じこめるなりしておけ、誘拐される程度ではすまなくなるぞ」
 男性の言葉に、ブラッドは反応しじろりと睨みつける。
「フン、そうならないためと、なった場合は考えている。第一レアに負けた貴様が言える義理か」
「レア先生って強いのですか?」
 ブラッドの言葉に驚きの声をマリヤはあげた。
 マリヤのその言葉に、ブラッドは少しだけ渋そうな表情をして答える。
「ああ、強いぞ。まぁ、私の次に、だが」
「貴様の次というのが信じられんな」
「うるさいぞ、雑魚が」
「ならここでやるか?」
 ブラッドと男性が一触即発の雰囲気になるが、マリヤがブラッドをひしっと抱きしめてそれを止める。
「ぶ、ブラッド様、ここで暴れたらバレてしまいますー!」
「……それもそうだな」
 マリヤの言葉に、納得したのかブラッドの意識から戦意が消えた。
「第一、名前も知らん輩と戦う義理もないか」
「あ」
 ブラッドの言葉にマリヤは声を上げる。
 二人とも、男性の名前を知らなかったのである。
「……ダーシュ。ダーシュ・ルーンだ」
「ダーシュ、さんですね。す、すみませんがここで戦うのは止めてください。ブラッド様の、ことが、ばれてしまいますし……それにフミちゃんがいるので」
「フミ?」
 マリヤがフミと呼ぶと、フミはゆっくり歩いてきて、マリヤの足にじゃれついた。
 マリヤはブラッドから手をはなし、フミを抱き抱えると、フミはごろごろと喉をならして満足そうにしていた。
 ブラッドはそれを、うらやましげに不機嫌そうな顔を張り付けてみていた。
「……猫、か」
「そ、そうです、だめですか?」
「いや、だめではないな。仕方ない今日は退こう。だが、今後についてかんがえるべきだと思っておくといい」
 男性――ダーシュはそう言うと姿を消した。
「ふへ……」
 マリヤはフミを抱き抱えたままその場にへたりこむと、ブラッドは呆れの顔を張り付けてマリヤの頭を撫でた。
「全く無理ばかりするからそうなるんだ」
「で、でもブラッド様に迷惑になることには、なりたくなかったんです」
 マリヤの言葉に、再度呆れのため息を吐くと同時に、口元をわずかにゆるませてマリヤの頭を撫でる。
「貴様は気にしなくていい、それは私の問題だ」
「で、でも……」
「ドクター・マリヤ。貴様は貴様のなすべきことをなすといい」
「……はい、ブラッド様」
 マリヤは少し不服そうだったが、静かに頷いた。
 そしてしばらく考え事をしてから、口を開いた。
「ブラッド様、あ、あの……いつ頃からいらっしゃったんですか?」
「貴様が猫と遊んでいる時からいたぞ」
「え……!」
「私にとっては姿を消すなど簡単すぎることだ、レアはできんがな」
「は、はぁ……」
「代わりに奴はとんでもない能力をもってるからな」
「とんでもない能力?」
「まぁ、その話もいつかはしよう。今はするべき話でもないしな」
「はぁ……」
 マリヤは少し渋い表情になり、納得がいっていないようだった。
「能力が医者らしからぬ能力だからな、奴はそれも医療に使うあたりやばいのだが」
「え……?」
「だから今は気にするな、奴もいつかは自分から言うかもしれないし、私が言うかもしれないからな」
 マリヤは何とも言えない表情のまま、静かに頷いた。
 ブラッドは苦笑してマリヤの肩をぽんと叩く。
「ともかく、貴様はこれまで通り研究を頼むぞ、無理しない程度にな」
 ブラッドの言葉に、マリヤは再度頷いた。



「……」
 研究室にて、マリヤは一人研究に向かっていた。
 色とりどりの液体を混ぜ合わせて、深くため息をついた。
 混ぜ終わると、研究用のラットに一滴ぽとりと垂らす。
 ラットは少し大きくなり、そして一定時間経過後元の大きさに戻った。
「これを応用して、物質を巨大化する装置をつくらないと……」
 無数の数式がかかれたノートに何かを書き込むと、そのままマリヤは研究に没頭しようとした。
「ドクター・マリヤ」
「あんぎゃあ?!」
 聞き慣れたはずのブラッドの声に驚きの声をあげて、マリヤはその場に倒れそうになったが、ブラッドが抱き抱えたので倒れることはなかった。
「貴様いつも驚いてばかりだな」
「ぶ、ブラッド様がいきなり出てくるからですよぉ!」
「そうか、では慣れろ」
「ええええ?!」
 ブラッドはマリヤをその場に立たせると、研究の成果をじっと眺めた。
「ぶ、ブラッド様」
「区切りがいいんだ、休め。でないと身体を壊すぞ」
「で、でも今日中には仕上げたいですし……」
「私は今日中に仕上げろといった覚えはない、無理に研究して貴様の身体が壊れるほうが問題だ」
「はぁ……」
「では町――と行きたいところだが、最近よそのヴィランがうるさいと聞いてな、町ではなく私の部屋に来い」
 ブラッドはそういうと、マリヤの腕をひっぱって自室へと連行した。

 ブラッドは自室に連れ込んだマリヤを椅子に座らせて、客人のようにもてなした。
「……ブラッド様、なんか悪いですよ……」
「気にするな、私がしたいのだからな」
 そういうと、茶をマリヤのカップにそそぎ彼女に渡した。
「そういえば、向こうでどう扱われた、怪我はなかったようだが……」
「お茶を出されましたが……怖くて飲めませんでした。それとじっとみられて怖かったです」
「そうか」
 ブラッドは内心舌打ちをすると、マリヤに聞こえないように呟く。
「もう少し派手に暴れてぶっ壊してやればよかった」
 そう小声で言うと、何事もなかったかのように、マリヤの正面の椅子に座った。
「ともかく、無事でよかったぞ」
「本当、最初は死ぬかと思いました……」
「次からは気をつけんとな、奴の言うとおりにするのはしゃくだが」
「ブラッド様……」
 ブラッドの言葉に、マリヤは嬉しそうに微笑んだ。
 それを見たブラッドは、満足げな顔をした。
「あと、しばらくは町に近寄らないほうがいいな」
「先ほどの新規のヴィランですか?」
「そうだ、ヒーローどころじゃなく、一般人にも被害だしまくってる筋金入りだからな、私が気を使ってやったのが台無しだ全く」
「ブラッド様……」
「近いうちに、私直々に仕置きが必要だと思ってる、それまでは町に行くことなく大人しくしていろ」
「……はい、ブラッド様」
 静かな空気の中、ブラッドはマリヤを守らねばならないという決意を新たにし、茶会は静かに幕を閉じた――




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