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悪の総帥と悪?の科学者
しおりを挟むとある世界の、どこかの国にある、悪の組織の基地。
そこには、世界征服を企む、恐ろしい存在がいた――
「マリヤ!! ドクター・マリヤ!!」
基地内を歩きながら、その存在はとある科学者の名前を叫ぶ。
「ミスター・ブラッド。私の患者の名前はもう少し静かに呼べ、あと患者をこき使うな」
突き当たりの部屋に入ろうとすると、どこか冷たい面もちの美しい女性がその存在――ブラッドの顔を鷲掴んだ。
「ドクター・レア!! 私の頭を鷲掴むのはやめろ!! 貴様の上司というか、この組織のトップだぞ!!」
「そうか、なら大声を出すな。 ――マリヤ、組織の長殿がお呼びだ」
「は、はい……」
冷たい表情の女性――レアに「マリヤ」と呼ばれたのは、どこかおっかなびっくりな表情をした女性だった。
「マリヤ、頼んでいた品はできたか?」
「も、勿論です、ミスター・ブラッドクライム。貴方の注文通りの品を作りました、け、研究室の方にありますので、少々、お、お待ちを」
マリヤの言葉に、楽しそうな顔をしている、ブラッドをレアがこづく。
「貴様、もう少し上の者を敬え!!」
「病人こき使う上の者なんざ、敬いたくもなんもないわボケ」
「ぐむむ……」
レアの台詞に対して、ブラッドはなんとも言えない声を上げる。
「あ、あの、私、研究室に、いって、きますね」
やや険悪なムードになる二人から逃げるように、マリヤはその場から足早に去っていった。
「おい、待て……!! 全くどいつもこいつも……」
「私と、マリヤの事を知っていて雇ったんだろう、あきらめろ」
「……ふん、言ってくれる」
レアの言葉に、対して鼻で笑うように返すと、ブラッドはマリヤの後を追ってその場所を離れた。
「やれやれ、うちの悪の総帥殿は本当に、悪なのかね……いや、やってることはヴィランではあるし、悪の総帥だな」
レアは誰もいなくなった場所で1人呟いた。
ブラッドは研究室へと向かうと、マリヤが何か機械を取り出していた。
手で持てる程の小型なサイズの機械を。
「ドクター・マリヤ」
「は、はい!! 準備はできてます、ミスター・ブラッドクライム!!」
「そこまでかしこまらなくていい。 第一私の名前をフルで呼ぶのは少し長いだろう。言うならミスター・ブラッドまででかまわん。もしくはブラッド様か」
「は、はい……」
「ところで用意はできているか?」
マリヤはブラッドの言葉にうなづくと、その機械を持ってきた。
ブラッドは機械を手に取った。
「……これはボタンを押すだけでいいのか?」
「は、はい。ミスター・ブラッド……ブラッド様と、私、レアさんが押した時しか反応しないように現在しております」
「そうか、よし試してくる」
「あ……試すならこちらを相手にむけるように、してボタンを、押して、下さい……」
「ああ、わかった」
そういうと、ブラッドはその場所から姿を消した。
ブラッドが姿を消すと、マリヤはその場にへたりこんだ。
「き、緊張した……」
自分しかいなくなった研究室で、脂汗をかきながらその場に座り込んでいた。
「――って調子にのりすぎだ――!!」
無数のヒーローに終われながら、ブラッドは自信に悪態をはいた。
空を自在に飛び回りながら逃げ回る。
ヒーローの攻撃をぎりぎりで交わしながら、逃亡を続ける。
「……まだ広い場所には――よし出た!!」
広く開けた場所に到着すると、ブラッドはマリヤの言うとおり、機械を向けてボタンを押した。
激しい雷撃のような音が鳴り響く。
まるで、雷でできた網にかかったような状態にヒーロー達がなり、足止めを食らう。
「おお……」
ヒーロー達の惨状を見て、ブラッドは感嘆の声をこぼす。
「ハハハ!! ドクターめ!! やるではないか!!」
ブラッドは楽しそうに、笑った。
「さて、ではヒーロー諸君!! これにてさらばだ!!」
ブラッドは悪態をつくヒーロー達の声を聞きながら、その場所から姿を消した。
高笑いをしながらブラッドが姿を消したのをみたヒーローは、目的を理解し、悔しがり、悪態をついて、自分たちの行動を反省した。
基地に戻ると、ブラッドは上機嫌になりながら研究室に向かった。
「ドクター・マリヤ!!」
「は、はひ!!」
研究室で何かをじっと見ている、マリヤに声をかけた。
「何を見ている」
「あ……」
見ていたものを隠そうとするマリヤのもって居るものをブラッドは取り上げる。
それは写真だった。
見たところ、工場のような場所と、年齢様々な男女、そしてその中にマリヤがいた。
「――工場に戻りたいのか?」
「い、いえ」
マリヤはブラッドから写真を取り返すと、しまい込んだ。
「わ、私みたいなのを雇ってくれて、鬱でよく倒れてしまうのに、それでも一緒に働いてくれたことに感謝してるんです」
「そうか――」
「だ、だから、ブラッド様には感謝してます、私みたいなはみ出し者を雇ってくれて、それで工場のみんなには危害を加えないと約束してくれて……本当に、感謝しています」
マリヤの言葉にブラッドは満足したようにうなづいた。
「そうか、ならいい」
「は、はい……」
そして、思い出すかのように邪悪な笑みになって、ブラッドはマリヤの肩を掴む。
「聞けマリヤ、貴様の作った装置はすばらしい出来だった!! これは誇れ!! 貴様をないがしろにした連中を見返せたのだぞ!!」
「は、はい……」
「今までは私がメインの世界征服で苦労したが、これからは貴様がいるから順調に進みそうだ!!」
「あ、あのレアさんは……」
「あいつは医者だ、そういうのには向いていない。まぁ、縁があって雇ったが……だが貴様には良かったな、今も鬱に悩む貴様には雇っておいて良かった」
「……」
ブラッドの言葉に、マリヤは何とも言えない表情を浮かべる。
「さぁ、マリヤ。これからが私と貴様の、私達組織の世界征服の始まりだ!!」
「――はい、ブラッド様」
ブラッドの邪悪な笑みに、マリヤも不器用に笑って返す。
「――慣れないうちは無理に笑おうとするな」
不器用すぎる笑みに苦言を呈すると、マリヤは申し訳なさそうに、先ほどの少しばかり陰鬱な表情に戻る。
「――いくら私が万能でも、限度があるからな、本当に助かるぞ」
再び暗い表情になったマリヤに対して、少しなんとも言えない表情でブラッドは返す。
その言葉に、マリヤはようやく、自然に笑った。
「それでいい」
その笑みにブラッドは満足そうに頷く。
「さて――ではこれから、よりいっそう『世界征服』行動に励んでいこうではないか!!」
とある組織の総帥と、鬱っぽい科学者が出会い今に至る。
本格的な世界征服行動は、これより始まった――
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