13 / 21
訓練、そして旧友と~強くなる為に~
しおりを挟む「ここだ」
次の休日の昼。
山の中に案内された明里は戸惑っていた。
「あの、ここにヴァンピールがいるんですか?」
「ああ、寝床にしている」
「……」
「昼眠り、夜人間を狩りに出る。今までは私が防いでいたが、明里お前が狩って見せろ」
「ど、どうやって」
「前回みたくだ、それと合わせて吸血鬼の本能をむきだしにする事を学べ」
「え、えー!」
「では、行ってくる。ここで待て」
「わー! ちょっと!」
巣穴らしき場所に入っていく葛葉に、明里はどうすればいいのか戸惑う。
獣じみた声が上がり、中から化け物が出てきた。
「ヴァンピール‼」
明里は町へ行こうとするそれの足をつかみ、振り回した。
「どっせい!」
真上の太陽が当たる場所にヴァンピールは上がった。
ヴァンピールの体から黒い煙が上がる。
その匂いに明里の目が赤く染まる。
明里はそのまま、ヴァンピールの心臓を貫いた。
ヴァンピールは塵となり消滅した。
他に二三匹のヴァンピールが明里の視界に入る。
明里は突撃し、ヴァンピール一体を足で踏みつけると同時に足で心臓を貫いた。
踏み抜くと今度は高く上がり、持っている白木の杭をヴァンピールに投げつける。
まるでダーツのように。
手足を縫い付けるように射貫き、動きを封じる。
そして心臓を素手で貫かれた。
「はぁー……はぁー……」
「上出来だ」
「せん、せ……」
「汚れていい服で来いといったのも正解だな、その服、処分するぞ。代えは持ってきているか?」
「……はい」
明里は深い深呼吸を繰り返しながら、葛葉の後をついて行った。
葛葉も家に戻り、風呂を借りて汚れを落とした。
髪の毛も洗い、どこか息苦しくも心地よい香りに包まれながら明里は風呂から上がり、寝間着に着替えた。
「あの、本当にしばらく泊まっていってもいいんですか?」
「ああ、アルフレートの件が終わるまでだがな」
「有り難うございます」
「いやいや、少し息苦しいのは我慢してくれ、奴がこちらに干渉できない結界の影響だからな」
「はい、大丈夫です」
「寝室はそこだから、そこでゆっくり休むといい、明日クォートもこちらに来る」
「本当ですか?」
「ああ」
明里は少しだけ嬉しそうな顔をして、それを見て葛葉は頬を緩める。
「さぁ、宿題は明日終わらせよう、今日はもう薬を飲んで寝なさい」
「はい」
明里は薬を飲んで寝室に向かった。
そして柔らかなベッドに横になり、眠りに落ちた。
「さて……」
「エレナ、アルフレートの奴だが、焦れてきているぞ」
「やはり」
ワラキアの言葉に、葛葉はにやりと笑った。
今まで情報は筒抜けだったが、明里は新しいお守りの影響で明里の情報を得ることができない。
その上葛葉の家という不可侵領域に入られてしまっては、情報はさらに得る事ができない。
外に出て、ヴァンピールを狩ることは理解できても、それを何故率先して行わせるかが理解できない。
理解できない事がアルフレートには多すぎて焦れてきているのであろうことが葛葉には理解できた。
「だが奴から動くことはない」
「ああ、その通りだ。明里という娘が動くのを待っている」
「明里とアルフレート、二人再び相まみえる時が──」
「唯一にして、最後のチャンスだ」
「アルフレートを滅ぼすか?」
「いや、明里がアルフレートから解放されるチャンスだ。もし血が飲めなかった場合アルフレートを滅してしまうのが最終手段だ」
「その手段が使われないといいな、仮にも同族だ」
「だが奴と同族と思われるのは癪だ」
葛葉は忌々しげに言う。
「それにしても……」
「ん?」
「我が息子に惹かれているとは明里という娘は見る目があるな、見目ではなく、中身で惹かれているというのが良い」
「それは見目が良い連中がそろってあの子をいじめていたからだ……」
「……そうか」
二人の声がしょんぼりしたものになる。
「いじめていた連中は死亡、生き残ってるいじめをしようとしている連中は私が締めておいた、大丈夫だろう」
「お前に絞められたら人間なら漏らすのでは?」
「実際漏らしていた」
「おお……そうか」
ワラキアはなんとも言えない声を出す。
「クォートは戸惑っているようだな、見目ではなく中身で気に入られていることに」
「あの子はずっと見目で女達に付き纏われていたからな」
「苦労したのだろう」
「ああ、苦労させてしまった」
「人間と吸血鬼の混血がダンピールと呼ばれるが、それは実際は人間の思い込み。日に強い吸血鬼が生まれるだけだ」
「日に強い吸血鬼をダンピールと呼びたがるのが教会だな」
「面倒な」
葛葉は、あきれたようにいった。
「なら、人間が人工的に作る吸血鬼もどき共──ヴァンピールはなんなのだ!」
「エレナ落ち着け、お前の知り合いがヴァンピールが起こした事件でけがをしたことに腹を立てているのは分かる」
「……すまないな」
葛葉は──エレナは疲れたように行きを履く。
「連中が起こした事件でどれだけの人間が犠牲になるのか、連中は戦争でもしたいのか」
「おそらく」
「ちっ、この件が終わったら組織壊滅に行かないとな」
「そうだな」
「ワラキア、どうしたのだ、なんか反応がおかしいぞ」
「いや、その……もし我が子とあの娘が結婚したらと考えるとな……」
「まだそこまで関係進んでないから考えすぎだ」
「そ、そうか。そうだな!」
エレナは長年の知り合いが、浮き足立っていることに多少不安を覚えた。
「明里、必ず、お前を解放させてやるからな」
エレナは力強く呟いた──
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~
琴葉悠
ファンタジー
異形──
別名邪神とも呼ばれるその者達は、ほとんどが人を害なす者である。
だが、稀に人との間の子を残す。
それは異形の子と呼ばれ、中でも女子が特別な力を持っている。
それ故その子等は異形少女と呼ばれる──
異形の子等は番いを持ち、その番いと死ぬまで暮らすのだが──
別枠の存在がいる。
それは「異形の花嫁」たる人間である。
異形の花嫁として生まれた人間は異形から狙われる。
異形の子等は花嫁を求める。
故に両者は対立する、そして異形の子等によって捕食ないしは撃退される。
それは何故か、異形の子に創造の邪神を食らい、創造の邪神となった者がいるからだ──
※「クトゥルフ系の異形少女は番いと花嫁に夢中~浮気? いいえ本能ですので違います‼~」からタイトルを変更しました。2023/10/30
angel observerⅡ 六神の加護
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
「天使を観測してくれないか」という若田敏彦の依頼を受けたヒルデ、彼女は長きに渡る天使の観測を果たし、その謀略の主犯クロノスとの決戦が終わった。ヒルデたちは、ヒルデ(ゼウス)の兄姉を探す旅に出る。ひょんな事から、若田敏彦の依頼人がギリシャの企業であることから、春休みヒルデ、敏彦、真理亜の3人は、二週間ギリシャに滞在することとなった。しかしそこで、ヒルデたちを待ち受けるものは・・・。
新たな神話が始まる。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
飛空艇の下で
上津英
ファンタジー
飛空艇が飛び、治安が決していいとは言えない世界。凄惨な環境に置かれ人生に絶望していた少年ブラッドはある日、不死の力を持つ青年に出会う。彼の「儀式」の生贄になる事を選び、「儀式」が行われる辺境の村へ向かった。
そしてブラッドはそこで一人の少女に恋をし、死に抗おうともがき始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる