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尋問と乗っ取り
しおりを挟む祝日が終わり、明里は若干気落ちしながら学校に行く準備をする。
日焼けクリームを顔や露出部分に塗り、血を飲んで学校へと向かう。
日差しが少ない曇りの日だった為、明里は少しほっとしながら学校へと向かう。
日傘をさせば目立つため、日傘をさすのを我慢しながら学校の通学路を歩く。
いじめの主犯格がいなくなったとは言え、いじめてきた相手が居なくなったわけではないからだ、あの惨劇が繰り返されるのは避けたかったのだ。
「……はぁ……」
学校につき、自分の席に座ったが机には何もされておらず安心の息を吐き出す。
しばらくすると、いじめてきた相手が登校してきたが、全員顔色が悪く、こちらを見てはさらに顔色を青くしていそいそと自分の席に戻るのを見て首を傾げた。
また何名かは登校してきてもおらず、明里はいやな予感がわき上がってくるのを感じた。
担任が教室に入ってくると、顔色が悪いまま口を開いた。
「佐藤さんが亡くなり、相沢さんが入院しました。この間のマルハマデパートの事件に巻き込まれたそうです」
担任の言葉に、明里の顔色が一気に悪くなった。
血塗れの化け物――ヴァンピールの姿を思い出す、事件はあの化け物の事は一切でておらず、ただ爆破テロとだけ表現されていた。
葛葉から『教会』が隠蔽工作を行ったとだけ聞いており、明里はほかの人に気づかれぬように深い息を吐いた。
授業が普通に開始され、明里はそれまでのことを忘れるように必死に先生の言葉に耳を傾けたが、事件の事が引っかかっており授業に思うように集中できなかった。
昼休み、食事をとる必要がなかったことから葛葉のところに向かった。
葛葉は保健室に入ると、保健室内には葛葉いない誰もおらず、彼女は明里が来るのを視認すると保健室に鍵をかけた。
「明里くると思ったぞ」
「先生……」
明里は葛葉にかけより、服をつかむ。
「何かおかしいんです、いつも私をいじめて来た人や、何もしてくれなかった先生とか顔色がおかしいんです、めっちゃ悪いんです」
「落ち着け、それは私も知ってる……奴が何かしたとしか思えないな」
「え……まさか……」
「あの阿呆だ」
葛葉の指し示している相手がだれかわかり、明里の顔色が一気に悪くなる。
「な、なんでそんな事……!!」
「さてな、とりあえずいじめがなくなったと思えばいい。不本意だがな、とにかくお前は普通に暮らしていろ、こっちはこっちで何とか――」
ばきりと扉の鍵が壊される音がし、明里は顔色を更に悪くした。
「何?!」
「――こんな場所まで来るとは教会の連中が何のようだ?」
「え??」
神父服に身を包んだ屈強な男が部屋に入ってきた。
明里は恐怖から葛葉の後ろに隠れた。
「――ネメシス、そちらの吸血鬼引き渡して頂こうか」
「断ると言ったら?」
「私どもとやり合うつもりですか?」
「――私の生徒の安全を確認できるまで引き渡しはできない」
「安全は保証する、それは解っているだろう」
面識があるような二人の会話についていけず、明里は何ともいえない顔になって二人を交互にみる。
「――」
「あの、先生、私行きますから」
「明里?!」
「だって、ここであの時みたくになりたくないから」
明里の言葉に、葛葉は戸惑ったようだが、明里は男に近寄ると、男は明里の腕を強い力で掴み明里は痛みによる悲鳴をあげる。
男はその悲鳴に思わず手を離した。
「――本当にこれは吸血鬼か?」
「成り立てだがな」
男は戸惑ったようだが、再度腕を掴み明里を連れて行こうとした。
葛葉はそれを一度制止して、教室に向かい明里の荷物を持ってくると明里に渡した。
「……明里、何かあったらすぐ逃げなさい」
「は、はい……」
「では向かうぞ」
明里は男に引きずられるように学校を出る。
学校を出ると、学校前に止まっていた車に乗せられ、学校を後にした。
「……あ、あの」
「外崎明里ちゃんだね、クリスが無茶してすまなかったね」
助手席から優しい声がし、明里はびくりとしながら助手席を見ると若い男――優男ともいえる容姿の神父がいた。
「えっとその……貴方達は……」
「僕達は『教会』の人間だよ、教会っていっても君達が行く教会じゃないけど」
「は、はぁ……」
「エドワード、貴様は油断しすぎだ。これでも吸血鬼なんだぞこの女は」
「吸血鬼と思って扱ったら普通の女の子と変わらなくて焦ったのは誰だったかな?」
「……フン」
明里は居心地悪い空間に、思わず身を縮ませた。
「ほら、明里ちゃんがびっくりしてる」
「吸血鬼が驚いたところで何ともない」
「吸血鬼……」
明里は『吸血鬼』という言葉に明里は酷く陰鬱な表情になる。
何度か反芻し、自分の手を見る。
「そうだ……私、吸血鬼なったんだ……」
「――ネメシスから聞いたけど、やっぱり吸血鬼になりたてて吸血鬼として生きていくのをやめようと必死なんだって?」
「は……はい……急に吸血鬼なったと言われても私が困ります……だって吸血鬼なんてお話の中の存在だとおもってましたし……私は吸血鬼になるつもりこれっぽっちも無かったですから……かといって死にたくなかったですし……」
「何?」
「クリス、ネメシスの話聴いてなかったんだね、彼女はちゃんと言ってたよ吸血鬼のあの問題児の気まぐれで血を吸われて吸血鬼になったって」
「あの悪夢か、なら納得だ。奴は気まぐれで何百人もいきなり殺すからな」
「え……」
男――クリスの言葉に、明里は驚きの声をあげた。
しかし、すぐさま納得し、なんともいえない表情になる。
「この間の事件でどれだけ人が怪我したか解らないし……いじめてきた人達も急になんかおかしくなってたし……」
「君、暴力とかふるわれてたのかい? ますます意味が解らないなそんな子を吸血鬼にするなんて」
「どうせ貴様が何かしたんだろう」
「――私何も」
「クリス! そうやって吸血鬼いじめするのはやめろっての!!」
優男――エドワードはそういってクリスを怒鳴る。
怒鳴り声に明里はびくっとして縮こまる。
すると、頭が一気にぼやける感覚に襲われ、その場に倒れる。
エドワードとクリスは明里が急に倒れたことに驚きを隠せなかった。
「ちょ、明里ちゃん?!」
「――」
明里はしばらく倒れていたが、ゆらりと起き上がり口元に弧を描いて二人をみる。
『私の花嫁に手をだすとは教会もいい度胸をしているな』
「やはり貴様かアルフレート!!」
明里の口からはアルフレートの声が発せられていた、表情も普段のものとは異なり大胆不敵な表情になっていた。
『貴様等が手を出さないなら私はこれ以上何もしない、ただ、花嫁を何か害なすのであればこちらも手を打たせてもらおう』
明里は――明里を乗っ取ったアルフレートはにたりと笑って男二人を見る。
「では聞かせてもらいましょう、貴方は彼女の意志を無視して吸血鬼にした、であってますか?」
『それで合っている、不本意ながらね。彼女は死にたくないと思っている以外は何もなかったからね、我が眷属になるとは思ってなかったからね』
「その時点で私達とあなた達の契約違反では?」
『お前達との契約なんて私は知らないとも、私は私でやってきたのだから』
アルフレートは肩をすくめながら笑う。
「ネメシスがお前が乗っ取ったりできなくしたと言っていたが」
『それは事実だろう、だが彼女の心理状態が不安定になるとその防衛機構は破られやすい。エレナのタリスマンはそういうものに弱いからね』
「なるほど、今彼女は不安定だから乗っ取りやすいという訳か」
『勿論いつでも乗っ取るわけではないとも、明里にもプライバシーがあるからね』
「無視しているようにしか見えないが」
『失礼だね、君は』
アルフレートは少し不機嫌そうに言う。
そして葛葉からもらったお守りを引きちぎった。
『こんな物があるといろいろとやりづらいのだよ』
「勝手に捨てないで欲しいですね。ネメシスが彼女の為に作ったものなんですから」
『……そういわれては仕方ない、誰かに心を込めて送った物を捨てるほど私は愚かではないからね』
アルフレートはお守りを捨てようとしたが捨てるのをやめて、胸ポケットにお守りをいれた。
「いつまで乗っ取ってるつもりだ」
『君たち明里を解放するまでさ、彼女は何もしらないからね。私は明里を守る義務がある』
「ヴァンピールを町中で解放するような奴の言葉なぞ信用できるか」
『あれは明里のためさ、いずれ私の花嫁になるのだからあれ位はできるようになってもらわなければ』
「次同じことをすれば全力で貴様を狩りに行くぞ」
『ワラキア公の御子息が散々文句を言ってきたから次は考えるとも』
「同じようなことをしないといいのだけれども」
『私はしないとも、でもヴァンピールを兵器として使おうとする奴らはどうかな?』
「な……!?」
「ということは貴方がやらなくても、そういう組織が今後町で事件を起こす確率が高いってことですか?!」
『その通り。物わかりがよくて助かるよ』
「こいつの相手をしてればいいというわけではないことか」
クリスが忌々しげに歯ぎしりをしながらアルフレートの、アルフレートに支配されている明里の服の襟をつかむ。
「貴様は余計な事しかしないな……!!」
「組織を見つけてつぶすのが今後の任務になりそうだね」
『せいぜい頑張ってくれたまえよ諸君』
アルフレートは楽しげにいいながら、クリスの腕を掴み、服をつかんでいる手を無理矢理解放させる。
クリスの腕はミシミシと嫌な音がなっていた。
「クリス!! 明里ちゃんの肉体とはいえ本体はあのアルフレートだ!! 無理はしたらダメだ!!」
『そちらの若造の方が自分の立場をよく理解できてるな、だが勘違いしては困る、これは明里の力だ。彼女にも力がある、それを上手く扱えてないだけだ』
「なるほど、この女も吸血鬼というわけか……!!」
『口は慎め若造、だが礼を言っておこうか、貴様が明里の心を不安定にしなければこういう事はできなかったのだからな』
「何……?」
『明里を吸血鬼という枠でしか見ない貴様のおかげで、明里は酷く不安定になった、苦悩したというのが正しい、自分は化け物なのか人なのか、人らしく扱おうとするエレナとは別に貴様は吸血鬼としてしか見てなかった、それで彼女は今までにない位不安定になったという訳だ』
「……なるほど、さっき明里ちゃんが落ち着きなかったのはそれが原因か……」
『勿論両親や彼女を虐げていた連中の死にふれた時もこれ以上に不安定になったが私が乗っ取る理由は無かったのでね、エレナのタリスマンの防御に関しては予想通りだったが予想外だった。おかげでなかなか手を出せなかったからね』
アルフレートはどこからか真っ赤な液体の入ったグラスを取り出し、飲み干す。
紅がかった柔らかな明里の唇がさら赤くなる。
舌なめずりするこどでどこか淫靡にも見えた。
「その血はどこから手に入れたものだ?」
『阿呆な探索者がきたからね、少しだけ血を頂いたよ、今回は殺さず返したがね、今頃顔が真っ青になっているだろう』
「……それはこの女の学校の生徒と教師か?」
『よく解ったね、殺しても良かったのだが、ワラキア公の御子息にうるさい程言われたからね、今回は見逃してあげたよ、次はないが』
「……なるほど、ネメシスが首を傾げてた訳だ。明里ちゃんのいじめが急になくなったのと日和主義の担任が急にいじめに関して対策始めたとね」
エドワードは深いため息をつきながら言う。
アルフレートはにたりと笑って、グラスを揺らす。
『血液パックなんて味気ないものではつまらないからね』
「……いい加減明里ちゃんの姿で言うのはやめて欲しいんですけど、明里ちゃんの評価が悪くなりやすいといいますか……」
『言っただろう、貴様らが解放すれば私はすぐさま戻る、明里には荷が重いからな』
「はは……これ私ら命やばいんじゃないのかな?」
『賢いな、解ったのならばおとなしくするのは貴様らの方だ。というよりも早く明里を解放してほしいものだ』
アルフレートはそう文句をいいながらもおとなしく車に乗っていた。
「……何故貴方程の吸血鬼が明里ちゃんの体乗っ取って、その上大人しくしているのですか?」
『単純に君達「教会」に興味があっただけさ、で今どこに行っているのかな?』
「真宵町の教会の支部です」
『へぇ、こんな小さな町にまで支部があるのかい』
「ネメシスがいるから支部があるだけだ」
『なるほど』
アルフレートはのどの奥でくつくつと笑った。
そして空になったグラスを消すと、慣れた手つきで鞄からリップクリームを取り出して唇に塗った。
「……本当にいつも乗っ取り考えてるわけじゃないですよね?」
『乗っ取った場合知識や記憶もみれるだけだよ』
物騒な会話を続けていると、車が止まりドアが開いた。
『おや、ついたのかね』
アルフレートは鞄を抱えて車からおり、建物を見上げる。
『わりと普通の建物だね』
「はは……目立ったら不味いですから……どうぞこちらです」
エドワードはアルフレートを案内し、建物の中に入っていく。
建物の中は一見普通の会社として偽装されており、アルフレートは興味ありげに周囲を見渡していた。
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