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変わりゆく日常、変わりゆく世界

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 私にとっては大きな世界、彼にとっては小さな世界。
 でも、同じ世界であることは変わりない。
 その世界で、少しずつ生きているのだ。


 いつものように、私は彼と一緒にカオル先生の病院を訪れて、診察を受けていた。
「うん、かなり良くなったね」
 カオル先生はそういってから、近場で見てたからよくわかるけど。
 と小声で付け足した。
「まぁ、薬の相性も良さそうだし、このまま続けていくのがいいよ」
「はい」
 カオル先生の言葉に、自分の病気はやっぱり良くなっているけど、完治というのは目に見えるものではないから難しいものだなと実感した。
 いつも通り診察を終えたが、前より格段に外に怯える機会は減ったなと感じた。
 時折落ち込むと、外が怖いとかそういう状態になるが、それがない状態では、昔と――否、昔よりも、ずっと楽な気分で外を出歩ける。
 隣に居てくれる彼の手を握りながら、彼のおかげだなと思った。
 そんな彼を見ると、いつものように意地悪な笑顔をこっちに向けた。
 いつも通りの彼、意地悪な表情で、私を気遣ってくれる優しい彼。

 薬をもらって家に帰ると、いつものように新聞を見る。
 以前、私の元会社と『敵対組織』そしてその支援者の会社がつるし上げ――基公開処刑をくらって以降、同じような組織が作られては同じようにつるし上げられ、さらされ、公開処刑されるというのが起きた結果、今ではそういう組織は作られなくなった。
 世間的に言う過激派や、テロリストなんかは、相変わらずいろんな方法で潰されたりしている、潰しても潰してもわいてくる。
 蟻や、Gで始まる黒い悪魔の方が十分可愛い。
 比較した虫に失礼だと思うけども、それくらい懲りずにわいてくる。
 人は色んな不満を抱えすぎてて、どこかで爆発させたいんだなという考えが浮かぶ。

 私も、当初は自分に不満を抱え込んでいた。
 それを爆発さられず、全て自分へ向けてぶつけ、鬱を悪化させていった。
 ぶつける対象が違うだけで、こうも異なる風になるのかと新聞などを身ながら思う。
 そんな事を考えているとチャイムが鳴る、焦ったようなチャイムだ。
 何となく誰か検討がつき、少しげんなりした表情を浮かべてしまう。
「私が対応してやろうか?」
「ううん、今日は私が頑張ってみる」
「――そうか」
 多分、私の具合が悪くなると直ぐに助けに入ってくれるだろう、そんな感じがした。
 玄関に向かい、扉をあけると、すこしよれよれした服を着た、元恋人――葛谷隆一がいた。
「――何のよう」
「マイ、俺、やっぱりお前に――」
「――もう、謝らなくてもいいです」
 隆一の言葉を遮って、私は言った。
「もう、謝罪もいりません。貴方がどこで幸せになろうとかまいません、ただ――」

「もう、私の前には自分の意志で現れないで下さい。私は私を大事にしてくれている人達と穏やかに過ごしたいのです」

 怒り任せにいった前回とは違い、今度は酷く丁寧に、そして感情的にならないように言った。
 隆一の顔は、もうだめだという顔をしていた。
 今更だとさえ思う。
「貴方に何があったかはわからない、でも貴方の人生と私の人生はもう分断されたのです。 貴方が捨てたのだから、それを理解して下さい」
「……わかった」
「では、さようなら」
 そういって扉を閉める。
 ドアを閉めると、少し緊張していたのか、手汗をかいていた。
「……」
「よくやった」
 彼が私を誉めて、抱き締めてくれた。
 ちょっとハードルが高かったかなと思いながらふらつくと、彼はちゃんと抱きとめてくれて、私をお姫様抱っこのような形で抱き上げると、そのままソファーに座らせてくれた。
「……もう来ないといいな」
「来ないだろうな、前回のに続いて、この間と、今回のが響いたようだしな」
「それなら良かった」
「ちなみに、奴に悪い知識を与えた連中自滅してて笑えたぞ、私が何もしなくても自滅するのは楽でいい」
「ふふ、確かにそうね」
 彼の言葉に、少し溜飲が下がり感情が落ち着く。
 もういいと言っておきながら、やはり酷い目にあって欲しいと考える自分はちょっと酷いなと心の中で自嘲する。
「何を言う、貴様が聖人君子ではなくていいと思うぞ、それこそ人間らしい」
「ふふ、有り難う」
 彼の言葉に、私は嬉しくなって笑う。
 彼と、少し落ち着いた時間をすごそうと思っていると、電話が鳴った。
 元会社からだ。
 これだけは出たくないと若干思う。
 さっきので疲れたし、きれるのを待とうと思っていると、彼が電話を取り私から少しはなれて話をしはじめた。
 何を話しているんだろうと思いながら待っていると、彼が電話をもって戻ってきた。
「何を話してたの?」
「貴様の元上司――の件についてな」
 私の元上司――ああ、管野連次郎についてか。
 あの人には本当酷い目に遭わされた、確かご家族とかにも会った気がするがちょっと思い出せない。
「会社の方で、色々隠してたのがあるから今後も話さないでほしいと」
「で、答えは」
「隠さなくても、もうバレてるからこちらのしった事ではない、と返してやった。そして、貴様が精神がやられた件を持ち出して、電話を二度とするなと言ってやった」
「そうか、よかった」
「あと、ちょっと調べたが元上司、ついには嫁にセクハラ行為の件で離婚を言い渡されて、娘二人も母親についていくという状態で、てんやわんやしてるらしい、ざまぁみろだな」
「……うん……」
 彼の言葉に、思い出した。
 ご家族が申し訳ないという顔をしていて、娘さんはやたらと私を気遣ってくれた、そうだ、娘さんにもセクハラじみた発言いったり行動したりで嫌われていたんだ。
「男だろうが、女だろうが、セクハラする奴は自滅が一番だな」
「それは言える」
 彼の発言に同意する。
 セクハラ――セクシャルハラスメントは、男性から女性にのみではない、女性から男性にも含むのだ。
 わりと逆が言いづらい世の中だったが、少しずつ変わるようになってきているのは、彼の行動が原因だと思う。
「……ダークさん、色々、有り難う……」
「何をいうか、まだまだ続くぞ」
 彼は邪悪に笑って私をなでた――


 そうして、少しずつ日常も世界も変わっていったのだ。
 元恋人と、元上司があの後どうなったかは知らない。
 私はもう気にすることはないとわりきったので、気にならないから、彼が言うことは無かった。
 病気も快調に向かい、体も以前より動くようになった。
 そして、良くなったのを気に、私と彼は籍をいれた。
 結婚式もなく、ウェディングドレスを着て写真をとるだけの簡易なものだったけど、それも私の希望だった。
 式くらいあげてもいいのにと母が言っていたが、ちょっと私が気恥ずかしいかったので、勘弁してといったら笑って許してくれた。

 ちなみに、一番驚いたのは、まさかカオル先生と博士さんが事実婚状態になるということだった。
 四条院先生が「もう少し男を見て選べバカ!!」と、今回は頭を抱えてうなだれていた。
 若干気持ちが分からなくもないので、四条院先生を慰めておいた。
 彼もそこまで読んでいなかったので、若干驚いていた。
 再婚する気がなく、事実婚状態なのは、二人がそれが気が楽だというので、事実婚状態でいることにしたそうだ。

「………」
 休日に彼がつれてきてくれる、大きな部屋の窓から、下の町を眺める。
 町並みが少しずつ変わっていく。
 日常も少しずつ変わっていった。
 それに会わせるように、世界も少しずつ変革していっている。
「まだまだやること、やりたいことが多すぎるな!」
 彼は笑って私の傍による。
 いつも通り、変わらない邪悪な笑みを浮かべて、町を見下ろす。
「本当に、そうですね」

 変わらないように見えて、変わっていることもある。
 変わっているように見えて、じつは変わってないこともある。

 様々な変化の中で、私は彼と前に進んできたのだ。
 彼がいるから、あの地獄のような日々から前に進めたのだ。
 彼だけじゃない、カオル先生達のおかげもある。
 私は運はなかった、でも幸運だった。
 幸運だったから、彼に出会えたのだ。
 今も、鬱病などの病気は無くなっていない、苦しんでいる人はたくさんいる。
 その人達が、早く良くなるよう、色々な出会いが早くできることを願う。
 だから、その為に少しずつ社会は変革を行っている。
 薬、医師、制度、そのほか諸々の変化は起きている。
 色んな変化が彼が来てから、様々なことが起きている。

「マイ」
「はい、ダークさん」
 彼が私の名前を呼ぶので返事をする。
 彼に名前を呼ばれるのはとても嬉しいことだ。
「これからもよろしく頼むぞ」
「――はい」
 邪悪な笑みを浮かべながら、私の頬をなでる。


 私の愛しい人、最愛の人はヴィラン。
 でも、その人は変革を行う、私を気遣う、極悪人で、優しい人。

 ダークさん。
 どうか、これからもよろしくお願いします。


「勿論だとも、これからも頼んだぞ、マイ」
 
 私の心を読む、意地悪で、邪悪な笑みを浮かべる、優しい人。
 はい、勿論、これからも一緒に歩いていきます。
 誰になんと言われようと、貴方が私を愛し救ってくれたのですから。
 何も信じられなかった私に、再び信じる心をあたえてくれたのですから。
 だから、ダークさん、これからも、一緒に歩いて下さいね。

 この変わりゆく日常を、変わりゆく世界を、一緒に歩いて下さいね――











End
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