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安らぎの一時
しおりを挟む働いてばかりじゃ、動いてばかりじゃ疲れてしまう。
付加をかけ過ぎてばかりじゃしまいには壊れてしまう。
だから、休憩は、休息は必要なのだ。
珍しく彼がソファーの上で、寝るような体制をとっていた。
よく被っている紳士帽を深く被って、目元を隠して寝ているようにみえた。
気になって帽子に触ろうとすると、腕を捕まれる。
「……」
突然の行動に心臓が強く脈打つ、驚きが強い。
「……何だ」
「……寝ているのかなって……」
「――そうだな、ここで寝るよりもあちらの方がいいか」
彼1人で自己完結したと思うような発言をすると、私の腕をつかんだまま、どこかに移動した。
瞬きすると、そこはたまにつれてこられる、大きな部屋。
現在はカーテンがされ、電気も小さく薄暗い。
彼は帽子をぬぎ、かっちりとしたコートやネクタイなどもはずして楽そうな格好になると、私の腕を再度つかんで、ベッドに横になる。
私は彼に引きずられるように、ベッドに横になる格好になった。
そのまま薄手だが、しっかりとした毛布がかけられ、彼に抱き込まれるような体制になる。
彼は少しすると、静かな寝息をたてて眠り始めた。
「……」
私はどきどきしながら、寝ている彼にそっと触れてみる。
起こさないようにそっと。
私から彼に触れることは数少ないため、心臓が激しく脈打つのが解る。
彼の肌は自分の肌とは比べものにならない位なめらかで、すべすべとした感触が心地よい。
自分の肌は、まだストレスなどで、吹き出物がでたりするため、ちょっとぼろぼろなところがある。
体温は自分よりも少し低めな印象はあるが、冷たい訳ではない。
人間とは違うのがはっきり解るものの、それでも綺麗顔立ちであることも理解できた。
色々と羨ましいなと思ってしまった。
彼の頬を触っていると、次第に眠たくなってきた。
夜の寝付きの悪さに反して、明るいときに眠くなると寝れるのは何故なんだろうと思いながら、私の意識は少しずつ眠りに誘われていった。
そして、彼がきてから悪かった寝付きが改善されたりしたなと思ったのを最後に私の意識は暗転した。
腕の中にいるマイが眠りに落ちると、ダークはうっすらと目を開けた。
「……そうだな、眠っていても私は知覚できるのをお前には話してなかったからな」
そういって自身の腕の中で眠るマイの髪を撫でる。
「お前は本当に私に触れない……起きてる時も触れてくれたら嬉しいのだが」
そういってから自嘲気味に笑う。
「まぁ、お前はそういっても中々触れないのだろうな」
そういってから再度目を閉じ眠り始めた。
十数時間後、ダークが目覚めると未だ眠り続けるマイを見下ろす。
「……もうこんな時間か、というか次の日になっていたな。貴様も私の影響を受けて熟睡か」
そういうと、ダークはマイの頬を軽くたたいた。
「おい、起きろ」
ダークがそういうと、マイはゆっくりと目を開けた。
「あれ……ダークさん……何だろう、目がしょぼしょぼする……」
「次の日の朝まで寝ていればそうなるだろうな」
「え?」
驚くマイにダークはとある時計を見せた。
時刻は午前6時を示している。
「あぎゃー!!」
「やかましい」
驚きのあまり奇声を発するマイの額をべちりとたたく。
「あいたっ」
「全く早朝からやかましい」
ダークはそういうとマイを抱き上げ、一歩踏み出す。
一歩踏み出すと、少しまだ薄暗いマイの家のリビングにつく。
「ここにいろ」
マイをソファーに座らせると台所に向かい、そしてすぐさま料理を持ってきた。
「本当料理をどうやって作ってるのか知りたい」
「気にするな、お前にはできない方法で作ってる」
「デスヨネー」
湯気がたつ料理をソファーの前にあるテーブルの前に置くと、彼女の隣に座る。
「さぁ食べるといい」
「わぁ……いただきます」
白い温かなパンをかじると、マイは嬉しそうに顔をほころばせる。
それを見て、ダークはどこか安心したような笑みをこぼす。
「最初と比べて、食べられるものが増えたな」
「はひ……」
マイがもぐもぐと食べながら答えると、ダークは行儀が悪いと苦笑した。
「当初は骨と皮だけのようなものだったからな……」
「あ……あはは、そうですね……」
今度は飲み込んでから言葉にする。
「随分と昔のことのように思えて懐かしいな、まだ最近のことだというのに」
ダークの言葉にマイは苦笑する。
「でも、時間はそれなりにたちましたよ」
「そうだな」
ダークは普段とは違い穏やかな笑みを浮かべていた。
「大分顔色もよくなった」
ダークに頬を撫でられ、マイは照れたように笑う。
今日の彼はとても優しい。
頬をなでられる感覚はとても心地よい。
少しだけ照れくさい感じはあるけれども、こんな風に触ってもらえるのは嬉しい。
頬をなでられながら、私はそう思った。
「今日はお仕事は休むんですか?」
「ヴィラン活動も、それ以外の活動もあまり休まずやっていたからな、今日は休んで貴様の傍にいようと思う。貴様も休め」
口調は相変わらず、でも私はそれでいいと思っている。
笑顔もいつもと違うので新鮮、でもいつもの笑顔も好き。
そう思いながら、私は彼を見る。
心は見透かされていても、別にかまわない。
私は彼が好きだからと、自分に自信がもてない中で、唯一自信が持てる内容に納得して、彼と向き合う。
「そう、随分と前向きになったな」
「まだ、後ろ向きになってしまったり怖くなること多いですけど……」
「それでもかまわない。一歩一歩進んでいるんだからな」
いつも通りの邪悪なヴィランらしい笑顔で、私の頬をなでる。
「さぁ、料理が冷めてしまうぞ」
そう言われたので、残った料理を慌てて食べる。
「冷めるとは言ったが、慌てすぎるなよ」
苦笑しながら言われて、少し恥ずかしかったけど、いつものペースで食べることにした。
少し冷めてしまったけど、料理はとてもおいしかった。
その後も、彼とは特に出かけることもせず、だらだらと過ごすことにした。
買って遊んでいなかったゲームや、好きな動画を一緒に見るだけでもとても楽しかった。
せわしなく動き続ける世界では、一時の安らぎなのかもしれない。
でも、この一時の安らぎが、何よりも大切なのだと思った。
そして、彼とともに過ごす時間がとてもかけがえのないものだと、改めて思った。
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