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悪女? いいえ彼女は立派な王妃です!
しおりを挟む「ルカード聞いているな」
「はい、フィミアが悪女と呼ばれている事は」
ルカードは父たる真祖の言葉に頷いた。
「その通り、自分達がないがしろにしてきた人材を掘り出して国に勧誘している彼女を悪女と呼んでいる」
「本人は全く気にしてないようですが、私は気にします。愛しの妻が悪女と呼ばれるなど」
「私は国中の会議に出席する、その間留守は頼んだぞ」
「はい、フォード大公もいらっしゃいますし」
「侵略したならそれ相応の報いを受けさせてやる」
「はい」
ルカードは父が玉座から消えるのを見送ると、ふうと息を吐いた。
「フィミアが悪女だなんて失礼な」
「ルカードお願いがあるのだけれど」
私は私ではどうしようもできない問題に直面しルカード様を呼ぶ。
「何でしょうか?」
「私の実家をこちらに移して構わないかしら?」
「どうしたのです?」
「元の国でも人材流出があってそれが私が原因だから悪女の家だと評判が悪くなってしまってね、だからお願いなの」
「畏まりました、すぐに手配と手紙を」
「ああ、有り難う」
それから一週間もしないうちにお父様達がやってきた。
「お父様、ごめんなさいね」
「いやいいんだよ、フィミア」
「ローレンス伯爵殿ですね、私はフィミアの夫ルカードです」
「る、ルカード様有り難うございます」
お父様は緊張しているようだった。
「フィミア、本当にいいの?」
「フォード大公の領地内に屋敷があるからそこでくらしていいとおっしゃってくれたわ」
「そこなら安全だから安心して暮らしてください」
「おねえさまは、あくじょじゃないのに、やさしいのに、みんなひどい!」
「可愛いマリー、でもお姉様は悪女って呼ばれてるの」
「ひどい、ぷんぷん!」
幼いマリーはお怒り中、頬を膨らませて可愛い。
「では、移動を──」
「ルカード様!」
兵士が慌ててやってきた。
「どうしたのだ⁈」
「リア王国が我が国に侵略行為を──」
「フォード大公には⁈」
「既に伝えております」
「他の兵士も呼べ、私も──」
「ルカード様」
戦地に赴く夫へこう告げる。
「どうか、ご無事で」
「ああ」
戦争は程なく終結した。
フォード大公により、敵は壊滅状態に陥ったのだ。
ルカード様は戻って来ては「フォード大公はお強すぎる」と愚痴を漏らした。
「貴方も十分お強いですよ」
となだめてなんとかなった。
それからまもなく国王陛下──御真祖様が戻ってこられた。
「聞いたぞ、リア王国が我が国を侵略しようとしたと」
「はい父上、私と兵、フォード大公が出ましたが……フォード大公の独断場でした」
「ふ、奴はこの国きっての武人、私の次に強い吸血鬼だ」
ってことは、真祖様はがちでやばい強さなのですわね。
「ところで侵略者共の死体はどうした?」
「いつものように、その国に魔法で送り返しております」
「うむ」
「我が息子の妻よ、リア王国はおぬしの母国だがいかように?」
国王陛下に問われる。
「母国とはいえ、犯してはならぬことを犯してしまいました。よって罰を」
「承知した」
国王陛下はいなくなる。
「フィミア、良いのですか。貴方の母国なのですよ?」
「ですが、今の私はこの国の人間で、貴方の妻です」
「フィミア……」
「悪女でしょう?」
「いいや、そんなことはない。君は我が国を思っての発言をしたまでだ」
と、純粋なルカード様、私みたいな悪女を妻にして大変ですのに。
翌日、国王陛下から呼ばれました。
「革命が起きた結果、リア国はこの国に侵略行為を行った、故に元王族一族に非はなく、革命を行った軍部の人間共を徹底的に処刑した」
「まぁ」
そういえば、リア国の軍部はこの国を毛嫌いしてましたものね。
「王族の権威を復刻し、王位に就かせ、二度とこのようなことが起きぬように言った」
「それでお許しになられたのですね、慈悲深い国王陛下」
「私は慈悲深くはないとも、我が息子の妻フィミアよ。なすべき事をなしたまでだ」
私からしたら慈悲深いにも程があるとおもいますけれども。
「フィミア様、ようこそいらっしゃいました」
「ええ、運営は順調かしら?」
私は孤児院を作ることにした。
孤児院この国にはなく、親無き子どもは長の家で育てられるが、その間に虐待などが発覚することがあり、孤児院を作り、育児の専門家達に任せ国は金を出し子ども達を育てるというものだ。
私も不定期的に見回りに来ており、虐待がないか調査をしている。
今のところなく、運営は順調だ。
「おきさきさまあのね」
「どうしたのかしら?」
「きのうね、まおくんとりおくんがけんかしちゃっていまもふたりともきげんがわるいの」
「まぁ、それは大変」
そう言って、私は子ども達の仲裁に入る。
本来ならば専門家に仲裁に入るべきなのだろうけど、私に入ってほしいということは別の意図や、何かがあるのだろう。
「リオくん、マオくん、ちょっとおいで」
「おきさきさま……」
「……はーい」
「ふたり喧嘩したってきいたけど何があったの?」
「リオがおれのことおやにすてられたくせにって」
「マオがおれのことおやがしんでだれにもひきとられなかったくせにって」
「どっちがさきに言い出した?」
「リオ」
「……おれ」
「どうしていったのかな?」
「たのしそうにあそんでるのがゆるせなかった」
「マオくんが」
「うん、だれにもひきとられなかったのにどうしてわらえるんだって」
「だって、そうじゃなかったらぼくはのたれじぬかそれかうわさがわるいちょうろうにぎゃくたいされそうになってたかもしれないじゃないか」
「……おれもそうだよ」
「ちょっと待って、貴方達の区域の長老そんな悪評あるの?」
「うん」
「ちょうろうにそだてられたやつらにきいてみるといいよ」
「わかったわ、教えてくれて有り難う」
そう言って二人の頭を撫でる。
「私はねそういう子ども達を減らしたいから孤児院を建てたの、どんな理由であれ育てられなくなった子を育てる場所として」
「……」
「私は貴方達を愛しているわ」
「ほんとう?」
「ほんとう?」
「本当よ」
そう言って二人を抱きしめる。
「こうして不定期にしかこれないけど、貴方達の健やかな成長を願っているわ」
「……うん」
「うん」
「仲直りしてとは言わないわ、その相手の生まれとかを馬鹿にするような発言はしちゃだめよ」
「はい!」
「はーい!」
「はい、良いわ。遊んでらっしゃい」
子ども達と離れると、院長と会話を終えたルカードが戻って来た。
「ルカード様話したいことがございますの?」
「この地域の人間の長の話だね」
「まぁ、どうして分かってらっしゃるの?」
驚く私に、ルカード様は笑って言った。
「耳だけはいいのですよ」
と茶目っ気を入れて。
本当に美しくて愛らしい御方。
その後、私は長老に育てられた人たちを確認し、家族が居る場合は家族に内密に情報を入手した。
子ども達が言ったとおり、虐待があるのは事実。
では、裁きに行くとしましょうか。
「其方がこの周囲の村長だな」
「る、ルカード殿下! こ、これはこれは、私めに何の用ですかな?」
「其方、村長の立場を利用して、孤児になった子ども達を虐待していたな?」
ルカード様が静かに言い、睨む。
「そ、そんな滅相もございません!」
「お前の孤児になった者達から全員話を聞いて真実かどうかも確かめた、真実の石は彼らの言葉にヒビ一つ入らなかった、つまり真実だ」
「ぐ、ぐうううう!」
「そしてお前の言葉には──」
白い石にヒビが入り始めている。
「虚偽の報告だと真実の石が伝えている」
「諦めなさいな」
そう言うと、近衛兵達が年老いた村長を捕縛し連れて行く。
「牢屋に入れておけ!」
「は!」
「儂が引き取ってやったんじゃ、儂が何をしようが自由じゃろうが!」
とわめく醜い老人に私は言う。
「だからお前は裁かれる、今までの行いによって、罰を与えられる。楽に死ねると思わない事です」
冷たい目線で老人に言うと、薄汚い老人はひぃと悲鳴をあげた。
「フィミア……」
「幻滅なされました?」
「いや、君は素晴らしい! 被害者の事を思いそういう態度がとれるんだから!」
ルカード様、褒めすぎです。
「ルカード様、褒めすぎですわ、私、少し恥ずかしいですわ」
「ああ、それは済まない」
「それより、他の地区でも同じようなことが起きていないか確認する必要がでましたわ」
「そうだね、部下にも手伝って貰おう」
「有り難うございます」
そうして、各地区を回り、虐待していた村長等が居ないかどうか確認し、居た場合牢屋に連れて行き、罰を与えるという流れになった。
思ったより数が多くて少しばかりげんなりしてしまった。
吸血鬼による支配で鬱屈した状態になっていた場所ほど、虐待が多く行われていた。
逆にフォード大公のような領地運営をしている場所は無かった。
「やはり百年前にすげ替えて置けばよかった……」
すこししょんぼりとなされる国王陛下。
「御真祖様、そんなに気を落とさないでください」
「だがな……人間の寿命は短い、百年も持たぬのが普通だ」
「御真祖様……」
「では、次は問題を起こさないよう、厳しく行きましょう」
「そうだな、厳しくゆくか」
なんとか元気になって貰いました。
「ところで我が息子の妻フィミアよ」
「はい、何でしょう?」
「其方、働き過ぎでは無いか?」
「そうでしょうか……?」
「ここ最近の国の発展には其方が関わっている、医療も孤児院も、研究も全てだ」
「できることをしてるまでですわ」
「だから、言おう。ルカードと共に少し休むが良い。屋敷は手配している」
「そうですか……では、お言葉に甘えて……」
「父上、聞きました」
ルカード様いつの間にここに?
「その通りですね、フィミアは少し休むべきです」
そう言ってルカード様は手を取る。
「では、参りましょうかフィミア」
「ええ」
そう言って荷物をまとめていわゆる王族の屋敷へと向かった。
国王陛下は使われていないが、亡くなられた王妃殿下とルカード様はよく利用していたらしい。
手入れの行き届いた庭、大きな屋敷、そして見える湖。
「フィミア様!」
「あら、メリー。貴方も来ていたの?」
「勿論です、お嬢様居るところ、メリーは駆けつけてますよ!」
そう、この子、私が遠出するとなると荷物持つやらなにやらをやるために必ずついてくるの。
また、王宮では私が侍女頭に頼んで私の侍女のままにしてもらったし。
浮いてしまうのではないかと不安になったけど、持ち前の明るさとやる気で他の侍女達と上手くやれてはいるみたい。
一応ルカード様に頼んで、真実の石を使って確認したけど、問題は無かったので私は一安心。
「ここは湖が美しい……が、流れ水故私達は遠くから見ていることしかできぬ」
「では、一緒に眺めましょう」
「ありがとう」
そうして屋敷に入ると、屋敷の従者や侍女達が現れた。
「ようこそいらっしゃいました、ルカード様、フィミア様」
「早速案内をしてくれ」
「畏まりました」
案内され、ルカード様と相部屋になる。
ベッドは二つ用意されてはいるが。
「あ、相部屋は嫌かな?」
「いいえ、ルカード様と一緒にいれるなら」
「ほ、本当かい!」
ルカード様は嬉々とした表情をなされました。
しかし私は屋敷の中に嫌な空気を感じ取っていました、ルカード様にはおっしゃいませんでしたが。
それから、私達は一週間ほど庭を散策し、湖を巡り、眺め、手をつないで共に過ごしました。
その一週間が経ち、王都に戻る最中メリーが泣きそうな声で私に話しかけてきました。
「フィミア様、フィミア様がルカード様から貰ったネックレスが見当たらないんです! それにこの手紙が……」
手紙にはこう書かれていた。
『ネックレスを返して欲しくば湖の畔に一人で来るべし』
私はメリーにそっと言いました。
「ルカード様にコウモリになって湖まで来てくれるように言いなさい」
「は、はい!」
そう言ってコウモリが隠れながら着いてきてくれるのを見ると、嫌な気配。
数名の侍女達が居ました。
「お前は人間の癖に何ルカード様の妃になってるんだよ!」
「そうよ、私達の手の届かない方なのに、人間なんかが……」
「こんなもの!」
ネックレスを投げ捨てると同時に、強力な磁力の魔法でネックレスを引っ張り寄せ、自分の手元に戻します。
「ありがとう、手放してくれて。お礼に──」
「湖で遊泳するといいわ」
私がカツンと足をならすと水の巨人が現れ、侍女達を飲み込み、そして湖の一部となる。
「助けて助けて!」
「いや、いやよ! 死にたくない!」
「ごめんなさい、許して!」
「出そうだけど、ルカード様。どうします」
怒りの形相のルカード様が侍女達を睨んでいた。
「貴様等、彼女に渡したものを利用して彼女を亡き者にする気だったな⁈」
「ぞ、れば……」
既に沈みそうになっている。
「そのまま沈むがいい、お前達の所業は父上に伝えておく」
「ルカード様、それでは可哀想ですわ。キチンと罰は罰として受けていただかないと、ここで溺れ死んではとしては軽すぎますわ」
「そうだな、助けられるか?」
「ええ、勿論」
私はカツンと再び足をならし、水の巨人が侍女達を掴んで陸地に上がらせる。
「近衛兵!」
「は!」
ルカード様が呼んでいたらしい近衛兵の方々が集まり侍女達を縛り上げ連れて行った。
「フィミア、怪我はないかい⁈」
ルカード様が私を抱きしめる。
「いいえ、ルカード様、私は無傷です。そしてネックレス……は無傷じゃなかったようですね」
傷つけられまくっている。
「彫金師に直させよう」
「いえ、これはこのままで。私とルカード様の絆を奪おうとする輩がどうなったかの証拠になりますし」
「そうか、それならそうしよう」
そして漸く王宮に帰ると、侍女達は王子の妃に危害を加えようとしたということで全員処刑となったそうです。
まだ、子どもを虐待していた連中も処刑になったらしい、良いことですわ。
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