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婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~
しおりを挟む私の名前はペルラ・ジェンマ。
……妃候補。
第一王子であるエピカ・ストーリャ殿下の将来の妃。
だが!
私は!
この王子が大嫌いなのだ!
愛していない、愛などない!
幼い頃から妃教育はとても過酷で逃げ出したかったが、親と兄がそれを許さない。
ああ、誰でもいい。
私は妃になりたくない!
そう思っていた矢先に転機が訪れた──
夜会に参加していると、こっそりと隠れるように奥の部屋へと行く王子を見たのだ。
皆がひそひそ話している。
『ペルラ様以外の娘を連れ込んじゃったよ、エピカ殿下』
『奥の部屋はそういう事をする場所だからね……』
『ペルラ様見てる! こいつはヤバいぞ!』
私は心の中でにたりと笑い、奥の部屋へと突入した。
まだ、何もしていない王子と知らない貴族の娘さん。
「エピカ殿下、これはそういうことですか?」
「……ああ、そういう、こと、だ」
言葉を濁しながら言う王子を見て万歳をする。
「やったぁ! 婚約破棄ね!」
「?!」
「好きでもない殿下に見初められて妃教育を受けさせられてきたこの十二年、何も、楽しく、無かった!!」
私は本音をぶちまける。
「でも、殿下に他に好きな方ができたんですものね、私はおいとまいたしますわ、失礼」
「ま、まってくれペルラ!」
何か言いたそうにしている王子を放置してすたこらさっさと夜会の会場から飛び出します、すると、誰かが手を掴みました。
「……?」
蒼白い肌に黒い髪、赤い目──隣国のリィ国のエグニマ・リグロ大公様でした。
「ペルラ様、どちらへ行かれるのですか?」
「婚約破棄されましたから何処かに行こうかと……」
「そうですか、なら私の所に来ませんか?」
私はそのお言葉にためらいます。
大公殿下も別の国とは言え王族。
堅苦しい日々が続くのでは無いかと。
「私の客人としてお招きしたいのです。それに私の領地は自然豊かですよ」
エグニマ大公殿下の言葉に、私は目を光らせます。
それなら、大公殿下の元で父母の目を欺ける、と。
隣国に逃げたなど思わないだろうと。
「では、そのお気遣いに甘えさせて貰います」
「お待ちしておりますとも」
私は屋敷に戻ると荷物を全部馬車に載せて、大公殿下の領地に向かいました。
豊かな土地を見ながら私はそれに魅了されます。
「なんて素敵……」
屋敷につくと、大公殿下が私を出迎えてくださいました。
「ペルラ様、長旅ご苦労様です。屋敷の温泉で、ゆっくりと休んではいかがでしょうか?」
「温泉?! まぁ、すごい!!」
私は大公殿下に案内され、温泉に入ることにしました。
長旅の疲れにはとても温泉はとても気持ちよいものでした。
「今日はゆっくり休んで明日から領地を巡ると良いでしょう」
またまたお言葉に甘えて、柔らかなベッドでぐっすりと眠りました。
翌日、広い領地を巡り、魚を釣ったり木の実を取ったり、子ども達と遊んだりと、夢のような時間を過ごしました。
その夢のような時間が続いて一ヶ月、気になることがありました。
大公殿下は未婚な事です。
もう身を固めてもおかしくない年齢なのに独身です。
何かあったのでしょうか?
とは思うものの、聞くのは失礼だと思い聞かないことにしました。
一方その頃──
「ペルラは、ペルラはまだ見つからないのか!!」
エピカは配下達を怒鳴ります。
「申し訳ございません、国のどこにもペルラ様はいらっしゃらないのです」
「そんな馬鹿な!! ああ、こんな事ならあんな作戦をしなければよかった……!」
頭を抱えてうなだれるエピカにとある配下が大急ぎで近づきます。
「エピカ様、ペルラ様が消息不明になる前にリィ国のリグロ大公殿下と話していたと情報が!」
「何?! それならリグロ大公殿下に確認の連絡を──」
「ならぬ!」
「父上?!」
エピカの父である国王が否定しました。
「リィ国とは同盟国とはいえ、軍備力も全てあちらが上。大公殿下の機嫌を損ねた場合同盟破棄もありうるのだぞ?」
「しかしペルラが……!!」
「そもそも、自分を嫌っている娘を妻にしようとしたお前が悪いのだ、ペルラの事は忘れよ」
国王はそう言って部屋を後にした。
「諦められるものか……!!」
エピカは歯を食いしばり、机を叩いた。
「あー! 幸せー!!」
妃教育も、好きでもないお茶会も、夜会も出なくていい。
こうしてのんびり自然の中で過ごし、子ども達と遊んで暮らせるなんて夢のようです。
あの国から出て半年、私は大公殿下のお言葉に甘えて、領地の自然を満喫し、子どもらと遊び暮らす日々を送っています。
「もう、あんな所返りたくないわ、私一生ここで過ごすの」
さすがに大公殿下の客人のままという訳にはいかないから、どうにかできないか相談しようと思ったとき。
「ペルラ……!」
「……エピカ殿下?!」
見るのもうんざりな男、エピカ殿下が姿を現しました。
私に近づき手を掴み引っ張ります。
「離して!」
「帰るんだ私と! 君と私は結婚──」
「私の『妻』に何かようかね?」
へ?
大公殿下が姿を現すとそう言いました。
私はそこでそれが演技だと思い、頷きます。
「そうよ、私エグニマ様と結婚したの!」
「そ、そんな馬鹿な?!」
エピカ殿下が膝から崩れ落ちます。
表情は絶望、と言っていいくらいの血相の悪い顔です。
「そういうわけだ、エピカ殿下。お帰り願おう。でなければ同盟破棄も考えるとな」
エピカは従者達に連れられふらふらと帰って行きました。
私はふぅと息を吐き、大公殿下を見ます。
「大公様、有り難うございます」
「いや、その……ペルラさん。宜しければ私の妻になって欲しいのです」
はい?
どうやらアレは大公様の願望を言っていたようです。
びっくり。
ですが、大公様には恩がありますし、好意も抱いています。
「宜しいですよ。あ、でも私の家とは断絶してくださいね、私実家嫌いなので」
「勿論だとも、ああ、私の可愛い妻」
そう言って抱きしめられ、頬にキスされました。
結婚式が始まりました。
参列しうなだれているエピカ殿下。
でも同情なんてしません、私の十二年を返せと文句すらいいたくあります。
大公様はこういってくれました。
『結婚しても、貴方の自由にさせよう。鳥のように自由な貴方が私はすきなのです』
と、余計結婚したい欲を後押ししてくれたのが嬉しい限りだ。
「ペルラ・ジェンマ。エグニマ・リグロを生涯愛することを誓うか?」
「誓います」
「エグニマ・リグロ。ペルラ・ジェンマを生涯愛することを誓うか?」
「誓います」
「では誓いの指輪の交換を──」
互いにデザインした指輪を交換するのがこの国の最後の誓いだそうです。
綺麗な花と鳥の指輪をエグニマ様は私に。
私は月と鳥の指輪をエグニマ様に。
「ここに夫婦がめでたく誕生した、誓いの鐘を鳴らせ!」
ゴーン、ゴーンと鐘が鳴ります。
鳩が飛んでいきます。
私は来た道を戻る時、エピカ殿下をまた見かけました。
「あっかんべーしたい気分です」
「どうぞ、私のおてんばな妻。十二年間も無為にされたのですから好きなように」
「わぁ、貴方、有り難う!」
と言う事で、私はエピカ殿下に向かって思いっきりあっかんべーをしました。
「貴方のおかげで十二年無駄だったけどエグニマ様に会えたのだけは感謝してあげる、他は大嫌い」
というと、エピカ殿下は崩れ落ちすすり泣き始めました。
国王陛下は呆れた顔をしてますが──
それを育てたの貴方ですよ?
とは言わず、私はるんるん気分でエグニマ様と屋敷へ帰りました。
私はエグニマ様の言う通り、自由に過ごしつつも、エグニマ様に恩があるのでそれを返す為に領地のあれこれを伝えたり、領民との潤滑油の役割を買って出ました。
そして子どもも生まれ、エグニマ様に愛されながら幸せに過ごしています。
エピカ殿下はと言うと──
『誤解だったんだ! 君に振り向いてほしくて!』
会う度にそればかりなので、ついに私は言いました。
「今更そんなこと言っても知りません」
と。
がくりとうなだれ泣き叫ぶ殿下をエグニマ様は下がらせ、国王陛下は平謝り。
みっともないですね本当。
まぁ、でもエピカ殿下のアレが無かったらエグニマ様と出会い、庇護され、結婚するなんて無かったんだから、アレのおかげで私は幸せになりました。
なので殿下もお幸せに──
とは行かず、王位継承権が弟に渡り、エピカ殿下は幽閉されることになりました。
あーあ。
いつまでも前を向かないからこんなことになったんですよ。
私はエグニマ様に愛されて、幸せになりましたが、私を不幸にしようとした人は逆に不幸になりました。
実家も潰れたそうですし。
幸せは、あからさまに人を踏み台にしちゃいけないということですね。
「ペルラ」
「エグニマ様」
「何を考えていたのかね?」
「あの日、エグニマ様に領地に来ないかと誘われた日の事です」
「ああ、あの日ですか」
「あの日、貴方に会えて良かったです」
「私もあの日ストーリャ国の国王陛下に夜会を見てくださいと言われて参加して良かったです。貴方をこの手に抱ける幸せは何者にも代えがたい」
「愛してます、貴方」
「愛しているとも、我が妻」
口づけをします。
とても幸せな口づけ。
実はね、エピカ殿下が嫌いでしょうがなかったからファーストキスは貴方だったんですよ、エグニマ様。
私に自由をくれた人
私を愛してくれた人
貴方だけに、私の全てをあげましょう──
END
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