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勇気、そしてこれからもずっと
しおりを挟む「お、俺も一緒でいいの?」
「アディー殿下のDomなのですから、居てもいいんですよ」
「おお、客人よ。よくぞこの席を作ってくれた」
王様が姿を見せたので、時雨は頭を下げた。
「恐縮です」
「では……ロイ、アンネ、来なさい」
「はい、父上」
「はい、お父様」
この間会った少年──ロイと、少女が入ってきた。
「初めまして異世界からのお客様、私は第二王女アンネと申します」
「初めまして、アンネ殿下。私は時雨。十六夜時雨と申します」
「アディーお兄様のDomでいらっしゃるの?」
「その通りです」
「……素敵な御方、私もそんな御方に出会えるかしら」
「アンネ、きっと出会えるとも」
「アディー兄様が言うなら、そうですわね」
穏やかな表情でアディーが言うと、少女──アンネはにこりと笑った。
「ロイ、お前はもうSubは見つかったのか?」
「はい、見つかりました」
「大切にするんだよ」
「勿論です兄様」
穏やかな会話に、時雨はほっとした。
アディーの顔色もよく、また落ち着いているのも良かった。
──Collarつけさせてよかったよ──
と、思いながらアディーが家族と会話できている幸せな光景に時雨は目を細めた。
「アディー大丈夫か」
「ああ、大丈夫だ、ちょっと話疲れたよ」
「普段あんまり話さないからな」
「ああ」
屋敷に戻り、互いに着替えて、ベッドに横になる。
「アディー、口に『Kiss』」
時雨がそう言うと、アディーは穏やかな表情を浮かべて時雨の唇に唇を重ねた。
しばらくゆったりとしたキスを堪能すると、唇を離し、互いに顔やうなじにキスをしあって眠りについた。
「で、裸になって寝たりなんだりしてるけど、一線越えられないと」
「アディーのトラウマをひきだしたくないんだよ」
ミハイルにため息をついて時雨は言った。
「大丈夫です、そのうちどうにかなりますから」
「なるものかねぇ……」
楽観的な発言をするミハイルに、時雨はお茶を飲んでから息を吐いた。
その日の夜、入浴を済ませて寝室に向かうと、違う雰囲気のアディーが居た。
「シグレ……」
「どうしたアディー」
「シグレ、私を抱いてくれないか?」
「……いいんだな」
「ああ、もう過去にとらわれていたくないから──」
「……分かった、『Present』」
時雨の指示に従い、アディーは胸をはだけさせた。
時雨はそっと、アディーの体に触れた──
その夜、過去の傷を拭い去るように、時雨はアディーの体を優しく抱いた──
二人は繋がったのだ──
時雨の降る夜に──
「ロイ、また勉強を抜け出してここに来たな?」
「えへへ、兄様達と話する時間が好きで~」
「お前のSubに言いつけるぞ」
「やめてください、それだけは」
次期国王としての勉強の合間をぬってロイはアディーと時雨の住まいである屋敷に来るようになった。
「ロイ兄様、ここにいたの! ミハイルが探していたわよ!!」
「げ!?」
「ロイ殿下、お勉強から逃げるとはいけませんね」
「助けて兄様、シグレさん!」
「ロイ、私は次の王には馴れないんだ、だから頑張ってくれ」
「そういうことだ、次の王になるために頑張れよ!」
「そ~ん~な~!!」
ずるずるとミハイルに引きずられているロイと、その後をついて行くアンネを見てシグレは呟いた。
「俺ミハイルのこと、Domだと思ってたけど未だにDomに思えちまう」
「まぁ、行動が行動だからね……でもれっきとしたNaturalだよ」
アディーはカップに口をつける。
「シグレ」
「何だ」
「お前と出会えて良かった、お前のおかげで幸せになれたよ」
「俺もだよ、アディー」
そう言って二人はキスをした。
異世界に来て、予想外の事があったけれども、それで俺は良かったと思う。
大事な存在と一緒に穏やかに暮らすことができたからな。
この幸せが長く続き、俺とアディーがまぁ、色々イチャイチャしたりトラブル解決したりするのは別のお話ということで──
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