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君を守るため
どうして、誰も愛せないの? ~憎い神の言葉と今後~
しおりを挟むルリの一時的に城に戻すお試し期間中、ルリはグリースに依存し続けていた。
ヴァイスやアルジェントを避けていた、一時体調不良になった時はグリース以外は部屋に入るのも拒否している程だった。
そしてグリースはお試し期間を終え、ルリを再び隠れ家に連れて戻ると、何処か不安定なところは一気に落ち着きを取り戻した。
グリースとルリの二人だけの生活に戻ってしばらくたったがグリースは色々と実感した。
此処に居る方がルリは明るい少女のような愛らしい笑み等を良く見せる。
それがグリースの頭痛の種にもなっていた。
これでは、ルリがあの城で暮らすようになるのがどれだけ時間がかかるか。
ルリが自分を愛してくれればまた話は別なのだが、ルリは未だに誰もそういう意味で「愛して」はいない。
一番手っ取り早いのはルリが誰かを「愛する」ことなのだが、これは強要してどうにかなるものではないし、一回魅了や催眠を使ってみたが、眠りと違ってそういう精神操作に関する術は無効化されているらしくルリには通用しなかった。
ルリが誰かを「愛する」のが先か、城で暮らせるようになるのが先か、グリースには検討もつかなかった。
隠れ家の中でリラックスしながらスマートフォンを弄っているルリを見て、グリースはソファーに座って頭を抱えた。
――ああ、どうしたらいいんだこれから?――
考えれば考える程、頭が痛くなってくる事案に、グリースは投げ出したい気分だった。
それはできないと諦めのため息をつく。
ルリを強引に城に戻せば、自分への信頼が一気にマイナスになり、今後ルリが二人に何かされて追いつめられた時助けるということが難しくなる。
だが、あんまり長くここに置いておくといざ戻すという時には、ルリの立場が危うくなってる可能性も否定できない。
「ぐおおおお!! 盟約作らせてた頃の自分を殴りに行きたいマジで!!」
グリースは頭を抱えたまま、耐えきれなくなり、言葉を吐き出した。
そうすればこういう事態は絶対起こらなかったはずだ、だが、この事態が起きなければ人間の国の膿や癌を対処できなかったであろうことも予測できる。
グリースはますます頭が痛くなってきた。
「……」
グリースが深いため息をついていると、いつの間にかルリが隣に座ってグリースの服を引っ張っていた。
「……大丈夫?」
ルリが心配そうにグリースを見ていた。
「あ――……ごめん、ちょっと外の空気吸ってくる、ルリちゃんは出たらだめだよ」
「うん」
グリースは立ち上がり、リビングを後にして、隠れ家の外に出る。
扉を閉めると、グリースは顔をひきつらせた。
グリースは即座に扉が開かないようにした、間違ってルリが外に出てこない様に。
目の前には自分より体が大きい――ヴァイスが居たのだ、日中で眠っているはずの時間だというのに。
グリースは息を吐いた、そして不愉快そうな顔をしてヴァイスを見る。
「おい、ここには来るなと俺は何度も言ってるだろうが、お前は都合の悪い事は忘れる程度の脳みその持ち主なのか」
「……ルリは……どうしている?」
「……すっかり城で疲れた精神状態は元気になってるよ、まだ彼女はあの城にいることが怖いんだよ、そんだけのことをお前らはしたんだよ!!」
グリースはヴァイスを怒鳴りつける。
ここにいる時はほとんど見えないが、城に戻すとルリの傷ついた心がはっきりと見えたのだ。
自分が一日来なかっただけで心身に異常が出た。
ヴァイスとアルジェントが怖い、信用できないという気持ちが強い。
「……私はどうすれば良いのだ……」
「知るか!! 俺だって知りたいわ!! だが俺はルリちゃんの信用を裏切ることはしたくねぇから今すぐ城に帰すということは絶対しない!! それに俺もお前らの事信用できねぇもん!!」
ヴァイスの嘆く様な呟きにグリースはキレて言う。
「……それでもルリと会いたいのだ……」
「ここでは会わせられない!! ルリちゃんはお前がここを知ってるなんて知らない!! お前が来ると分かったらルリちゃんの精神の安定が一気に崩れる!! あ゛ー!! いいからもう城帰れ!! 来るな!!」
「……また来る」
ヴァイスはそう言って姿を消した。
「いや、だから来んなっつってんだろうが!! マジ話聞けこのクソ真祖め!!」
グリースは頭を抱え、居なくなったヴァイスに文句を言った。
グリースは気分転換ができないまま、隠れ家の中に入った。
頭が酷く痛む、多分ストレスによるものだろう。
グリースはげんなりした表情を浮かべたまま寝室に向かった。
ぼすんとベッドに倒れ込み、ふうと息を吐く。
「ルリちゃんいなかったらマジ鬱になってるわ畜生……」
眠気が来た、寝てはいけない、ルリの世話をしなければと思ったが眠気に逆らえなかった。
燃える、燃える何もかもが燃える。
吸血鬼も、人間も、老若男女問わず燃えていく。
憎い憎い、世界が憎い、お前たちが憎い。
憎い憎い、神が憎い、貴様が憎い。
忌み嫌われてきた俺が手に入れた幸せを奪った全てが憎い。
神がお前たちを愛しているならお前たちを滅ぼしてやる、世界を滅ぼしてやる。
「私は何も愛していない、もうとうの昔に全て見捨てたよ、好きなようにこの世界で生きあがき、勝手に希望を見出すといい。ああ、撤回するべきことがあった、私はお前を愛しているとも不死人の王グリース、私の可愛い子よ。ああそうだな不死人になった者ならまた愛してやってもいいかもしれないな」
ああ、畜生、神よ、貴様は本当に酷い奴だ!!
「グリース?」
ルリの声にグリースははっと目を覚ました。
「あー……ごめん、寝てた、もしかして何度も呼んだ?」
「ううん、うなされてたから声をかけたの」
「……そうか、有難う」
「どんな夢を見てたの?」
「……昔のさ、戦争の頃に嫌な真実を知った時のね」
「……そう」
ルリは深く聞くことはしなかった。
グリースにはそれがありがたかった、正直「神様」からそんなのを言われたこっちの身としてはたまった物ではなかったのだ当時は。
クソみたいな神様が作ったろくでもない世界で自分は生きている。
死ぬこともできないまま。
不死人を増やさないそれどころか減らすことに不満を覚えたのか、クソみたいな神様はルリを「不死人の女王」基「不死人の母体」にしてしまった。
クソみたいな神様は本当面倒ばかり起こしてくれる、いっそ見捨てたなら吸血鬼も人間も自分も含めて世界を滅ぼしてくれれば良かったのにと思わなくもない。
グリースは起き上がって、ルリの頬を撫でる。
ルリは手にすり寄るような仕草を見せる。
自分に信頼を寄せている、が悲しいことに「愛」してはくれていない。
それは別に構わない、だが誰も永遠に「愛」さないまま、それでいて「愛」を求められたらルリの精神はきっと軋むだろう。
それくらい、「愛」を要求されることが彼女には重荷になっている。
だからグリースは「愛している」ことを伝えることはあっても、「愛」を返すことを要求しなかった。
グリースはルリを抱きしめてベッドに再び寝っ転がる。
ルリはきょとんとした表情をしてから、ふにゃりと笑みを浮かべて腕の中で安心しきった表情を浮かべていた。
しばらく安心したような表情を浮かべていたが、ふっと表情が曇る。
「……どうして私、グリースの事を『愛』せないんだろう……グリースを選んでたらきっと幸せなのに……」
困惑した様に言うのを見て、グリースはどうしたものかと思った。
確かに、今のルリにとってグリースの事を選べば、自分を縛り付けている物全てから逃げることができるが、逆を言えば全てから狙われかねない、だからルリの言う幸せになるのは時間がかかる。
ルリが立場などを考えて安全なのはヴァイスを選ぶのが一番手っ取り早い。
けれども、ヴァイスの事を恐れ、怖がっているルリにそれを選べというのは酷なのも理解している。
非常ににっちもさっちも行かない状態に今なっているのだ。
グリースは腕の中のルリの髪を撫でる。
不死人になってからの体質なのか、それとも元からの体質なのか分からないが、今の彼女は精神面が肉体の状態に非常に出てきやすい。
幼児退行の時は、精神が未成熟ということでフェロモンは控えめ、でも肉体は成熟していたので発情は起きたが、また比較健康的だったためか肌質や髪質も良かった。
記憶喪失という設定の人格の時は、精神も肉体もちょうどよかった、肌質も、髪質も健康、発情は期間が短かったため起きなかったが、フェロモンは普通だった。
そして、グリースが連れてくる前、精神は不安定、肉体も不安定、肌質も手入れされているのに非常に悪く、髪質も同じく手入れされているのに傷んでいた。
気になるのはフェロモン、精神も肉体も良くなってないのに、酷く強く体から出ていた。 ついでに、悪影響を与えかねない作用があるものも。
自分がいる時は中和されていて、あの二人も反応はその作用に支配されることは無かったが、グリースが居なくなった途端悪影響を受けた。
今はルリが飲んでいる薬の効果で、悪影響を受けることはまずないが、あの二人が自分の意思でルリを襲ったら流石にグリースとしてはぶちギレ案件だ。
さすがに今はしないだろうが、ルリが城に戻った時起きないとはいいがたいレベルの信用度なのでなんとも言えなかった。
グリースは起き上がり、ルリの頬を撫でる。
「ちょっとやることがあるから」
「……薬を作るの?」
「そう、一応やっとかないとね」
グリースはそう言ってリビングに向かいテーブルを一瞬で消毒すると器具と必要な物を出して開発を再開した。
ルリが不安そうに見つめているのをグリースは感じた。
どう転んでもこの薬を開発しない限り、ルリはずっと薬の副作用で面倒な思いをするのだ。
自分がいる時は飲ませないというのもあるが、薬は急に止めると不味い、だから今開発しているあの二人に投薬する薬を開発しなければならない。
今できることをするしかないのだ。
未来予知だけは神は何者にも与えてくれなかったのだから。
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