上 下
113 / 238

声を奪う~失われない為に~

しおりを挟む



「声が奪われる?」

 依頼人から聞いた依頼内容に零は首をかしげた。

「はい、声優や、歌手だけでなく、その卵の声が奪われる事件が頻発しているんです」
「声帯に異常は?」
「いえ、何者かに襲われて目が覚めると声が出なくなっていたと文章で証言するのです」
「……確実に異形事件だな、分かった、直ぐさま犯人捜しに向かおう」
「有り難うございます」

 依頼人が探偵事務所から出て行くと、零はふぅと息を吐いて呼ぶ。


「荒井、レオン、ニルス」
「事情は聞いた」
「声だけを奪う異形……なのでしょうか?」
「案外犯人は人間かもしれないよ? 異形の力を使った」
「どちらにせよ不味い、ちょうど、今人気の声優ARIKAの護衛も入った。彼女の周囲を探るぞ」

「鬼が出るか、蛇がでるか」

 ニルスはくくっと笑った。
 レオンと荒井はソレを不快そうにみていた。
 零はそれを無視した。


「護衛がついてるな」
「大丈夫そうじゃ──」

 護衛がついている女性を見て、零は安堵の息を吐いた。
 が、次の瞬間空間が暗転した。

「な、何⁈」
「レオン! 荒井!」

 レオンが何かをけしかけ、荒井は黒い影からさらに黒い手を伸ばし、女性を保護する。

 光が戻る。
 手は消え、女性が座り混んでいる。

「大丈夫ですか?」
「は、はい」

 倒れ込んでいる護衛達を起こす。
 大丈夫か?

「──」
「──⁈」

 護衛の声が奪われていた。

「レオンは?」
「犯人を追っかけてる所だ、俺達も行くぞ」
「だが、この人達を放っておけない」
「ちっ、俺が見てやる、ニルス、変なまねすんなよ」
「しないとも」
「どうだか」
「頼んだぞ」

 GPS追跡機能を使って、レオンの後を追うと、一軒家の前に来た。
 鍵が開いている。

 零は用心しながらニルスと共に部屋に入った。

「やっほー、慎次の代理できたよー」
「フエ」

 フエが現れほっとすると、怒鳴り声が聞こえた。

「貴様の欲望で声を奪われた人間はどうなる!」
「私のコレクションになったことを誇ればいいさ」

 部屋に入ると無数のレコードがあった。
「これ、全部、声? か?」
「貴方の声も美しい、是非私のコレクション──」
「へぇ、これ、壊せば持ち主に戻るんだ」

 フエがレコードをもって言った。

「止めろ触るな!」
「やだね」

 ガシャンガシャン!

 レコードが砕け散り、風に待ってキラキラとした光りがどこかへ消えていった。

「止めろおおおお!!」

 男が静止しようとするが、フエは止めずレコードを全て砕き続けた。

 電話が鳴る。
「はい、探偵事務所の……声が戻った、本当ですか。それは良かった」

 犯人だった男は、体を無数の楽器がくっついたような歪な姿に変えた。

「へー音楽の異形ねぇ」

 フエがまじまじと見る。

「貴重かもしれないけど──」

「零さんの声を取ろうとした時点で重罪だわ」

 黒い手が現れめきゃめきゃと異形の体を圧縮する。
 悲鳴のような音がこぼれるが、フエは気にせず、バキンと破壊した。
 異形は消滅した。

「異形の仕業だったと報告せねばな」
「そだねーお願い」
「しかし、声を集めて何をする気だったんだ?」
「わかんない」
「其処までは聞いてません……」
「集めたかったんじゃないかな、消える前に、死んでしまったら二度と声は聞けなくなるからね」
「バカバカしい、それで声を奪われた側はたまったものではない」
「確かに」

 零達はその場を後にした。




 探偵事務所の二階の自室で、零は珍しくアニメを見ていた。

「珍しいなどうした」

 お茶を出した荒井はそう問いかけた。

「確かに、声優や歌手、その卵は凄いなと思っただけだよ」
「そうか」
「そうだ」

 零はずずっとお茶を飲み、息を吐き出した──





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

処理中です...