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声を奪う~失われない為に~
しおりを挟む「声が奪われる?」
依頼人から聞いた依頼内容に零は首をかしげた。
「はい、声優や、歌手だけでなく、その卵の声が奪われる事件が頻発しているんです」
「声帯に異常は?」
「いえ、何者かに襲われて目が覚めると声が出なくなっていたと文章で証言するのです」
「……確実に異形事件だな、分かった、直ぐさま犯人捜しに向かおう」
「有り難うございます」
依頼人が探偵事務所から出て行くと、零はふぅと息を吐いて呼ぶ。
「荒井、レオン、ニルス」
「事情は聞いた」
「声だけを奪う異形……なのでしょうか?」
「案外犯人は人間かもしれないよ? 異形の力を使った」
「どちらにせよ不味い、ちょうど、今人気の声優ARIKAの護衛も入った。彼女の周囲を探るぞ」
「鬼が出るか、蛇がでるか」
ニルスはくくっと笑った。
レオンと荒井はソレを不快そうにみていた。
零はそれを無視した。
「護衛がついてるな」
「大丈夫そうじゃ──」
護衛がついている女性を見て、零は安堵の息を吐いた。
が、次の瞬間空間が暗転した。
「な、何⁈」
「レオン! 荒井!」
レオンが何かをけしかけ、荒井は黒い影からさらに黒い手を伸ばし、女性を保護する。
光が戻る。
手は消え、女性が座り混んでいる。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
倒れ込んでいる護衛達を起こす。
大丈夫か?
「──」
「──⁈」
護衛の声が奪われていた。
「レオンは?」
「犯人を追っかけてる所だ、俺達も行くぞ」
「だが、この人達を放っておけない」
「ちっ、俺が見てやる、ニルス、変なまねすんなよ」
「しないとも」
「どうだか」
「頼んだぞ」
GPS追跡機能を使って、レオンの後を追うと、一軒家の前に来た。
鍵が開いている。
零は用心しながらニルスと共に部屋に入った。
「やっほー、慎次の代理できたよー」
「フエ」
フエが現れほっとすると、怒鳴り声が聞こえた。
「貴様の欲望で声を奪われた人間はどうなる!」
「私のコレクションになったことを誇ればいいさ」
部屋に入ると無数のレコードがあった。
「これ、全部、声? か?」
「貴方の声も美しい、是非私のコレクション──」
「へぇ、これ、壊せば持ち主に戻るんだ」
フエがレコードをもって言った。
「止めろ触るな!」
「やだね」
ガシャンガシャン!
レコードが砕け散り、風に待ってキラキラとした光りがどこかへ消えていった。
「止めろおおおお!!」
男が静止しようとするが、フエは止めずレコードを全て砕き続けた。
電話が鳴る。
「はい、探偵事務所の……声が戻った、本当ですか。それは良かった」
犯人だった男は、体を無数の楽器がくっついたような歪な姿に変えた。
「へー音楽の異形ねぇ」
フエがまじまじと見る。
「貴重かもしれないけど──」
「零さんの声を取ろうとした時点で重罪だわ」
黒い手が現れめきゃめきゃと異形の体を圧縮する。
悲鳴のような音がこぼれるが、フエは気にせず、バキンと破壊した。
異形は消滅した。
「異形の仕業だったと報告せねばな」
「そだねーお願い」
「しかし、声を集めて何をする気だったんだ?」
「わかんない」
「其処までは聞いてません……」
「集めたかったんじゃないかな、消える前に、死んでしまったら二度と声は聞けなくなるからね」
「バカバカしい、それで声を奪われた側はたまったものではない」
「確かに」
零達はその場を後にした。
探偵事務所の二階の自室で、零は珍しくアニメを見ていた。
「珍しいなどうした」
お茶を出した荒井はそう問いかけた。
「確かに、声優や歌手、その卵は凄いなと思っただけだよ」
「そうか」
「そうだ」
零はずずっとお茶を飲み、息を吐き出した──
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