53 / 238
異形の子は怒る~人を傷つける酔っ払いには罰を~
しおりを挟む「零さんおかえー……どうしたの⁈」
額から血を流している零を見てフエは声を上げる。
「何、久方居酒屋に入ったらたちの悪い酔っ払いに絡まれてな、それで酒瓶で殴られた」
「他は⁈ 怪我してない」
「殴られた時倒れて体を蹴られたがそれくらいだ」
「……その酔っ払いは?」
「警察に連れて行かれたよ、いいかフエ余計な事はするな」
「ヤダ」
零の言葉を拒否して、フエは姿を消した。
「全く、余計な所を見られたな、あまり騒動をおこさないで欲しいのだが……」
額のガーゼを取り替え、血を拭い零はふぅとため息をついた。
「ったく覚えてねっつーの」
男は悪態をついた。
「酔っ払ってて殴った事なんか覚えてる訳ねーよ」
『悪酔いする輩はこれだからタチが悪い』
「誰だ⁈」
留置所で叫ぶが声も何も来ない。
「幻聴か」
『幻聴じゃないよ、現実だよ』
部屋が不気味な肉壁に囲まれていく。
「お、おい、誰か! 誰かいないのか⁈」
『少しは痛い目を見るといい』
声はそう言うと、肉壁は男をかじり始めた。
「ぎゃあ! ひぃい助けぎゃああああ‼」
男の悲鳴だけが木霊した。
「『留置所で、居酒屋で暴行事件を起こした被告人(35歳)が翌朝血まみれで重傷の状態で見つかり病院に運ばれる』……か」
零はふぅとため息をついてじろりとフエを睨む。
「フエ?」
「だって彼奴反省してなかったもん!」
そう言ったフエに零はデコピンをした。
「あいた!」
「だからと言ってやり過ぎだ。私は死んでいないのだぞ?」
「頭の検査した⁈」
「した」
「出血とかは⁈」
「ない」
「硝子の破片は⁈」
「全部取った」
「うーでもでも!」
「あまり私にかまけていると柊がふてくされるぞ、帰れ」
「むぅー!」
柊の名前をだされて、フエは頬を膨らますとその場から立ち去った。
「漸く静かになった……」
零はそう言って新聞をしまった。
「むぅ」
柊の頬をもちもちしながらフエは不満そうな顔をしていた。
「フエ……どうしたんだ?」
「柊さんは関係ないよ」
と言って抱きしめてベッドに押し倒した。
「……あの探偵か」
「バレちゃったか」
「分かるよ、君の事だから」
柊は少し寂しそうに言った。
「零さんも、探偵じゃなくてここでずっと保護したいのが私達の望み、でも零さんの望みは異形の事件を一つでも減らすこと」
「……」
「だから我が儘を聞いてるんだけども、零さんは無茶ばかりするからなぁ」
「無茶したのか?」
「正確には自分の体を大事にしない」
「どんな風に?」
「居酒屋で頭酒瓶で殴られたのになんでもないような顔をしてるのに腹が立つ!」
「……」
「柊さんがやられたら私即座にそいつ殺しちゃうよ⁈」
「そうか」
柊は少し嬉しそうに笑う。
「なのに零さんは、余計な事はするなって言うの、そんな奴死んだって構わないのに」
「ああ、そうだな」
「ね、でしょう?」
柊はフエの頬を撫でる。
「フエ、優しいね、君は」
「ありがとう、柊さん」
フエは柊にキスをした。
「マヨイ、傷は塞がったからもう舐めなくていいぞ」
「う!」
「分かった分かった、次からはもっと早く連絡する」
フエから事情を聞いたマヨイが零の所を訪れ、傷の治療に当たっていた。
もう大丈夫だと言っても傷があった場所をぺろぺろと舐めるマヨイに、零は内心頭を抱えていた。
異形の子等にとって花嫁は大切な存在。
だから本当は閉じ込めておきたい、だが花嫁がそれを望まないならそうするしかない。
異形の子等は花嫁に嫌われるのが嫌だから──
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
召喚術師はじめました
鈴野あや(鈴野葉桜)
恋愛
【VRSLG×乙女ゲーム ファンタジー恋愛小説】
二○七○年。時代の流れに合わせて、子供から大人まで遊ぶゲーム機も進化し、ついには夢のまた夢とまで言われていたVRMMOまでもが実現した。もちろんVRMMOだけではない。オンラインゲームが苦手な人用向けにもVRSLGというオフラインであり、一人プレイ専用のゲームも開発された。
主人公鈴もVRSLGに魅了された一人であり、一年前からVRSLGの乙女ゲームにはまっていた。
そんなある日のこと、鈴は電車にはねられた死んでしまう。
しかし目を覚めしてみれば、そこは死後の世界ではなく、はまっていた乙女ゲームの世界だった……。
※「小説家になろう」のムーンにも掲載しております。
本物の聖女が現れてお払い箱になるはずが、婚約者の第二王子が手放してくれません
すもも
BL
神狩真は聖女として異世界に召喚されたものの、
真を召喚した張本人である第一王子に偽物として拒絶されてしまう。
聖女は王族の精力がなければ生命力が尽きてしまうため、王様の一存で第一王子の代わりに第二王子のフェリクスと婚約することになった真。
最初は真に冷たい態度を取っていたフェリクスだが、次第に態度が軟化していき心を通わせていく。
そんな矢先、本物の聖女様が現れ、偽物の聖女であるマコトは追放されるはずが──
年下拗らせ美形×お人好し不憫平凡
一部嫌われの愛され寄りです。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
志麻友紀
BL
「私、男ですから」
女子として育てられ、王の十三番目の愛妾としての御披露目の席で、複数の男性と関係したあげく不義の子を身籠もったと糾弾されたレティシアは、自分が男だと真っ平らな胸を見せて、人々を驚かせた。
そこで突如、起こった公爵の反乱。二十歳なのに子供の姿のままの王のロシュフォールを守って、レティシアは奮闘空しく追い詰められたが、そのロシュフォールがいきなり大人の美丈夫になって公爵を倒し、危機は脱せられた。
男の姿に戻り、王の参謀となったのはいいけれど、ロシュフォールが「愛している」と求愛してきて?
※この世界の人間には獣の耳と尻尾がついてます。
※第二部から男性妊娠要素はいります。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
[R18] 引きこもり令嬢が先生になりました。
あみにあ
恋愛
外出するのも、貴族の付き合いも苦手。
でも魔道具の研究は大好きなんだ。
だから屋敷出ず、引きこもる毎日。
母の小言はうるさいけれど、何度も聞いていれば慣れてくる。
だけどそんな私を見かねて、ある日友人に無理矢理に連れていかれた夜会。
明け方に目覚めると、私の隣には知らない男が寝息を立てていた。
なぜだかわからない、夜会での記憶はとても曖昧で……。
動揺し慌てふためく中、私はその場から逃げ出した。
王の婚約者である姉に縋り付き、抱かれた事実を両親にばれぬよう画策してもらうと、私はまた部屋へ引きこもったんだ。
トラブルにも巻き込まれることなく穏やかに過ごしていたある日、引きこもる私にしびれを切らした母から、ある選択を迫られた。
「教師になるか婚約者を作るか、選びなさい」
そして教師を選んだ彼女は家を出て働く事になった。
でもその学園は男子学園で……。
引きこもりな令嬢が恋に抗い奮闘するお話です。
表紙イラスト:玉子様(@tamagokikaku(Twitter)》
(玉子様に表紙を描いて頂きました、美しいイラストをありがとうございます!)
※107話で完結。
※共通のお話から、複数のルートに分かれます。
※無理矢理な性的描写がございますので、苦手な方はご注意下さい。
※R18にはタイトルへ※印を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる